堂山物語 第30話 | エラー|Ameba(アメーバーブログ)

堂山物語 第30話

マナベさんを案内した日から僕の生活パターンに

マナベさんのお供をするというパターンが加わった。


ふぐふぐのバイトは基本的には夕方の5時からだったが

その頃の僕は早い時には2時間目で学校を

早退していてプラプラしていることが多かったので

ふぐふぐに早い時間から居ることが多かった。


マナベさんも言ってみりゃ自由業。

何故か早い時間にふぐふぐに来て社長と談笑していることが多い。


社長は仕込みがあるので、ずっとマナベさんの相手は出来ない。


そこで僕に白羽の矢が立てられマナベさんのお供をする事が多かった。

僕もお供するのが楽しみでふぐふぐに早く行っていた。



マナベさんはバリバリのヤクザだ。

その時は正式な組員では無かったものの


マナベ 「明日、親父っさんと競馬に行くんや!」


と紙袋に1千万放り込んで持ってきた事もあった。

話の流れではどうも金融の仕事を手掛けているらしい。

警察用語では企業舎弟というヒトたちだ。



もちろん過去は

殺しの軍団と恐れられた組の出身で現役バリバリだったらしい。


カシラのおっちゃんもそうだったが (第25話参照)

マナベさんも過去の辛かった話とかをよく話してくれた。



マナベさんの喋り方はまるで落語を聞いているかのように

抗争や喧嘩の時の話は躍動感溢れる口調で

自分の子供の頃に辛い話などは涙をさそう口調で

聞いてる僕を全く飽きさせない話し方をする。

きっとアタマの回転が物凄く速かったのだと思う。




一番話しを聞いた場所はふぐふぐの近くの喫茶店だった。




この喫茶店に最初に行った時のことである。



席についてすぐ



マナベ 「ワシらはなぁ、どんな事からでもトラブルを作れるやぁ」


堂山  「イヤ、急に暴れ出すとかやめてくださいよ」


しばらくするとウエイトレスさんがお水を持ってきてくれた


ウエイトレス 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


マナベ 「堂山ちゃん。何する?何でもいいでぇ!」


堂山  「じゃあ、僕は~レモンティーにします!」


ウエイトレス 「レモンティーはホットとアイスがありますが?」


堂山  「あ!じゃあ、ホットでお願いします」


マナベ 「じゃあ、おネーさん!ワシ、ミルクで!」


ウエイトレス 「ホットとアイスどちらになさいますか?」


マナベ 「ホットで」


ウエイトレス 「かしこまりました」


意外と普通に注文をこなしたので、先程言っていた

「どんな事からでもトラブルを作れるやぁ」発言は

この店では関係ない事だと僕は安心する。



ウエイトレスさんも見るからにヤクザ丸出しのヒトに

かなりビビっていたのが僕でもわかった。

僕も目の前のヒトが何時、行動を起こしてしまうのか

ドキドキドキドキしていたのだ。



やがてウエイトレスさんが注文の品を持ってきてくれた。



僕の前には レモンティーのホット

マナベさんには ミルクティーのホット




この瞬間、僕の目の前のヤクザ丸出しのヒトが動いた!





マナべ 「おネーさん!ワシ!こんなん頼んどらんぞ!!」


僕もウエイトレスさんも????状態だ。


僕は、ほんの数分前のやり取りを思い出してみた。


ウエイトレス 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

マナベ 「堂山ちゃん。何する?何でもいいでぇ!」

堂山  「じゃあ、僕は~レモンティーにします!」

ウエイトレス 「レモンティーはホットとアイスがありますが?」

堂山  「あ!じゃあ、ホットでお願いします」

マナベ 「じゃあ、おネーさん!ワシ、ミルクで!」

ウエイトレス 「ホットとアイスどちらになさいますか?」

マナベ 「ホットで」

ウエイトレス 「かしこまりました」


一体、何が違うんだ!?

ちゃんとレモンティーとミルクティーのホットが来てるじゃないか!?


僕は一刻も早く、この場から立ち去りたくなる…




マナベ 「ワシィ!ミルクや!ゆうたやろ!ミルクって!

      ホットのミルクぐらい作れるやろぉ!マスターさんよぉ!」



え?まさか?暖かい牛乳の事をおっしゃっていたのか?

極道丸出しのアナタが暖かい牛乳なんか喫茶店で飲むなんて

一体、何処の国のヒトが想像できるだろうか?


確かに ホットミルク を注文しているのは間違いない…


おそらく顔面引きつっていた僕に


マナベ 「これがワシら極道の世界やぁ!」


僕にそう言ったマナベさんは、

あの不適な笑みを浮かべながら結局ミルクティーをすすっていた。



その日から、この喫茶店のメニューに

ホットミルクが掲げられたが

マナベさんが頼んだのは一度も見たことがない…


続く