「歌の翼に」/ピアノのメロディーにのせて | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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菅 浩江
歌の翼に―ピアノ教室は謎だらけ
祥伝社ノベルス

ピアノ教室の先生、杉原亮子を中心とした連作ミステリ。

目次
第一話 バイエルとソナチネ
第二話 英雄と皇帝
第三話 大きな古時計
第四話 マイ・ウェイ
第五話 タランテラ
第六話 いつか王子様が
第七話 トロイメライ
第八話 ラプソディ・イン・ブルー
第九話 お母さま聞いてちょうだい

町の楽器店、数田楽器店の音楽教室で、近所の子供たちにピアノを教える杉原亮子。如何にもお嬢様然とし、注意深く選ばれた上質な品々に囲まれた家で暮らす彼女。ところが、その居心地良さげな家には不釣合いなほどの物々しい警備に、「お嬢様」という言葉を耳にする度に哀しげな表情を見せる亮子に、違和感を覚える人々もいる。有名音大を首席で卒業したにも関わらず、演奏家の道を歩むことなく、しがないピアノ教室の先生という身分に甘んじ、人前でも決してピアノの演奏をすることのない彼女。彼女の過去には一体何が?

亮子の勤め先の楽器店の奥さんは、「精神的に色々あって、人前では演奏が出来ない」という亮子の事情は承知しているものの、何となくほうっておくことの出来ない彼女の風情に、時々抜群の冴えを見せる彼女の推理力に、亮子自身に対する興味も津々。それは勿論、彼女に対する思いやりを忘れないレベルのものなのだけれど・・・。亮子の事情を全て承知している声楽家の友人、花田裕美子、彼女の紹介により数田楽器店でアルバイトすることになった、音楽療法士を目指す大八木千鶴を絡めて、話は進んでいく。

ちょっと珍しいな、と思ったのは、第一話から第九話まで、それぞれ違う人物が主となって語られるということ(第六、第八は特定の人物なし?)。第一話と第九話は、主人公である亮子の視点で語られるのだけれど、第二話は「楽器店の奥さん」である幸代が、第三話は楽器店の息子、慎太郎が、第四話は音楽療法士の卵、千鶴が、第五話は同じ音楽教室のピアノ教師、実千代が、第七話は亮子の友人、裕美子が主となって語られる。

周囲の人々が丁寧に書かれるせいか、読み終わる頃には、このちょっと時代遅れ気味でもある、数田楽器店の音楽教室がすっかり馴染みのお店になっている。ここで描かれるのは、子供同士の諍いであったり、母娘のそれぞれの闘いであったり、何だか懐かしいともいえる問題。子供時代の習い事の定番、「ピアノ教室」といい、全てが何だか懐かしいというか、ノスタルジックな色合いを帯びる。亮子を襲った問題については、途中で何となくは分かるものの、ノスタルジック~♪なんていってられるような、甘い問題ではないのだけれど、ピアノ教室の生徒たちのやさしさや、亮子の友人たちのやさしさにちょっとじんとくる、さらりと読めるミステリ。

菅浩江さんは初読みだったのですが、私、実はSF作家の飛浩隆さんと混同していた模様・・・。おかしーなー、おかしーなー、と思ってたんですが、これでしっくり。つか、名前が三文字の所しか似てないよ、何で混同したんだよ、私。