つづきです
僕たちが一番乗り。個室等はなく(殆どの山小屋に個室は無い)、大部屋に案内される。
うわぁここだ!と相方とニッコニコ。この入り口!田部井先生、ルー大柴氏が入っていって、低く出てる柱に頭をぶつけないよう注意されるのだ。
と思っていたら、
柱あるから頭ぶつけんよう気いつけてな。一番奥から場所取ってやったらええわ
と主人。
大部屋は真ん中が通り道になっていて両側に上下二段になった雑魚寝の寝床が6つほど続く。奥は平に両側4つの雑魚寝床。
タタミ一畳分ずつ仕切りとなり、布団と毛布がたたんで置いてある。この一畳分が、言わば自分の陣地、寝床となる。
窓のある一番奥からという事は…おっ!正に田部井先生が寝たところではないか!相方と右側一番奥から二つ仕切り分並んで寝床とする。
食堂に行きひと息。温かいお茶と、かりんとうを頂く。古くからある山小屋なのでボロボロな感じがたまりません。古くてちょっと汚くて、しかしなんとも言えない可愛らしさ。
外は凄まじい風が吹いている。時折切れるガスの合間から景色が。小さな花たちが揺れている。
食堂の奥は厨房になっていて20代後半くらいの若い男性スタッフも一人。
しかしこの静けさ、時の流れ方。
しばらくすると、中年の男性二人組が。さらに50代くらいの夫婦。そして単独行の中年男性一人。ひょっとしたら僕らだけになるかと思いましたが来ました。
ハーピン氏は背が高いのであぶないなぁ、と思ってたら
案の定、何度か頭をぶつけたそうです。
そうそう、ウェッティ氏改めハーピン氏なのです。
今後ともご贔屓に~。
私の周りでは「ウェッティのほうが良かった」との声続出なのですが
こればっかりはもう、慣れていただくしかなく。
かくいう私が一番慣れていないやも知れません。
@13時/食堂で昼飯。
大勢おる時はいかんけど今日はいいよ。とご主人のお許しを頂き持参のシングルバーナー(ストーブ)で昼飯。
午後になり外はさらに厳しい天候に。そんな中を、もう一人、30才前後くらいの若い単独行の女性一人。どうやら僕たち合わせて以上の8人が今日の泊まり客のようだ。
ゆっくりゆったりと時が流れます。
悪天候の中、木曽駒山頂へ、そして頂上木曽小屋に到着。
一番乗りした僕たちの後、男性二人組、夫婦一組、単独行男性一人、同じく単独行女性一人がやってきて、少しは賑やかになるかなぁと思ったが静かな静かな山小屋。
皆さんそれぞれが挨拶を交わし、どちらから?残念な天気ですね、など軽く会話。
相方と単独行の女性は食堂で山話し。僕もちょっと混ぜて頂き、その後仮眠。
外も寒いですが小屋の中も冷えます。オジサンたち(僕もたいがいオジサンですが)は既に仮眠中。とても仲の良い夫婦も仮眠中だ。
外は時折落ち着きを見せる事もあるが、雨、霧、風が相変わらず。
小一時間仮眠して食堂へ。時間の経つのがとにかく遅い。如何に都会、いや、何でも揃う下界暮らしが忙しないかが良く分かる。ここでは一分一秒が、リアルに一分一秒。
廊下の本棚にある古い山雑誌を何冊か選んで食堂で読み耽る。70年代、80年代の『山と渓谷』『山と渓谷JOY→通称ヤマケイJOY』。
山と渓谷が古くからあるのは知っていたが、ヤマケイJOYもこんな昔からあったのか。
………
結構な時間、読み耽っていた。
と思い食堂出入り口の上にある時計を見てみると、15時10分。
………読み耽ってからたったの20分ばかり。感覚的には1時間以上、90分近く経ったかと思ったが。時間感覚に割と自信のある僕だが、余りのズレにちょっと驚きだ。
この本来の時間の流れ、在り方を僕は忘れてしまっている。幼少の頃を思い出す。あの頃はこんな風に、夕暮れが来るまでの一日の途方もない長さをひしひし感じていた。
@17:00
夕食
ご主人と、若いスタッフがもう一人増えて3人で夕食の仕込みをしていた。
ぞろぞろと仮眠していた方々も集まって、一つのテーブルに固まり夕食。
ご飯(お代わりオッケー)、味噌汁、肉じゃが、お漬け物、その他サラダなど小品が少々。
そうそうこのメニュー。田部井先生もルーさんも食べてました。
ああ美味い。こんな単純な料理が、ああ~美味い!世の中にこんな美味しいものがあったのか。こんなに普通、普通過ぎるのに、ああ~美味い!
