生年月日 昭和2年頃
犬種 ポインター雑種
性別 牝
地域 東京


以前ご紹介した学者犬トミー1号 に続き、今回はもう一頭の学者犬トミー2号について取り上げます。

帝國ノ犬達-音楽犬
こんな感じだったんでしょうね。


学者犬トミーの記事がありましたが、その犬は一體どんな芸をするのです。又どんな犬か成るべく詳しくお教へ下さい。
トミーフアン


今東京で話題に上つてゐる学者犬トミーは二匹ゐます。
一匹は黒犬で腹の一部が白いもの、今一つは白に茶の斑のある犬。何れもそこれにざらにゐるポインター雑種で、犬としては別に大したしろものではありませんが、それが訓練の結果かくなつたところに多大の意義があります。
又二匹あるのは不思議なやうで、詳しいことは判りませんが、一方の飼主は「彼方はもと自分のところにゐて訓練を見て覚えたのだ」と云つてゐました。その真偽はともかく、二匹とも同じ学者犬のあることは、訓練次第で犬を立派に教へ込めることが立證するものとも云へます。
次にそれはどんな芸をするかと云ひますと、飼主の言葉に従へば尋常二年程度の課目の全部を修得して居り、或る問題は尋常四五年程度のものを、優に理解するさうであります。
筆者は白斑のトミーの芸を見ましたが、舞臺正面の藤椅子の上にちよこなんと座つてゐるトミーは、全く平凡な犬で、殊に連日の稼ぎでやゝ疲労の態に見受けられました。
或は毎日何回となく同じことを繰返しやらされるので、またかと倦怠を感じてゐるのかも知れません。
筆者の見た日はまづ第一に舞臺に飾られた日、米、佛、獨等八ヶ國の國旗の中から、見物人の指定した國旗を探し出す芸で、見物人が「日本」と指定し、飼主が「さ、日本の國旗ですよ」と云ふと、犬はやをら椅子から下りて各國旗を同様に探したのち、今度は各國の首府をおあげ下さいで、或る人が「倫敦」と云ふと、例の通り一、二周してから英國の國旗を銜へ出しました。
これで地理を終り、次は数学で0から9までの数字板が並べられ、加減乗除なんでも出来ると云ふ上に、まづよせ算から「八と五」と一客が声をかけると、例により数字板の周囲を廻りつゝ一と三の板を銜へ出します。
引き算、かけ算何れも間違ひなくやりました。
その次は煙草の見分けで、各種の煙草の空箱がまかれて、客がパツトと云へばバツトを銜へ出す。その上國旗同様定價を云つても容易に探し出しました。
すべてがこんな風で、犬がこれを行ふ間、飼主はバイオリンを弾いてゐます。
飼主に云はせれば音楽は犬の気分を引き立させるからと云つてゐますが、みるものにはこの音楽がくせもので、なにかそこに仕かけがあるのでないかと云ふ疑問が起ります。
で、それを打消すために、最後に音楽抜きでも芸をさせます。
因みにこの白斑トミーは牝犬で七歳、生後四ヶ月から数へて、満二年ですべての芸を覚へたと云ひます。

白木正光「学者犬トミーとは」より  昭和8年