アメリカンな日々(その2) | Nagoya Double-Reed Ensemble

アメリカンな日々(その2)

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 さて、会場であるニューヨーク大学へ戻り、レジストレーション(登録)を済ませる。分厚い冊子とバッジなどが入ったトートバッグがもらえる。

IDRS

 バッジには名前と[Dairy performer],それに参加日が書かれてある。私は全日参加なのでT,W,Th,F,Sと書かれてある。火曜から土曜まですべてのコンサートを聴くこと、すべてのワークショップ/講義への受講が可能という意味だ。で、行った早々中国人(の方と思われる)の演奏するブリテン《テンポラル・ヴァリエーション》を聴き、あまりの素晴らしさに圧倒される。

 このコンサートではプロジェクターを利用し、1930-45のナチス政権の画像を演奏に合わせつぎつぎと見せるというものだった。良く知られているようにB.ブリテンは"良心的兵役拒否者"で、この楽曲は当時世の中全体が右傾化(今の日本みたいですね)し、ファシストらが台頭していく不穏な様子を懐疑とアイロニカルな調子で表現した、オーボエとピアノのための変奏曲である。当然テンポラル[Temporal]とは「(今の不穏な)時勢の」という意味である。わたくしだーいしも大学時代の卒業演奏(一般大学の卒業論文にあたる)にこの曲を選んだが、その日の中国人プレイヤーの演奏はただ上手いだけでなく、曲の内面に肉薄するよう考え抜かれた強弱、音色、テンポ、またモジュールトーンを組み込み重音も盛り込まれた、非常に工夫されたものであった。さらに精緻に重ね合わされたたくさんの画像のもつ鮮烈さとあいまって、圧倒的な説得力を放ち、終わってわたくしはしばらく席を立てなかったくらいである。写真を撮ってないのが惜しまれる。


 さて、コンサートはリサイタルばかりでなく、合奏も行なわれた。今回わたくしと宮澤さんはこのIDRS2014のために新たに作曲された作品を初演するイベントにも参加した。朝の練習がなくなったのはこれである。くだんの凄いコンサートの後、夕方からその新作初演のためのリハーサルは行なわれた。
 ところで「ドレスリハーサル」と書いてあったのでわたくしてっきり衣裳付けのリハーサルだと思い、練習なのにスーツで出かけようとして宮澤さんに爆笑される。
「あのさ~、まぁ実際に衣裳付け練習のことを言う時もあるけど、フツー考えたら今回はただの"通し練習"って意味ってわかるじゃん」
ショックはひ?そうなんですか!?
「あー可笑しい~、このエピゾードは帰国したらニョロニョロ日記に書くように」
泣きはひ!


というわけで書きました怒る

 「夏ヴァテとわたくし」で書いたように、今回自分はオーボエを携行せず、オーボエダモーレとイングリッシュホルンを持っていった。例のダニエルさんにパートを替えてもらう件は首尾よく通り、EH2ndを4曲、d'am2ndを1曲が私の担当となった。オーボエからコントラファゴットまで計30人ほどの大合奏だ。

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我らイングリッシュホルンチームは4人おり、右からジャン(FRC)、モイーズ(BRZ)、タダシ(JPN)、サラ(UK/SPA)だ。参加者の大半はアメリカ人なのだが、偶然にも自分のチームは4人とも非ネイティヴだったので、有り難いことにゆる~い英語で会話は進み、すぐにお互い仲良くなった。

 85分くらいリハーサルをやったが、結構エキサイティングだった。翌日本番をやったが、今日初めて世に響く曲を皆で産み出す、というのはなかなか面白いものだと実感した。

 ところでわたくしダモーレは2ndだったのだが、なぜか冒頭にわたくしのパートのみに結構長~いソロがあり、自分の楽器でないこともあってドキドキしながら吹いた。今回はマイ楽器ではなく、ヨーゼフの新型ダモーレをお借りして演奏することになっていたからである。ソロがまあまあ上手くいったことや、楽器の色・素材が明らかに違うので、終わってからいろんな人に質問攻めにあう。ほんでもかならず皆さん語尾にboy,とつけてくださるのだが...
「How nice solo was!, boy「What a beautiful d'amore sound, boy!」「Is that Baroque d'amore, boy? No? What's the material,boy?」
とかなんとか(笑)

 まあホメられてるようなのでとりあえずアルカイックスマイルを保ちながら黙っとこうとしていたが、あんまり皆さんがボーイボーイ連発するので、見かねたと思われる宮澤さんが「あなたたち、こいつ本当はいくつか知ってるの?彼はね..」ドイツ語でバラし出した。ちょっと宮澤さん!(笑)


 ともあれ、新作初演はとても楽しかったです。EHチームの他の3人とは「来年東京で絶対会おうね!」と誓い合って終えた。来年のIDRSは東京・代々木で開催される


 さてコンサート以外にもさまざまなイベントが同時進行されていた。

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写真は楽器店のブース(大盛況)や、ワークショップの様子。右下はコントラファゴット2重奏のアヤシい演奏会であった。

今さらだが、日本であまり人気のないメーカーがアメリカでは大きなシェアを持っていたり、逆の状態もあるのが新鮮だった。
また、リードの作り方もアメリカンスタイルは相当違うので、だーいしは今回リード作りのワークショップに参加。さして大きくない部屋に、わたくしふくめ80人ものオーボエ吹きが着席し開始。自分としてはアメリカンスタイルのリード作りの削り方の基礎を学びたかった。が、開始直後、講師の先生が「今日はワークショップというより、質疑応答にしましょう」と言いだし、だーいしマジっすか的な状況にガクブル。結局、リード作りの技術的なことはまったく分からず、講師VS受講生の高度でオタク的な英語をチンプンカンプン2時間ヒアリングするハメに。

唯一聞き取れたのが

受講生:「私は○○社のメイキング・マシーンを使っているのだが、正直微妙だ、あなたは率直なところどう思うか」

講師:「それはデリケートな問題だ。私が明言するのは避けよう」

受講生:「それはなぜだ」

講師:「それは私も使っててビミョーだからだ」

一同爆笑。


これだけだった。ああ、英語もっと勉強しておくんだった...。(続く)