チルドレス先生との出会い(2) | ヴァージニア日記 ~初体験オジサンの日常~

チルドレス先生との出会い(2)

さて、私は今回アメリカに来るまで、チルドレス先生とは一度もお会いしたことがない。

そんな私がなぜ、チルドレス先生のもとで在外研究生活を送ることになったのかを

回想してみると、それはそれは 不思議な縁 としか言いようがない。


人との出会いにおいて、

「もし、あそこでこういうことが偶然起こっていなかったら・・・・・」

たとえば、「あの時、あの電車に乗り遅れていなかったら・・・・・」

      「あの時、携帯電話をなくしていなかったら・・・・・」

      「あの時、講義であの席に座らなかったら・・・・・」

この人と出会うことはなかったろう。。。。

と後から不思議な思いに打たれた経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。


私がチルドレス先生に出会ったのも、そんな(確率の低そうな)偶然がいくつも積み重なった

上でのことだ。

まず、第一に、

私がアメリカに行く計画を立て始めた時(前々からそういう計画があったわけではなく、ほんの

2年ちょっと前のことだ)、受け入れ先として当てにしていた既知の先生が一人おり、その先生

のいる大学には私の専門に近い他のスタッフもいたので、そこに行けるものだと思っていたところ、

晴天の霹靂(?)のごとく、その先生から受け入れを 断られてしまった・・・・のである!

(ちょっとしたコミュニケーションの行き違いが原因になったのだが、それにはふれないでおく)


まさか断られるなどとは考えてもいなかったし、すでに勤務先のT大学からは1年間の研究休職

の内諾を得ていたり、フルブライトの奨学金の申請手続きにとりかかっていたりした(結局もらえ

なかったが)ため、いまさらアメリカ行きをやめる、というわけにもいかず、かと言って、これまで

海外の学会などには出たこともなくアメリカの研究者に知り合いもほとんどいない(情けない・・・・)

ということで、文字通り途方に暮れてしまったのである。。。

これがちょうど2年前(2005年)の今ごろのことだが、

その時、ふと思い出した人がいた。

その2ヶ月前に、東京で行われた宗教学の国際学会でお会いした、

アン・モンゴヴェンさん である。


前にも書いたが、3月に国際学会ではじめてモンゴヴェンさんにお会いした時、

彼女はVisiting Scholarとして東大に来ている期間中だった。


「たしか、アメリカに帰国するのは6月だと言ってたよなあ・・・・・」

「そういえば、6月の2週目に学会で東京に行くなあ」


ということで、さっそくモンゴヴェンさんにメールを打った。

(彼女の帰国が6月の後半であることを祈りながら・・・)

すぐに、「私もとっても会いたいけど、そのあたりは殺人的なスケジュールなの。。。

でも、なんとかなるわ!」という返事が返ってきた。

まさに、ギリギリのタイミングだった。私が学会の翌日にモンゴヴェンさんに会った時、

彼女は、帰国2日前!だったのである。 → これが(確率の低い)第二の幸運!

モンゴヴェンさんは2時間ほどかけて、私の研究に大きな興味をもってくれそうな

アメリカの研究者や、私の滞在先としてふさわしい大学について、事細かにアドバイス

してくれた。

そこで、彼女がもっとも勧めてくれた行き先の一つが、ヴァージニア大学だったのである。

「ジェイムズ・チルドレスはすっごくいい人! 彼は絶対、あなたの研究に興味をもつ

思うわよ」

チルドレスの名はもちろん知っていたが、(前回書いたように)有名な本の共著者として

であって、それ以外の本や論文は読んだこともなかった。

しかし、私がチルドレス先生のいるヴァージニア大学にもっとも食指を動かされた点は、

(モンゴヴェンさんの話のなかで出た)宗教学と生命倫理との間の関係が非常に濃い

というヴァージニア大学の特色だった。

(両方の分野にすぐれた研究者がいる大学であっても、制度的に宗教学科とバイオエシックス

センターとのつながりがまったくなかったり、双方の研究者同士にあまり交流がなかったり

することが多い)

ここだ! と思った。


もちろん他にも魅力のある大学はあり、前に書いたウィリアム・ラフルーアさん のおられる

ペンシルヴァニア大学のように、実際に可能性を検討し、お世話になっている日本の先生

を介してコンタクトをとってみたところもあるのだが、この時からとにかくヴァージニア大学を

行き先の第一候補と考えて、突き進んだ。

ところが大きな困難が・・・・・・・

日本で私が親しくさせていただいている著名な先生の中に、チルドレス先生と親しかったり、

直接面識のある人が皆無だ、ということがわかったのだ。。。

ただ一人、チルドレス先生と確実に面識がある先生がいらしたが、この先生と私は面識

がなかった。それでも、ここは突き進むしかないので、その先生(早稲田大学のKM先生)

に電話をかけ、事情を説明した。

KM先生は、まったく面識のない私にも、ほんとうに親切にいろいろなアドバイスをくださった。


彼に言われたのは、

「まだ時間もあるので、とにかく直接チルドレス教授に手紙を書いて、自分をアピールして

みてください」

「私はあなたと会ったことがないので、今すぐチルドレスにあなたを紹介したり推薦したり

することはできないが、あなたのこれまでの履歴と業績書を私の方に送っていただければ、

もしチルドレスが「この人を知っているか?」と私に問い合わせて来た場合には、あなたが

立派な研究者であることを説明する」

ということだった。  → KM先生がいなかったら、私はどうしていただろうか・・・


そして、

慣れぬ英語でチルドレス先生に手紙を書き、英文の履歴業績書と主要な論文の英文要旨

を添えて(もちろんT大学で私の隣の研究室にいる(!)アメリカ人の同僚に添削してもらった)

手紙を送り、返事を待った。。。


待てど暮らせど(1ヶ月半ぐらい)、返事は返って来なかった。


やっぱりだめかなあ。。。。。

もう一度念押しのために、eメールで「1ヶ月ちょっと前にお手紙を差し上げた者ですが・・・」

と尋ねてみたところ、翌日、チルドレス先生からのeメールが!!

多忙のため返事が遅くなったことを丁重に詫びるとともに

「あなたのなさっている研究は、私や私の同僚の関心ととてもよくフィットしており、翌年、

あなたがヴァージニア大学に来ていただけるのを大歓迎します」という内容のメールで、

非常に丁寧なだけでなく、「あなたのオフィスは研究所内に用意できる」「パソコンも用意

できるし、プリンターやコピー機も研究所のものをお使いいただける」などといった具体的

な好条件が詳しく書かれており、思わず 飛び上がって しまった。

というわけであった。

本当に、「人は、出会う必然性のあるときには出会う」 ものですね。