もちろん、遠慮なくご飯をおかわり(僕だけでしたが)。
ご主人も交えたりしながら皆さんと談笑しながらの夕食。
沢山貼ってある山の写真を見ているとご主人がいろいろ話しを聞かせてくれた。
明日はもう晴れない感じですね。御来光が見たかったなぁ。
うんうんと窓の外を見ながらご主人。
……だいたいこんな天気の時は、行方不明とか、遭難者が必ず出よるな。
高山での雨模様は、下界でいうところの台風直撃のような様相。これが普通らしい。だからご主人も若いスタッフも別段普通にしている。
山馴れしていると思われる男性二人組も別段普通の感じ。
僕たちは初めてのアルプス山行(昨年旅行で行ってトレッキングした八ヶ岳や乗鞍岳は数には入れません)だからこの天候は残念だなぁとは思うが、しかしとても良い経験になった。それに、こんな悪天候でも道中はとっても楽しかったりしたのだ。
しかしこれが普通の雨模様天気なら、台風直撃の時の山はと一体どんなものか…。
山の本によると、吹き飛ばされないように仲間と組み合った腕が、或いは岩にしがみついた腕が本当に千切れそうになるという。
男性が大きな重いザックを背負ったまま吹き飛ばされてコロコロと転がる、テントの中にいてテントごと飛ばされるという。
さらに冬のブリザードとなるともっともっと恐ろしい。
そんなに怖い事がある山に何故登るのか?他にも恐ろしい事危険な事は文字通り山ほどある。それに第一、自ら進んで、しんどいところにわざわざ出向いている。
何故ハーモニカを吹いてる?何故そんなにブルースが好きなのか?
言葉では表しようのない、理屈よりもカラダ(五感)が感じるかけがえの無い一瞬一瞬がそこにはあるのだ。
僕が詩人だったらなんとか言葉に出来たかも。ボキャブラリーの無い凡人の僕には、カラダが感じる事で、考える事ではないとしか言いようが無い。
古い山雑誌をまた読み耽る。
まだ夜の8時前だというのに眠い。元々寝つきが悪い(登山をやり出してから最近は割と良いが)上、寝床が変わるともう寝つきが悪いどころか眠れなかったりするので山小屋泊まりはちょっと心配だったが、何の問題も無く眠れそうだ。
昼下がりに仮眠した時、何方かがいびきをかいていたので、耳栓をして眠る。持ってきといて良かったです。
うとうとした頃、灯りが消えて小さい小さい豆球だけが灯る。
あぁ、消灯時間の8:30かぁ…
そのまま就寝。熟睡。
△△△
@登山1日目
(登りの行程)
最標高:
木曽駒ヶ岳(2956m)
標高差:334m
全歩行距離:
約5.5km
全歩行時間:
4時間(休憩含む)
■□■□■□■□■□
中央アルプス・木曽駒ヶ岳山行記、8/15(日)・最終日。
昨日、頂上木曽小屋に到着、一泊。
@4:00
起床。程なくして相方も起きる。どうやら僕たちが朝一番に起きたようだ。山小屋の従業員方々はどこで寝ているんだろう。
ご主人たちはもう起きてるでしょうね。
外は雨模様。風もきつい。
ひょっとして朝になったら…と抱いていたほんの僅かな希望は雨に消え、御来光を拝むのは1000パーセント断念。
まだ暗い食堂に濡れた雨具やらを持ってきてタオルで吹き、着込む。少々湿っている分は自分の体温で"着乾かし"。
そうこうするうちにパッと灯りもつき、小屋内が明るくなる。皆さんも続々起床。
@5:00
朝食
ご飯、お味噌汁、茹で卵、ふりかけ、味付け海苔、サラダ、焼いたハムが二切れ、えっとメインのおかずはなんだったかな?
すいません、忘れました。
こういうのも山行手帳にメモしておくか、写真を撮っておかないといかんですな。
いや実に美味い。夕食同様、何とはないのに、美味い。
やはり僕だけご飯おかわりでした。
天候の様子を見て、暫し待機か、最悪の天候になったらもう一泊か、などいろいろ想定。
しかしこれはあくまで山の雨模様。本当の悪天候ではない。ならば早いうちに出発だ。
一夜を共にした他の登山客たちも各々準備。それぞれ挨拶を交わす。
ではまた。
お気をつけて。
どのルートで?
