堂山物語 第31話
僕がマナベさんの魅力に引き込まれた一つに外見もある。
とにかく、あまり飾らないヒトだった。
今風で言うと、ちょい悪オヤジみたいな格好だが
本人はちょい悪どころかバリバリの極悪オヤジだから
それが、なんとも格好よかった。
おそらくOFFであろう日(その世界の付き合いが無い時)は
信じられない事にアメカジファッションだった。
ヘビーローテーションは赤のスウェットにチノパン。
ONであろう日はビシッとスーツ着用で現れる。
マナベさんがいつも着ていたスーツスタイルは
3つボタン段返りにボタンダウン。
僕は影響を受けてこのスタイルを好んでいる。
乗ってくる車は様々だった。
それこそベンツからミラパルコまでといった感じ。
予想の範囲でしかないが債権代わりで押さえた車かと思う。
これも僕が影響を受けた車がある。
見た目はバリバリの極道のオッサンが
バンっと音をさせて降りてきたのがミニ・クーパーだった。
この超アンバランスが超カッコよかったのだ。
夕方からふぐふぐでバイトなので一度京都迄、お供した事もある。
お皿を買うから付いてきてくれと京都のたち吉という店に行った。
この時の交通手段は何と電車だったのだ!
阪急電車の十三という駅がある。
この駅は京都線・宝塚線・神戸線の3路線乗り入れている。
僕達は十三で待ち合わせをして京都線に乗った。
阪急電車の京都線の特急は座席が新幹線スタイル。
マナベさんと僕は車両の後ろのほうに座った。
特急なので当時は京都までの停車駅は2~3駅しかない。
ヒトの乗り降りがほとんど無いので、この特急の車内は結構静かなのだ。
マナベさんも見た目ヤクザだが、こういう場所では静かだ。
というよりバリバリのヤクザさんが在来線に乗っているのは
あまり見かけた事がないしありえない…
そんな気取らない所がマナベさんの魅力でもある。
ピロピロピロッ♪ピロピロピロッ♪
ピロピロピロッ♪ピロピロピロッ♪
そんな静かな車内に前の座席の方から
携帯電話の着信音が鳴り響いた…
ピロピロピロッ♪ピロピロピロッ♪
ちょうどドコモのNからパカパカの携帯が出た頃か…
マナベさんは勿論、携帯を持っていたが僕はもっていなかった。
当時は携帯電話はそんなにも普及していない時期。
車内の全乗客がちょっと戸惑っている空気が流れる。
すると着信音は途絶えた…
どうもこの携帯の持ち主は寝ているようだ。
ピロピロピロッ♪ピロピロピロッ♪
再度、着信音が鳴る。
今度は気付いたらしく
持ち主のオッサン(声からの予想)が電話に出る
オッサン「もしもし~あ~まいど!まいど!」
オッサン「いや~かめへん!かめへん!」
オッサン「おう!おう!あれなぁー!300万で片付いたわ!」
オッサン「おう!おう!次はな逆瀬川(地名)の方の物件でなぁ!」
どうやら仕事の取引先との電話だろうか、ともかく声がデカイ…
オッサン「逆瀬川はなぁ~。おう!おう!そうよ!」
オッサン「ガッハッハッハッハ!(爆笑)」
もう完全に京都行きの特急電車の車内の空気は
オッサンええ加減にせえよ的な空気一色に染まる…
マナベさんは怒ってないのか?と横を見ると
肩肘を付いて窓の景色をのんきに眺めている…
このヒトはそんなに気にならないのだろか?
この頃は確かに携帯を持ってるのが
ステータスというかカッコイイと思っているのか
電車内でも大きな声で通話するヤツだ多かったに思う…
オッサン「そうか!そうか!ハッハッハ!(爆笑)」
僕が座っていた座席から前のヒトのアタマから
ヽ(`Д´)ノヽ(`Д´)ノヽ(`Д´)ノヽ(`Д´)ノ
が見えてくるような空気さえ感じる…
多分、車両の中の全員もそう感じていたであろう…
「ちょっと、待たんかい!こらぁ!」
突然、大声が車内に響きわたった!
マナベさんだ!
「オイ!その一番前で
電話しているお前!」
立ち上がったマナベさんは一番前のオッサンを指差す。
マナベさんの怒鳴り声はヤクザ映画そのものだ!
「そうだ!お前だ!お前!」
オッサンも気付いたらしく座ったまま後ろを見渡す。
「バカモン!起立せんかい!」
オッサンも怒鳴っているのがヤクザっぽいと分かってか気付き立ち上がる!
今度は車内の全員がマナベさんに対して
よっ!まってました!o(^▽^)o
見たいな空気に一変している。
「いいかぁ!よく聞けぇ!」
車内の全員が期待をする!
「お前は今ぁ!
間違った事を2つしているぞ!」
Σ(゚д゚;)えっ!2つ!?
1個は分かるけど、あと1個は何?
車内全員が思っていたと思う。
「いいか!お前は今!
電話で車内の静かな空間を
ぶち壊しているのに気付かないのか!」
車内全員が その1個目はわかるぞ みたいな空気。
「そして、お前は!
会社の大事な情報を
世間にもらしているんだ!
わかったか!バカモン!」
シーン…
・・・・・・・・・・・・・・・・車内に静寂が流れる。
パチ…
…パチ…パチ。パチ!パチ!パチ!
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
なんと他の乗客の皆さんが
誰からと無くマナベさんに拍手を贈り出したのだ!
あんな短時間で見知らぬヒトたちから受けている拍手喝采。
車内の空気を自由自在にあやつったヒーローの誕生だった!
このヒトは凄いとあらためて感じた出来事である。
ヤクザさんは元は博徒という博打を生業とするヒトたちだ。
場の空気を読み、流れを一気に自分に持ってくるのに長けている。
マナベさんのその能力はズバ抜けているものがあった。
こんなヒトになりたいなぁと憧れた瞬間でもあった。
これから僕は、ますますマナベさんの魅力にハマっていった。
それは外見の格好よさじゃなく人間的な魅力だった。
ちなみに電話のオッサンは次の停車駅の高槻で
コッソリ降りていったのは言うまでも無い…