キャロル・エムシュウィラー, 畔柳 和代
ネットで新刊情報を見ていて、この表紙とタイトルに一目ぼれ。例によって図書館から借りてきたわけです。ちなみに、この表紙は南桂子さんという方の「しだの中の鳥」という絵らしいです。ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション協力とのこと。そして、タイトルの話をすれば、原題は「The Start of the End of It All」。恩田陸さんの「エンド・ゲーム 」の中にも、「終わりの始まりの雨が降る」というフレーズがあったのだけれど、この「終わりの始まり」という言葉には、何だか心惹かれるものを感じるのです。
50年代から主にSF雑誌にて作品を発表してきたという、著者、キャロル・エムシュウィラーは、85歳を越える現在も精力的に執筆活動を続けているのだとか。
語られるのは、SF?ファンタジー? 枠は良く分らないけれど、異種のもの、異世界との交わりのお話。私とは異なる種族であるとはいえ、それは向こうからしたら、こちらが異種であるわけで、それはきっと小さなこと。それぞれの短編は主に女性を主人公とするのだけれど、彼女たちは異種のものたちとであっても、淡々と日常生活を築こうとする。それはきっと、私たちの普通の生活においても同じであって、外見はたとえ同じ種族のものであっても、実は内面では異種のものであるのかもしれない。こういう肌触りが、実に女性作家らしく感じたのだけれど、男性はどう読まれるのでしょうか?
私の好みでいえば、最初の方は非常に面白くわくわく読んだのだけれど(「ボーイズ」あたりまで)、似たテーマが続くので途中からはちょっと飽きてきて、少しずつ少しずつ読んでました。さらに後半のものは、少々難解でもあるような気もします。
「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」はまさに文字通り、住人に気づかれずに彼女の部屋に住む「私」の話、「すべての終わりの始まり」は謎の異星人?クリンプたちの地球征服に協力することになった、「女ですし、いい歳ですが」の私の話。この件で彼らに協力しているのは、全て女性で、更に全員が離婚経験者。
「見下ろせば」は女性ではなく、鳥人?(鳥とヘビと猫の三位一体)である「俺」の話。俺にとって鳥人である自分たちのみが「人間」であり、飛べない奴らはただの「半人間(ハーフ・ピープル)」。ところが、ある冬、俺は怪我をし、半人間の女に助けられ、彼らの間で神として祀られることに…。
「おばあちゃん」は活動家だったスーパー・おばあちゃんとでも言うべき、祖母について孫娘が語る物語。でも、やっぱり、これもまた普通の話ではないよ。「育ての母」は、「彼ら」の指示により「幼いもの」を育てることになった「私」の話。「彼ら」は、「幼いもの」を「それ」と呼び、「それ」には知能はないと言い切るが、私は秘かに名前をつけ、彼の行く末に心を痛める。
「ウォーターマスター」は、水の守人である「ウォーターマスター」の話。「ボーイズ」は、マッチョであらねばならない男性の悲哀と言いましょうか、男だけで暮らし、少年を盗み、年に一度だけ<母親たち>のもとへ行って、戦士を増やすべく交尾する部族のお話。家庭を持つことは禁じられ、どの子どもをも均等に愛するために、誰の子供であるかすら男たちには分らない。ところが、大佐である「俺」は、ここのところ、交尾日の度にウーナを探してばかり。そんな日々の中、子供たちを奪われ続けることに怒った女たちが、男たちに対して反乱を起こし…。
うーん、いっぱい書いちゃいましたが、やっぱりここら辺あたりまでが好み。SF大会におけるスピーチを収録した「ウィスコン・スピーチ」も面白かったです。世界で唯一のフェミニストSF大会ってほんと? そして、「すべての終わりの始まり」にも、「見下ろせば」にも猫が出てくるわけで、エムシュウィラーは猫好きなんでしょうか。でも、SFってなんとなく犬よりも猫の方が相性がいい感じがしますよね。
目次
私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない
I Live with You and You Don't Know It
すべての終わりの始まり
The Start of the End of It All
見下ろせば
Looking Down
おばあちゃん
Grandma
育ての母
Foster Mother
ウォーターマスター
Water Master
ボーイズ
Boys
男性倶楽部への報告
Report to the Men's Club
待っている女
Woman Waiting
悪を見るなかれ、喜ぶなかれ
See No Evil, Feel No Joy
セックスおよび/またはモリソン氏
Sex and/or Mr.Morrison
ユーコン
Yukon
石造りの円形図書館
The Circular Library of Stones
ジョーンズ夫人
Mrs. Jones
ジョゼフィーン
Josephine
いまいましい
Abominable
母語の神秘
Secrets of the Native Tongue
偏見と自負
Prejudice and Pride
結局は
After All
ウィスコン・スピーチ
WisCon Speech
訳者あとがき