じゃまた下(千畳敷)で会うかも知れませんね
お気をつけて。
ご主人お世話になりました。
男性二人組が出発、続いて単独女性、続いて夫婦と僕たち。
単独男性はまだ少しゆっくりしておられたみたいだ。
山小屋玄関口で記念撮影。
なんだか寂しい。
山小屋泊まりの楽しさだけでなく、それも含めてこの山行も終わりか、後は下山かと思うと無性に寂しい。
小屋でのあの、あまりにゆっくりとした時の流れも、今思えばあっという間のように感じる。
予定していたスケジュールは、駒ヶ岳山頂に着いたあと馬の背と云われる尾根を歩き少し下って農ヶ池まで散策。小屋に帰って周辺散策。どこもお花畑だ。そして絶景。雲上の眺望。夕日も見て夕食後は小屋玄関横のテラスで満天の星空を味わう。
翌朝はもちろん御来光。雲海から昇る朝日はさぞ神々しかったに違いない。
そして下山途中に険しい宝剣岳(2931m)に挑み、そのまま三ノ沢岳(2846m/さんのさわ)に寄り、極楽平を経て千畳敷へ――。
といった具合のはずだったが、これはあくまで天候が良ければの話し。
残念だったが、とても良い経験が出来た。それにこんな天気でも全てがケタ違いなアルプスは楽しい!
@6:35
朝食後、ストレッチ、準備を済ませ、下山開始。
ん?風はキツい(もともと晴れていても山頂付近や稜線は風が強い)が昨日よりマシに感じるぞ。
それに何より雨が殆ど降っていない。空は相変わらず雲り。ガスも多いが、昨日と大違い、これは楽だぞ。
そう言えばご主人が、
今日は上(山頂付近)よりも下の方がガスが多いですよ
と話していた。
という事は下りれば下りるほど雨露が多いかも。まぁいずれにしても雨具を着込んで完全防備です。
しかし昨日で馴れたからというのもあるだろうが、実際昨日よりマシなので、気持ちにもかなり余裕が出来た。ガスはあるが視界もマシだ。
だが下山ほど気の抜けない事はない。注意は登り以上に怠らず、さあさあ、のんびりゆっくり楽しもうではないか。
相方も早速カメラでお花や景色をパチリ。
昨日の嵐は、いくらかマシになってます。
駒ケ岳頂上。
く、くらい・・・
@6:50
木曽駒ヶ岳山頂にて撮影。
駒ヶ岳神社にて参拝。
ここが三角点。
トウヤクリンドウ。
晴れていると、多少開くらしいです。
ウサギギク、と思う。
@7:27
少し下ったところの分岐で、昨日はガスがひどくて見えなかった駒ヶ岳頂上山荘が。分岐からこんなに近くにあったんですね。
昨日千畳敷周辺で見た鳥をちょくちょく見かける。人に対してあまり警戒心も無いようで結構近くをピョンピョンしながら飛んでいる。
ホシガラスというカラスの仲間だそうだ。そういやご主人もホシガラスの話しをしてました。
このホシガラス、何故だか名前を記憶するのに苦労した。ユキガラスとか、なんとかガラスとか言ってなかなか覚えられず、覚えたのは帰宅してからだった。もう立派なオヤジですな。
下山します。
昨日は必死でまったく見えてなかったけど、すごい岩です。
あの嵐の中を、こんな岩を越えて?
今考えると、エラいことしちゃってます。
@7:49
宝剣山荘・中岳分岐
のんびり行きます。
自然そのものが神さまなのです。
ゴジラが出てきそうです。
やはり、畏怖の念を抱かずにはいられないのです。
@8:22
宝剣山荘前にて休憩。
雨が結構降ってきたが、天候が良ければ行く予定だった宝剣岳に向かうことに。このまま下りてしまっては勿体無い、無理せず行ける所まで行こうではないか。
稜線上となる時折強烈な風が吹く岩場を歩き、最初の難関である数メートルの崖状の岩場をよじ登る。ガスでハッキリとは見えないが下は数百メートルはあるだろう。
次の難関はさらに険しい鎖のある崖岩場。この先に岩稜を横切る鎖場が見える。その上が頂だ。もう少しのところだが、風も強く、雨もさらに降ってきた。相方はここまでで充分との事。
この天候の中こんなところに相方を置いて一人で行くのは危ないし、行きたいところだが僕自身もこの雨風では危険度が増すので無理しない方が良いと判断。
惜しい気もするがここまでとする。こんな日に好んで登る必要無し。頂上に行っても何の眺望も無いのだし、また来れば良いのだ。一旦宝剣山荘前に戻り少し一休みする。
クサリ場。
氏は行けそうだったけど、私は泣きが入りました。
体力と筋力にまったく自信がありません。
けっきょく断念。
これは心残りになりました・・・
てか、くやしい。
トレーニングして、岩場を克服しなければ!
そしてここを降りるときに、軽くプチ滑落してしまいました。
本当に、ほんとうにこわかった・・・
アルプスは、ちょっとしたことが命取り。
だって、下はものすごい崖なんだもの・・・
自信喪失して、つづく・・・