侍 | キネマの天地 ~映画雑食主義~

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レンタルビデオ鑑賞日誌



(ほぼ)一日一本のペースで映画の感想を書いてます。

侍 [DVD]/三船敏郎;小林桂樹;新珠三千代;松本幸四郎
¥4,725
Amazon.co.jp


内容:岡本喜八監督が、群司次郎正の原作を三船敏郎主演で映画化した痛快時代劇。示現一流の奥義を極めた剣豪・新納鶴千代。自らの出生の秘密を知らぬまま浪々の日々を送っていた鶴千代は、侍になるため大老・井伊直弼暗殺計画の一味に加わるのだが…。(amazonより)


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はい!今週の岡本喜八監督枠 は、1965年製作「侍」です!!

主演はジャケット写真を見れば一目瞭然ですね、“世界のミフネ”こと

三船敏郎さんですよっと♪(°∀°)b




万延元年二月十七日。雪降る桜田門を、水戸浪士星野監物を首領とする同志三十二名が、登城する井伊大老を狙っていた。しかし、なぜか井伊は登城をさけ、暗殺計画は失敗に終った。相模屋に集合した同志は、副首領住田啓二郎の「この中に裏切り者がいる」という言葉に騒然となった。その日から星野と住田は裏切り者の探索に乗り出した。そして浮びあがったのは、尾州浪人新納鶴千代と上州浪人栗原栄之助であった。鶴千代は、出生の秘密も知らず、孤児として成長し、浪人として食いつないでいたが、ある日、捕吏に追われる小島要ら水戸浪士を助け大老暗殺計画の一味に加わったのだった…。(goo映画より)






“人を斬るのが侍ならば、恋の未練はなぜ斬れぬ”




・・・はい、「桜田門外の変」を題材に、井伊直弼暗殺計画に加わった一人の浪士の

姿を描いた時代劇です。


水戸浪士星野監物(伊藤雄之助)を頭目とする浪士隊は、時の大老井伊直弼

(八代目松本幸四郎)を暗殺せんと江戸城桜田門前で待ち受けるものの、なぜか

その日に限って大老は姿を現さなかった。これにより監物は同志の中に井伊家と通じる

裏切り者がいると悟り、素性のはっきりしない尾州浪人新納鶴千代(三船敏郎)と、

上州浪人栗原栄之助(小林桂樹)のいずれかが怪しいと睨む。

 新納鶴千代は元々さる有力武士の妾腹として生まれたが、父の名も知らされぬまま

母と商人木曽屋政五郎(東野英治郎)の手で育てられた。かつては示現一流の使い手として

身を立てる事を夢見ていたが、5年前のとある出来事を境に夢を諦め、以来自暴自棄の

荒んだ生活を送っていた…っというお話。




・・・まず一言。面白いですコレ!!(ノ゚ο゚)ノウオオーー!!



いや、「面白い」というと語弊があるかな? ジャケット写真や裏の謳い文句、

それに岡本喜八作品である事などから、きっとチャンバラ満載の痛快娯楽時代劇を

想像される方が多いと思いますが、実はこの作品はとある運命の皮肉がもたらした

壮絶な悲劇であり、これまでご紹介してきた喜八作品のようなユーモアは全く無い

実に骨太な本格時代劇なんですよ。



物語は「桜田門外の変」を背骨としつつ、三船敏郎演じる主人公新納鶴千代の秘密や

彼が斯様な荒れ果てた生活に身をやつすようになった原因、そして同志の中に

潜む井伊家に通じた裏切り者の正体など、様々な謎が次第に明らかになっていく

サスペンスのような形をとっています。

なぜ鶴千代は宿屋の女将お菊(新珠美千代)にそれほどまでに執着するのか?

5年前、鶴千代の身にいったいなにが起こったのか?

わけあって名前も告げられていない鶴千代の父親とはいったい何者なのか?

裏切り者の疑いをかけられた鶴千代とその盟友栗原栄之助(小林桂樹)の運命は?

そして井伊直弼暗殺計画の行方は?

もちろん井伊直弼が桜田門外で暗殺される事は誰もがご存じの事ですから

その成否は問題じゃありません、あくまでそこに至るまでのプロセスがメインであり、

大老暗殺事件の裏に隠されたとある悲劇的な出来事が本作の肝なんですよね。

観終わった後にはねぇ、あまりの事に (_ _lll) ズーン となっちゃいましたよ。。。

もちろんここで謎を明らかにしてしまうワケにもいきませんからストーリーについては

これ以上書きませんが、この展開の妙がまず素晴らしいですね。



加えてキャストも素晴らしいです!

中でも強烈な存在感を発していたのが、浪士たちのリーダーである星野監物を演じた

伊藤雄之助さんで、「ああ爆弾」 の時のような滑稽さは完全に封印、

冷酷無比な男をド迫力に演じておりますよ。

それともう一人、鶴千代の後見人である木曽屋政五郎を演じた東野英治郎さん

さすがでした。自問自答する独り芝居のトコなんかお見事としか言いようがありませんよ♪

あと物語の鍵を握るお菊を演じた新珠さんの美しさも素敵でした!(〃∇〃)


一方で主演の三船さんはというと、序盤はその役柄からどうしても椿三十郎

見えちゃったり(汗)、回想シーンで演じる20代そこそこの若侍役にはさすがに無理も

感じたりして、むしろもうちょっと影のある繊細な若手二枚目俳優の方が

しっくり来るんじゃないかな?(・Θ・;) と思ったりもしましたが、観進めていくにつれて

そういった違和感もまるで感じなくなり、クライマックス大立回りでの殺陣、

そしてラストの狂気スレスレの演技を見るにつけ、この役はやはり三船さんじゃ無きゃ

ダメだなぁと思うに至りましたよ。豪胆さと背中合わせの女々しさが何とも人間臭く、

そして切ないのよね・・・(ノ_-。)



あとはクライマックス、桜田門外での大立回りのシーンも凄かった!

映像特典にあったコンテ解説によると、当初5000万円かかると目されていたオープンセットを、

カメラの配置など工夫に工夫を重ねて最終的に1500万円で済ませたそうですが、

じゃあ安っぽさを感じるかといったらむしろ逆でまるで江戸時代からそっくりそのまま

持ってきたみたいにリアルだったし、まるでバイオレンス映画のような大雪降りしきる中での

壮絶な斬り合いも迫力満点でした。ちなみに先程もチラッと述べましたが、本DVDには

映像特典としてクライマックスのシーンの為に岡本自身が緻密に記した絵コンテが

付いてまして、それを観ると岡本監督がカット割りやアングルに対していかに緻密に

計算していたかがよくわかりますよ♪





総評。

岡本監督が重厚でシリアスな作品も撮れる事は、「日本の一番長い日」 を観て

知ってましたが、こんな本格派の時代劇も撮れる方だったんですねー!

Amazonのレビュアーさんの中に『小林正樹の「切腹」にも匹敵する傑作』

おっしゃってる方がいらっしゃいますが、それはともかく隠れた名作である事は

間違いないと思いますよ。

・・・ってか何でコレがほとんどのレンタル店で取り扱われてないんだろう。。。(-。-;)

あえて悲劇性を強調せずに突き放すように終わるラストがかえって哀しみを増幅させるあたり、

キャストの名演と岡本監督の演出が冴え渡る素晴らしい作品だと思うんですけどね。

ってワケでもちろんオススメですっ!!