「日本流」を現在も活かしているヴェンゲル監督 #アーセナル #プレミアリーグ | ヒロ・ゴラッソ

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「日本流」を取り入れるヴェンゲル監督

 食事、言葉、文化を日本で学んで現在も活かす



 今季のイングランド・プレミアリーグを3位で終え、来季は18年連続で欧州チャンピオンズリーグに出場するアーセナル。先日はFA杯2連覇も達成し、イングランドのシーズン開幕を告げるコミュニティ・シールド(プレミアリーグ王者とFA杯王者が対戦するスーパーカップ)も合わせると2冠。それまでの8年連続無冠による「負の歴史」も払拭しつつあります。


 来季で就任20年目のシーズンを迎えるフランス人監督アーセン・ヴェンゲルは1996年の秋にアーセナルの監督に就任する直前まで、日本の名古屋グランパスエイトの指揮官として約1年半に渡って指揮を執っており、日本に様々なモノを残して行ってくれました。


 練習メニューでは2006年にイビチャ・オシム監督が日本代表になった時に話題になった「3色ビブス」のパスゲーム。異なる2色のビブスをつける選手が味方となり、もう1つの色のビブスを着ている選手を相手にパスを回すのですが、不定期でコーチが合図をする毎にその2色が入れ替わります。頭の切り替えも鍛えるためのトレーニングですが、オシムジャパンがこれを2タッチ以内でのパスワークでやっていたのが2006年です。しかし、1995年当時の名古屋グランパスエイトはそれを1タッチでやっていたそうです。Jリーグ開幕からガンバ大阪、浦和レッドダイヤモンズと共に最下位を争っていたようなチームが一気にリーグ戦で優勝を争い、天皇杯ではタイトルまで獲得出来たのは確実にヴェンゲル監督によるトレーニングにあったわけです。


 その他にも現在では一般のサッカーファンでも自然と使っている「補完性」なんていう言葉もそう。ボランチの組み合わせを守備的なタイプと攻撃的なタイプで組ませるような事もヴェンゲル監督がJリーグに来てから提唱した影響です。また、FWにドラガン・ストイコヴィッチや小倉隆史のようなキープ力があってMFとしてもプレーできる選手を置くのもヴェンゲル監督の影響かもしれませんね。


 そして、ヴェンゲル監督もまた日本での経験を現在も活かしています。特に日本の食文化です。低カロリーで多くの栄養素を補える和食をアーセナルの選手食堂にも取り入れ、「オヒタシ」や「スノモノ」について語るサッカー指導者を初めて見ました。


 当時のイングランドのクラブの選手食堂にはハンバーガーやフィッシュ&チップス、ケーキやコカ・コーラで溢れかえっており、けしてアスリート体質とは言えない選手が多く、欧州の中では珍しく米を主食とするスペイン人選手達には、「よく体重計が壊れないなと思った」と、母国へ帰ってから馬鹿にするような選手も多かったように思います。


 なにせ、試合の前にも飲酒をしていた選手も珍しくないような状態でした。


 ヴェンゲル監督がアーセナルの監督に就任した1996年当時の主将であったイングランド代表DFトニー・アダムズもアルコール依存症を涙ながらに告白した選手でもありました。そのアダムズはヴェンゲル監督によるアルコール依存の克服と食事管理の徹底により、35歳までアーセナル一筋で現役生活を続けました。2002年に引退したアダムズはヴェンゲル監督就任後の6年間でプレミアリーグとFA杯の2冠を2度達成した事以上に、人生を救ってくれたヴェンゲル監督に感謝していることでしょう。



日本代表選手の「体脂肪率」問題

 日本の指導者も当事者意識を持つべき



 食事療法に話を戻すと、今では当たり前の事ですが、ジュースの代わりにミネラルウォーターを飲み、油モノは避ける。肉より魚中心にしたプレミアリーグの選手たちはみるみるうちにシェイプアップされ、よりスピーディーなサッカーを90分通して披露できるようになりました。現在はヴァイッド・ハリルホジッチ監督が指摘した「体脂肪率問題」で日本代表の選手達に対する食事面が問題提起されていますが、アーセナルでは当時の主将だったスペイン代表MFセスク・ファブレガスがポテトチップス1枚食べるかどうかで悩んでいた、というエピソードがあるぐらいです。


