アトピー性皮膚炎と特捜せよ!~前編~ の続き


<アトピー性皮膚炎に対する戦略>
厚生労働科学研究の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」によると、
①スキンケア ②原因の除去 ③薬物療法
がヒトのアトピー性皮膚炎の治療の3本柱とされている。
犬のアトピー性皮膚炎の治療に関してもアウトラインは同じである。
まずスキンケアに関しては、やはり水浴と保湿が基本となる。アトピー性皮膚炎の場合、吸入だけでなく皮膚表面からアレルゲンが侵入するし皮膚炎を起こすと考えられているため、侵入経路を遮断するという意味でもスキンケアは必要となる。多くの場合バイキンマンあるいはマラセチア(酵母菌)による感染が要因となり痒みが増強される。これらの「二次災害」に対して抗生物質あるいは抗真菌剤による「消火活動」が痒みを減らすために必要となる。理想的には週3回の水浴を薦めたい。個人的な見解では水浴は明らかにステロイドの量を減らすことに効果的と感じます。ただお風呂が嫌い、ドライヤーが苦手、大型犬であなたの体力がもたない、あるいはあなたの仕事が忙しいなど様々な理由によりなかなか思い通りにはいかないのが現状である。


参考までに厚生労働省研究班による研究結果によると、ヒトのアトピー性皮膚炎患者において臨床的にエビデンスが示された保湿外用薬は尿素、乳酸アンモニウム、グリセリン、セラミド及びヘパリン類似物質である。これらの成分が配合された動物用保湿性シャンプーもあるので皮膚の水分含有量が低下し痒みが悪化している犬達には効果が期待できる。


<アレルゲン対策>

日本で最も有名なダニは、チリダニ属のコナヒョウヒダニで小児喘息の90% 成人の喘息の50%以上のアレルゲン(特にダニの糞)とされている。一般的に暴走族が繁殖しやすい時期は年末であるが、ダニが繁殖しやすい時期は7~9月頃で、10~11月頃にダニの糞や死骸が空気中を舞う。ダニは湿度が60%以下になると活動が鈍くなるので、目標湿度を50~55%程度とする。ただし湿度と言ってもあなたの部屋の湿度というより寝具や畳、カーペットなどダニの陣地の湿度が大切である。

「伊藤家の食卓」に出てきそうだが、日常品でも除湿剤として代用できるものがいくつかある。備長炭や竹炭、あるいは新聞紙は除湿剤として活用できる。また洗濯洗剤にも除湿効果があるのでフタに穴をあけて置いておけば除湿剤代わりになる(ただし水分を吸収した後は粉が固まり使いづらくなる)。一般家庭において掃除機で吸い取った小さじ1杯のホコリには平均500~2000匹のダニの死骸があったという調査結果もあるが、バルサンやアースレッドによるダニ攻撃を加えてもダニの死骸が残っていてはハウスダストマイトに対するアレルギー対策には効果は乏しい。ダニにとって快適な生息条件(人間やペットのフケやアカが鉱物で、温度20~30度、湿度70%以上を好む)を理解し掃除機をかけてダニの数を減らすことが重要となる。

環境省の花粉症保険指導マニュアルによるとスギ(2月~4月)、ヒノキ(3月~5月)など樹木では春が中心だが、イネ科は初夏(5月~6月)に、ブタクサ・ヨモギ科は真夏から秋口(8月~10月)に飛散する。
また花粉の飛散量は1日の中でも変化し、一般的に昼前後と日没に多いと言われている。この時間帯の散歩を避けることにどれだけの効果があるかは不明だが、見えない効果に繋がるかもしれない。


