彼の宝石(アクチョールワークを終えて) | ウサギ舎のブログ~バレエピアニストの日々~

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ウサギ舎です。バレエピアニストなんて仕事してます。作曲家です。たまに舞台で踊ってます。ウサギ舎バレエ伴奏ピアノ研究所主宰。まあ、見てやってくんなまし。 

これは、バレエにも演劇にも音楽にも全く縁のなかった、ある40代後半の中年サラリーマンのお話。



ワークを「見学に来る」というので、「いいよ、どうせなら受ければ?基礎クラスはバレエ経験者じゃなくてもいいんだよ」と、半分お約束のように云った。
まさか彼が本当に受講するとは思わなかったのだ。


1日見学した後
彼は翌日の基礎クラスに参加することになるのだが

何故受講したのかと問えば、きっと彼は
「面白そうだったから」
と答えるだろう。
事実、彼は本当に面白そうに見学していたし、雑巾になったり、水母になったり、目覚まし時計になったりなんて、サラリーマン生活ではまず体験出来ないだろうから。


でも、あたしは彼の動機は、それだけではなかったと、思ってる。

もし彼が前日、基礎クラス「だけ」を見学して作品クラスを見なかったのなら、いかに「面白そう」でも、ダンス未経験の彼にも「出来そう」でも、参加はしなかっただろう。

彼は作品クラスも見たのだ。



たぶん、その質の高さに驚き、感動してくれたのだ。
基礎クラスも勿論、質は高いのだけど、彼にとっては「自分の参加できそうな基礎クラス」の内容が、「超本格的な作品クラス」にダイレクトに繋がってることに驚き、そこにアクチョールの、バレエの、奥深さを感じて感動したんじゃないだろうか。

別世界だと思っていた「バレエ」が、5感をフルに使い、泣いたり笑ったりものすごく人間らしいことをやる基礎クラスの延長にあることに、惹き付けられたんじゃないだろうか。
ホンモノを、そこに見てくれたんじゃないだろうか。



ホンモノは、バレエに全く縁のなかった中年男性を「受講」までさせてしまったのだ。

それは、彼にとって、宝石みたいな時間だったろうと思う。





そしてあたしは心から
「彼に、良いものを提供することが出来て嬉しい」
と思い、もっと多くの人にこの宝石が届くよう
来年の開催にむけて、決意を新たにしたりなんかしてしまうのです…