 いきなり日本にやってきて日本人の身体を医学的観点から出した数値で計ったとは言えない目標体脂肪率を気にする必要はありませんが、ロンドンでフランス人監督が「オヒタシ」や「スノモノ」について語る姿があるのに、日本で栄養面について話をしているサッカー指導者を僕は観た事がありません。また、体脂肪率を下げる=ダイエットだと捉えている日本のマスコミからの悪影響が選手達を苦しめる部分もあります。セスクのこのエピソードくらいは共有してもらいたいものですね。


 日本のJリーグのクラブハウスでは菓子パンやポテトチップスの袋持って歩く選手の姿をよく見かけます。「パンケーキ部」があって練習後に食べに行く、なんていう習慣が日常からあるわけですから、「体脂肪率なんて気にするな」と言う日本人指導者の言葉を目にするのはいささか・・・しかもその言葉を「選手の事を想ってる」と称賛するような言葉が出て美談になるのはどうかと思います。もっと当事者意識を持つべきだと思いませんか?



 そして、こうしたヴェンゲル監督の食事療法はプレミアリーグどころか、ファーガソン監督でさえ、「最近のサッカー選手は食べすぎてしまうが、ベストの食事はスコーンとタラのフライだけで大丈夫だ。」と真剣な表情でアドバイスしているような食文化の乏しいイングランド全土に拡がりました。その影響は「プレミアリーグ・ヘルス」というサポーターへ向けた健康プロジェクト立ち上げにも繋がりました。


 これにはアーセナルと同じ北ロンドンを本拠地とし、敵対しているはずのトッテナム・ホットスパーも積極的に取り組みました。トッテナムの選手が地元の学校の保護者参観日に合わせて登場し、子供達やその親にジャンクフードをやめ、ケチャップの量を減らして健康に気をつけるよう指導を促したり、父親を対象とした料理レッスンをクラブが開講したりしています。東ロンドンのウエストハム・ユナイテッドは試合日にスタジアム内のジムを開放してフィットネステストを受けさせたりなど、影響力の大きさが窺えます。


 尚、1996年の秋に去ってから20年近くも経過するというのに、名古屋グランパスには未だに「ヴェンゲル・ガイド」なる食事のガイドラインが置いてあり、それを基にした常勤の管理栄養士さんによる著書まで出版されています。


プロクラブを支える食ストーリー 名古屋グランパス 勝利の食堂/間宮 裕子
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日本語の「目を見て会話をする」

 "OMOTENASHI"の原型を悟る



 また、ヴェンゲル監督は日本語に関しても本質を捉えて日本文化を尊重する興味深い話もあります。


「英語を筆頭に世界中の言語の多くが主語と述語を先に話し、動詞を先に持って来るのに対して、日本語は最後に動詞を持ってくる基本文法上に特徴がある。最後まで動詞を話さないから相手の目を見て話をし、最後まで聞く。それが『日本流』であり、『OMOTENASHI』に繋がる誠意だ」という事です。


 皆さんは英語の時間に「S(主語)+V(動詞)+O(目的語)」の基本文型を習ったり、小中学校の義務教育で「目を見て話を聞きなさい」と指導されたと思いますが、ここまで言語の本質を捉えた補足をシンプルに「指導」できる指導者はいないんじゃないでしょうか?


 そんな日本で多くの事を学んで行ったヴェンゲル監督。アーセナルのホーム戦の前泊に使われているホテルで日本人の女性が働いたのですが、彼女に「私は生まれ変わったら日本人の女性と結婚します」とよく言っていたそう。でも、この口説き文句も、「指導者」ヴェンゲルが口にすると「先生みたいだった」と、その女性が感想を述べるほど。やっぱり、ヴェンゲル監督は、ヴェンゲル「先生」なのでしょうね。
 


 人は常に何かを学びながら生きているとは言うものですが、ヴェンゲル監督ほどこの言葉が似合う人はいないかもしれませんね。


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「宇佐美貴史と武藤嘉紀、どちらが日本代表や欧州で活躍できる?

 当ブログでも取り上げております同級生ライヴァルFWである宇佐美貴史と武藤嘉紀。今後の日本代表や近い将来での欧州移籍が噂される2人を読者の皆様はどうお考えでしょうか?


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