AXD発売にあたり思うこと | びっくりビクセンBlog

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八代目によるビクセンの褻(ケ)

明日、ビクセンの新赤道儀AXDが、発売されます。

この商品には、社長としても思い入れがありますので

開発の経緯とともに、その気持ちを少しだけ述べさせて

いただきたいと思います。



私は2006年6月に、ビクセン常勤役員となり

2007年5月に代表取締役社長となりました。

このとき、与えられた課題は、数多くあり

その一つ一つは重要なものでした。

製品開発の方針についても、確固たるものが

いまだ見出せていない状態でした。


そうした中、新「STAR BOOK」の開発を

決意したのです。「STAR BOOK」のような、赤道儀の為の

コントローラーは、ビクセンだけが展開する商品です。

よく賛否もしくは好き嫌いのご意見を頂きますが、

それだけ特徴的な商品であると言えます。


私は、この特徴的商品を伸ばそうと考えました。

メーカー自身で持つ、ためらいのような中途半端さを

そぎ落として、「STAR BOOK」の本来のあり方を追いかけ

なければ、いけないと感じていたのです。


これは、私にとって大きな決断でした。

なにしろ、その為に新たに開発者を採用し、人員を揃える

必要があったのですから。

ちなみに、当時の開発陣は嘱託社員を含めて、3名でした。

現在は、正社員で5名体制です。十分とはいえないかもしれませんが、

当時の2倍の陣容になったと言えます。


新たな開発者を迎え入れたのが、2007年7月です。


コントローラーの開発決定は、「当然に」それにあわせて、赤道儀の

開発を始めることと直結します。

いま、「当然に」と表現しましたが、これを当然にすることは大変でした。

まず、投資が2倍以上かかります。そして、妥協のない「STAR BOOK」を

作るからには、中途半端な赤道儀を作るわけにはいきません。

かつて、SX赤道儀を開発した以上に、資金がかかることが

予想されます。後述しますが、経営者としても覚悟のいる決断と

なります。


コントローラーの開発から端を発した赤道儀開発ですが、

順番は赤道儀の開発が先行します。

2007年8月に新型赤道儀「EQ08」の開発計画が作られました。

このときの目標は、2009年PIEに発表及び発売することでした。

今思えば多少無謀でしたが、わずか20ヶ月で発売する計画を

立てていました。


開発のスタートは、コンセプト作りから始まります。

社内各部署からのヒアリングや意見交換から始まり、ビクセンの

会員組織であるトナかい会員の方からの、アンケート調査も

行ないました。

このアンケート調査には、10代から70代までの方にご協力いただ

きました。赤道儀を所有してない方から、ビクセンの各機種の

赤道儀所有者、他社赤道儀所有者まで、開発陣にとっては、

この上ないデータを収集することが出来ました。

このとき、アンケートにご協力頂いた方には、心より感謝申し上げたい

と思います。こちらの設定した設問以外にも、コメント欄に頂いた

皆さんのメッセージは、今読み返しても、心の支えになるようなもの

ばかりです。厳しいお言葉もありましたが、全て今回の開発の参考

とさせていただきました。


社内では、想定ユーザーを絞り込み、年齢や職業、これまでの経歴など

細かく設定し、今で言う「ペルソナ」マーケティングのようなことも

行ないました。

こうして、おおよそのコンセプトをまとめ上げたのが、

2007年の11月下旬です。


ここからは、経営者は我慢です。出来上がったコンセプトにしたがった

新たな製品が出てくるのを、ひたすら待ちます。

もしかすると、担当者には「待ってるようには思えなかった」と

叱られるかもしれませんが、私としては余計な雑音を発することなく

待ったつもりです。


仕様が固まり、設計もおおよそ固まってきた2008年の6月頃より

今度は、外観デザインが始まります。再び、デザインの為の

コンセプト作りを行ないました。

デザイナーにも参加してもらい、「AXD+STAR BOOK TEN」を

含む赤道儀と経緯台のラインナップについてのコンセプトが

改めて意識できたのは、2008年8月頃です。


このとき、開発陣で共有できた価値観は、「ユーザーフレンドリー」

です。コンセプト作りは、この「ユーザーフレンドリー」の定義付け

であったといっても良いと思います。価値観なので一言では、

申し上げにくいのですが、赤道儀にとっての「ユーザーフレンドリー」を

「マニアフレンドリー」+「初心者フレンドリー」の両立と意識したのは

この時からです。


2009年3月のPIEで、はじめてAXDをお披露目しました。

実は、この年「元気なモノ作り中小企業300社2009」に選定された時の

企業概要の写真にもスケルトンのAXDが紹介されています。

元気なモノ作り中小企業(埼玉)   (一番下のページ)

このとき評価された技術が、VPECにつながっています。


更に、2009年12月には、新規にCNCを2台投入しました。

これによりAXDの精度を上昇させることが出来たと思います。

AXDの為だけではありませんが、この投資に数千万かかっています。

これも、大きな決断でした。

そのときのブログ→CNC


AXD赤道儀の機械部分がある程度固まると、そこから

「STAR BOOK TEN」を含む電気系統の開発が加速していきます。

実際に赤道儀を稼動させながらの開発となります。


耐久性テストやバグ取りを繰り返し、トラブル→解決→トラブル→解決と

その根気に開発者には頭が下がります。ソフトウェアは、

リリース直前まで改良が続いていました。そして、今後も改良され続けて

いくことになります。


「STAR BOOK TEN」コントローラのデザインも、コンセプトにあわせて

行なわれました。操作性なども検討しながらの試行錯誤でしたが、

ようやく固まってきたのが、2010年5月でした。→こちら


実は、AXDのファーストロットは6月に生産されました。そこから既に

3ロットが生産され、現在は4ロット目の部材を製作しているところです。

6月に発売しないのには訳があります。

赤道儀の組立は、手作りです。機械で組み上げるようなものでは

ありません。量産を繰り返すことで、組立上のノウハウを溜め込み

精度を上げていく必要があるのです。開発者とともに生産現場が

この新しい製品を理解し、作り上げる事で、ご満足いただける商品

になります。


ここまでくると、本音は早く発売したくて仕方がありません。

しかし、検査を重ねて精度を追いかけ、最後までバグを取り、

ギリギリまで改良を重ねることで、ご満足いただける商品と

する事が出来ます。


一方で取扱説明書の担当者は、改良が加わるたびに取扱説明書

の記述を変えていきます。逆に取扱説明書を作りながら、開発陣

にフィードバックをします。このことは、2010年6月にも触れさせて

いただきました。→こちら

そんな取扱説明書は、一人の担当者によって作られ、131ページ

にも及んでいます。他の業務をこなしながら、取扱説明書を作る

作業は大変なものです。ビクセンでも、この仕事を任せられる

社員はほとんどいません。貴重な存在です。


明日、この商品がユーザー様のお手元に届きます。

予定より1年半も発売が遅れたことになります。

遅れた分を取り戻すだけの商品であると、自負しています。

ですが、明日からは商品の評価者が、私からユーザー様に移ります。

今日までは、社内で評価するのは私でしたが、明日からは私自身

が評価される側になります。そんな気持ちで、発売日を迎えます。



余談ですが、明日11月11日は、AXD設計者の誕生日です。

偶然ではありますが、良い誕生日プレゼントになってくれると思います。



「AXD+STAR BOOK TEN」どうかよろしくお願いします。