ピープルvsジョージ・ルーカス(2010) | つぶやキネマ

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140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

ピープルvsジョージ・ルーカス(2010)

 

 世界中の「スター・ウォーズ・シリーズ」を愛するフ
ァンが、生みの親であるジョージ・ルーカスに怒りと憎
しみをぶちまけるドキュメンタリーであります。怒りの
発端は1997年に始まった旧三部作の「特別篇」の製作と
公開で、オリジナル版への愛が強過ぎてCGや編集によっ
て改変された「特別篇」は絶対認めない、認めたくない
という思いから、映画関係者や便乗して騒ぎたいアーテ
ィストや人類学者等も巻き込んでとにかく怒っているの
であります。しかし、作品の改変に対する怒りについて
は同意できるのだが(注1)、「自分の人生を返せ」「グッ
ズ集めに走った責任をとれ」等、それはジョージ・ルー
カスというより自分の責任でしょとツッ込みたくなる発
言も多いし、聖書やダ・ヴィンチのモナリザを例に出し
て「神聖なモノを犯した」という方向違いなトンデモ理
論を展開する猛者もいたりで笑ってしまう。人格形成期
に観た事で強い影響を受けたのは良く解るのだが、10歳
で1977年公開の第1作を観たとしても「特別篇」公開時
は30歳の立派なオトナになっているハズで、解決できて
いない自身に責任があると思うのだが、そういう部分に
関しては熱烈ファンの大半が完全に思考停止しているよ
うだ...「坊主憎けりゃ袈裟まで」という感じで新三部作
やインディ・ジョーンズ第4作にまで噛み付いているのが
可笑しい。作品を愛するあまり自分の中で肥大化している
"価値観"と"商品"としての映画のあり方が区別出来ていな
いし、芸術家のメンタルについては理解出来ないのだろう
(注2)。本作には、熱烈ファンがキャラクターを自分たちで
演じて製作した映像や悪意だらけのパロディ作品等が収録
されていてナカナカ楽しいのだが、標的であるはずのルー
カスがシリーズのフッテージ収録を許可しているあたり、
攻撃側の皆さんはどう感じたんだろうねぇ。彼らのジレン
マは創造者と改変者が同一人物だという事なんだが、本作
公開後に発表されたルーカスの引退とシリーズの権利売却、
ディズニーによる新作製作についても聞いてみたいもんだね。

 

●スタッフ
監督:アレクサンドレ・O・フィリップ
製作:ロバート・ミュラトール、ヴァネッサ・フィリップ、
ケリー・ディーグナン・ロイ、アンナ・ヒッグス
撮影:ロバート・ミュラトール
音楽:ジョン・ヘーゲル

 

●キャスト
フランシス・フォード・コッポラ、ゲイリー・カーツ、
デヴィッド・プラウズ、ジョー・ナスバウム、
ニール・ゲイマン、アンソニー・ウェイ、デイル・ポロック
サイモン・ペッグ

 

◎注1; 「特別篇」については個人的にも色々文句を付け
たいのだが、その方向性は彼らとはだいぶ違う。一番問
題なのは、限られた予算と技術でオリジナル版を製作し
たスタッフに対する敬意や感謝の気持ちが感じられない
点であります。本作には第1作、第2作のプロデューサー
だったゲイリー・カーツも出演していて、その辺りにつ
いても語っている。インタビュアーが無知だったのか、
面白い話を聞き出せずに終わっているのが残念。公開当
時からのファンなら良く知っている話なのだが、第1作
を製作するにあたってルーカスは色々な要素を盛り込も
うと様々なアイデアを出したが、くだらないアイデアが
多すぎてカーツやスタッフから拒否される事がしょっち
ゅうだったようだ。予算オーバーを巡ってルーカスと衝
突したカーツが降板した第3作が散漫な作品になってしま
ったあたり、第2作まではそういうコントロールが働いて
いた事がうかがえる...個人的には第1作、第2作のクオリテ
ィを決定したキーマンはゲイリー・カーツだったと思って
いるんだけどね。直線的な活劇の第1作はホントに夢中に
なり公開後に発売された書籍や画集、ダイジェスト版8mm
フィルムやメイキング・ビデオも購入したし、ダークで意
外な展開が連続する第2作も大好きだったが、第3作に失望
しそれ以降は「スター・ウォーズ・シリーズ」を距離を置
いて観られるようになったので、「特別編」や新三部作、
最新の「クローン・ウォーズ」まで(ツッ込み入れながら)
しっかり楽しんでいます。

◎注2;発表した作品に対する芸術家のスタンスは大きく分
けて二種類あって、いっさい迷いが無く黙々と製作し発表
してしまった作品には無関心で次の作品に向かうタイプと、
製作中も手直しを繰り返し発表後にも色々直したい衝動に
駆られるタイプがいる。映画の場合は製作行程や製作費の
問題で後者はほとんど不可能とされて来たのだが、スティ
ーヴン・スピルバーグの「未知との遭遇/特別編(1980)」
で作品によっては修正版にも興行価値がある事が証明され
てしまった。しかし大きな予算がかかる劇場版ではナカナ
カ実現しなかったのだが、LDの時代になってジェームズ・
キャメロンの「ターミネーター2(1991)」が4バージョン発
売される等マニア向けならば商売が成り立つ事がわかった
ので、それ以降「ディレクターズ・カット版」等の完全版
商法が定着する事に...近年は完全版ソフト発売を視野に入
れた劇場公開版の製作という本末転倒な事態になってます。
「スター・ウォーズ・シリーズ」「インディ・ジョーンズ
・シリーズ」で大富豪となったルーカスが、過去の作品を
手直ししたくなった気持ちは良く解る...「特別篇」や新三
部作は完全に自己資金で製作されたプライベート・フィル
ムなのであります。完全版商法による「未知との遭遇」
「E.T.」「ブレードランナー」等のDVDやBlu-rayでは最
初に劇場公開されたオリジナル版も収録されているが、ル
ーカスはオリジナル版を封印しようとしているので熱烈フ
ァンの反感を買っている。旧三部作のオリジナル版は、過
去に発売されたVHSやLD、廃盤となった2枚組DVDでし
か観られないという状況が、本作を生み出したとも言える
...1978年に放映されたトホホなTVドラマ「スター・ウォーズ・ホリデー・スペシャル」は本気で封印したいようで
すが。