<アトピー性皮膚炎の診断と秋葉系オタク>

残念なことに現時点でアトピー性皮膚炎を一発で診断する方法はない。よく血でわかる検査(血清学的アレルゲン特異的IgE試験)などというが検査精度としては感度は高いが特異性が低い。秋葉系オタクを集めて「あなたはアニメが好きですか?」というアンケート調査をすると非常に高い確率で「Yes」という解答が返ってくると思うが、逆に「アニメファン」が100%秋葉系オタクかというと必ずしもそうではない。つまり秋葉系オタクを「診断」する場合、「アニメファン」というチェック項目は感度は高いが特異性が低いと言えるだろう。診断的治療ではなく確定診断するには皮内反応も含め、それぞれの利点・欠点を総合的に判断していく必要がある。病院内で血液を4~5滴、滴下して5分待ち2本ラインが出ればアトピー性皮膚炎!と判定できるようなルーチンな検査キットが発売されたら売れるだろう。ちなみに猫のアトピー性皮膚炎は科学的に立証されていない。猫のアトピー性皮膚炎の症状は犬と似ているが再発性外耳炎、好酸球性肉芽腫、粟粒性皮膚炎、アクネなどのサインはアトピー性皮膚炎の兆候であるかもしれない。


ヒトのアトピー性皮膚炎の治療については、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドラインによると、ステロイド外用を基本とし、補助療法として抗ヒスタミン剤の内服が挙げられる。しかし、獣医領域においては「舐める」という最大のジレンマが存在するためステロイドの内服がゴールドスタンダードとなっている。エビデンスが得られている2選択療法(セカンドライン)としてシクロスポリン、タクロリムス外用薬、ペントキシフィリンそしてミソプロストールがある。

抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、アスピリン、あるいはカプサイシンなどに関する高いエビデンスは得られていない。

厚生労働省研究班の「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」からのデータによると抗ヒスタミン剤に関して塩酸ヒドロキシジン(アタラックス)、塩酸フェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)、塩酸セチリジン(ジルテック)は、一定の効果が得られていると考えられたがクロルフェニラミン(ポララミン)、テルフェナジン(トリルダン)、塩酸アゼラスチン(アゼプチン)、ケトチフェン(ザジテン)、クレマスチン(タベジール)、アステミゾール(ヒスマナール)などは、有用性の評価が保留されている。獣医学領域においては抗ヒスタミン剤の効果について検討した論文は少ないが、20~30%程の効果しか認められないのが現状である。ただ抗ヒスタミン剤を使用するタイミングや他の治療に「トッピング」することによりCS(飼い主様の満足)が得られるケースもある。

ボクシングの東洋太平洋フライ級タイトルマッチで“浪速乃闘拳”亀田興毅選手がチャンピオンをTKOでノックアウトしたが、アトピー性皮膚炎に対して劇的にKO勝利することは難しく、治療はワン・ツー、フックそして右ストレートといったコンビネーションが大切となる


<アレルギー性皮膚炎に対するはぐれ獣医的戦略&予防>

①「アレルクリン 」アタック 

→”Dr.つちのこ”も推薦 数ミクロンのハウスダストを最大97%カット! 

②スキンケアとして週3回の水浴

→必ずしもシャンプー剤を必要としない。

③湿度管理(目標湿度;50~55%)

④掃除機アタック (オキシジェン  Electrolux社 など)

→花粉の大きさは30μm、ダニの糞は10μm以下だが、このオキシジェンは0.06μmの超微粒子さえ99.5% もキャッチするという。

⑤少なくとも1歳までは単一のタンパク源を与える。

→フードメーカーを変えてもタンパク源は変えない。例えばフードのタンパク源がチキンであれば、おやつもチキンベースを選択する。




キーワード アトピー性皮膚炎 保湿 スキンケア 

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<参考サイト)

アトピー性皮膚炎~よりよい治療のためのEvidence-based Medicineとデータ集~

アトピー・ステロイド情報センター


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<参考文献)

Evidence-based veterinary dermatology: a systematic review of the pharmacotherapy of canine atopic dermatitis

Veterinary Dermatology Volume 14 Issue 3 Page 121 - June 2003

Atopy diagnosis time consuming for DVMs and owners

Dr. Alice Jeromin DVM Newsmagazine

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