わかってはいた結末が、来ました。
久々にスピリット界に降り立つと、メローネが手招きして呼び寄せます。
私は、応接間にやってくると、メローネが長机の椅子に座ったのを見て、その対面に座りました。
式神としていつも付いている真理矢と茨ですが、茨はそれを見て、「じゃあ、あたしは酒でも飲んでるよ」と退席します。
真理矢も、それに続こうとしましたが、メローネが珍しく「真理矢。お前はかみなと一緒で良い。かみなの側にいろ」と言ったので、「はあ」と毒気を抜かれたような表情をして、私の隣に座ります。
そして、メローネは「しばらく旅に出ようと思う」と切り出しました。
これって……と、私は、姫様の前身であるおば様が私と揉めて一度この館を去ったことを思い出しました。まさか、2度目があるなんて。
「どうして?理由は?私が、メローネと真理矢の間をふらふらしてたのが嫌なの?」と聞くと、メローネは「そうじゃない」と否定します。
「そんなことで別居を申し出るのなら、とっくにそうしている」だそうです。でも、どうして……。
すると、メローネは、「ここ最近、何度俺のことを思い出した?」と聞いてきます。
私は、言葉に詰まりました。正直、ここ3ヶ月ほど、全くと言っていいほどメローネのことを考えたことがなかったのです。メローネの姿が見えなくとも、「また仕事か」くらいに思っていました。
「率直に言うと、お前と俺との絆の証であるペアリングは、とっくに切れている」と言われ、私は衝撃を受けました。
「それって……縁も消滅しそうってこと?私、そんなに悪いことをしたの?」と聞くと、「悪いことというか……お前の俺への情熱が冷めたという感じだな」とメローネは腕組みをし、「まあ、仕方ないことだ」と言います。
「元々、ガイドであるスーパーマン……俺の陽の存在が消えたことで、俺の存在も不安定になった。それが、お前が俺を好いてくれることで辛うじて俺はガイドとして繋がっていられたんだ。俺は、最初から、遅かれ早かれ消滅する運命にある」と……。
「メローネ……」と、私がなんと声をかければ良いのか迷っていると、メローネは「だから、婚姻関係も自然と切れることになるだろう。何度も言うが、これは仕方ないことだった。元から、俺はお前の好みストライクではなかったはずだ。それが、俺に強引に言い寄られたことで、心が揺らいだだけだ。しかし、お前の愛は間違いじゃなかった。今まで、陽のガイドを失ってもなんとかやってこれたことが奇跡だっただけだ」と。
私は、実は、そのことをなんとなくわかっていました。
メローネと会っている時でも、以前のような燃える恋心がなかったのです。なんでだろう?なんでだろう?と思っているうちに、メローネがおそらくわざと、館を空けるようになっていました。
そして、それを了承していたのは、私なのです。
メローネは席を立ち、ぐるっと私の横にまで移動すると、大きな手を頭の上に乗せました。
「……今まで、貞操観念のあんなに高かったお前に、真理矢と両天秤にかけるような真似をさせて、すまなかった」と。
私は、うつむくことしかできません。メローネの言っていることは正しい。ずるいのはここまでずるずると引きずってきた私なのです。
そこで、メローネは扉に向かい、「かみな、元気で。真理矢、かみなのことを頼む」と言って、扉から出て行ってしまいました。
私は……動くことができませんでした。
隣に座っていた真理矢は、私のことを抱き寄せてきます。
「姉様。僕は、姉様がいる限り、消滅はしません。だから――」と真理矢が言いかけたところで、私は、ぽつりと「なんで涙出ないんだろうな……」とつぶやきます。
「本当に愛した人だったのに、こんなにあっさりと別れられるもんなんだね。メローネが、前から会う機会を調整してくれてたからかな。今は、何にも感じないや。私って、こんなに冷淡な女だったんだね」
そう言うと、真理矢は私を抱きしめて、「メローネは、自分の消滅までに、姉様を傷つけないように立ち回ったんです。それでいいじゃないですか。姉様がマイナスに考えることはありません。今は、僕がお護りします」と、さらにぎゅうっと抱きしめました。
真理矢の、女の子の体の柔らかさを感じていると、段々気持ちがほぐれてくるのがわかりました。
そして、私は、ぐすぐすと泣き始めてしまい、真理矢を困らせてしまいました。
どうすれば良かったのかは、わかりません。ただ、私が過去、本当にメローネを愛していたのは事実です。私は、心変わりで夫を一人、失ったのです。