Valuest 99 (2008/07/18) | 価値の最大化

価値の最大化

             

【応援】


本気の『応援』の力ってすごいですよね。
相手も、自分までも、『元気』になります。


僕には、その『応援』の力のすごさを、
身をもって実感した原体験があります。


それは、2006年8月15日のこと。

場面は、夏の聖地。大甲子園

第一試合。カードは「駒沢苫小牧VS青森山田」

3連覇を目指す「駒沢苫小牧」と
東北の雄「青森山田」の好ゲーム。

「近かったから」という理由で、1塁側内野席(駒沢苫小牧側)へ。

球場に入り、客席に出た瞬間、美しすぎるグラウンドに目が眩む。

両チームの練習が終わり、試合開始。

サイレンの音に体がゾクッと震えた。

序盤は、青森山田ペース。

一時、6点差まで開き、5回終了時点で7-2の5点差。

駒沢苫小牧側のベンチに座っている人のほとんどが、
「3連覇の夢もここでついえるか」と思っていたことだろう。

しかし、甲子園は、最高のドラマを用意してくれていた。

幕開けは、6回裏の駒大苫小牧の攻撃。

否。

幕を開けたのは、6回裏開始前に、
僕たちの前に、突如現れた、70歳くらいのおっちゃんだった。

僕たちが座っていたのは、内野特別席。

応援団の人たちがいる内野一般席と違って、
普通は激しい応援もなく、試合を観ている。

だが、僕たちの前に現れたおっちゃんは、
グランドに背を向け、僕たち観客の視線を集めた。

そして、「フレー フレー こ・ま・だい!」と応援を始めた。

最初は、少しテレ気味で、あまり声を合わせなかった観客。

だが、そんな気持ちは、スグに吹き飛んだ。

おっちゃんが応援し始めた直後の6回裏に2点を返し、3点差に迫る。

そして、次の回の裏の駒大苫小牧の攻撃。

また、おっちゃんが音頭を取る。

さきほどまでの数倍大きい観客の声。

また、1点を返して、2点差。十分、射程距離内だ。

青森山田も負けていない。

8回の表に1点を返し、点差を3点に戻す。

だが、おっちゃんの音頭は絶えず、観客の温度は下がらない。

おっちゃんと観客の応援に応えるように、
なんと、駒大苫小牧は、8回裏に3点を追加。ついに、同点!

しかし、青森山田は9回表に1点を勝ち越す。

9回にこの1点は重い。後がない、駒大苫小牧。

9回裏。おっちゃんの音頭も、観客の応援も、とどまることを知らない。

アウトを取られるたび、悲痛な叫び。

しかし、諦めることを知らないおっちゃん、観客、そして、選手。

3番バッタが打席に立つ。いつもより、少し寝かせ気味にバットを構える。

ピッチャが渾身の投球。

高らかに響く、打球音。

次の瞬間、観客は総立ちし、打球の行方を見送った。

『同点ホームラン』

涙が出そうになった。それほど、感動した一発だった。

ありえない。ただただ、そう口にする。

友人と、隣の知らないおじさんと、一緒に喜び合う。

勢いに乗る駒大苫小牧は、もはや、立ち止まらなかった。

2死1塁から、6番バッタが放った打球は、左中間最深部へ。

1塁ランナが懸命にホームに戻ってくる。

青森山田も、必死のバックホーム

本塁上でのクロスプレィ

タイミングは、微妙。

矢のような返球。

滑り込むランナ。

ミットからこぼれる白球。

ベースを触れる手。

……サヨナラ勝ち!!

駆け寄る選手たち。

湧き上がる観客たち。

泣き崩れる選手たち。

夢のようだった。

嘘のようだった。

こんな試合があるなんて。

こんな結末があるなんて。

こんなにも野球が素晴らしかったなんて、しばらく、忘れていた。

本当に、この試合を観ることができて良かった。

周りの知らない人と一緒に、口々に勝利を喜び合う空間。

きっと僕は、言葉では表せないほど、興奮していたのだろう。

試合が終わり、少し落ち着いた頃、おっちゃんのところへと向かった。

数分間、おっちゃんと話をして、
最後に握手したその手は、とてもごつくて、力強かった。

ありがとう、おっちゃん。

僕は、あなたのことを、忘れない。



あの試合は、いまでも、あのおっちゃんの応援がもたらした
奇跡の軌跡だと思っています。

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吉本隆明氏の講演会 を聴きに、夜行バスで東京に行ってきます!!