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酒見 賢一
「後宮小説 (新潮文庫) 」
読み終わっての感想は、これはまたけったいな小説だなぁという事。第一回ファンタジーノベル大賞受賞作であるこの作品は、中華風味のファンタジーとでも申しましょうか、「ファンタジー」と言われると、ついつい「え、魔法?、妖精?」などと思う、こちらの固定観念を軽く超えてゆく。でも、森見さんの『太陽の塔』などもファンタジーノベル大賞だし、この賞自体が、わざと所謂「ファンタジー」っぽいものを回避してんでしょうか。
目次
崩御/宮女狩り/入宮/双槐樹/仮宮/女大学/後宮哲学/卵/淫雅語/銀正妃/
喪服の流行/前夜の絵巻/幻影達の乱/北磐関/後宮軍隊/受胎/縦横
あとがき
解説 矢川澄子
至極最もらしい文献などを引きつつ、語られるのは片田舎の出身の少女、銀河の数奇な人生。
前帝が腹上死したために、若干十七歳の皇太子のために、新しい後宮作りが必要となった。広い国土を宦官のチームが飛び回り、少女銀河が住まう緒陀地方にも、宦官真野がやって来た。齢十三歳の銀河は宮女になることになる。
彼女が連れ出された素乾国の都、北師の街にある宮殿において、銀河は宮女となるための研修を受ける。この後宮というところが、またけったいな所で、全ての宮女は膣を模した「たると(垂戸)」を通って後宮へ入り、また月に一度は何人かの宮女候補が後宮を出されることになる(所謂、「月のもの」を模す)。後宮とはすべからく女性を模すものである。
さて、銀河は同室の宮女候補生たちや、その他大勢の候補たちと共に、角先生による女大学に励む。もともと後宮の講義は、性技術の講義として始められたものだったけれど、角先生は哲学の徒であった。まだまだ童女である銀河は、同輩達が陶然となる美貌の菊凶による性技術の講義よりも、むしろ枯れた学究の徒である角先生による講義を好む。角先生もまた、銀河を可愛がり、また己の人生を賭けた証を彼女に夢見ようとする・・・。
並み居る美貌の者達を抑えて、なぜか正妃の座を射止めた銀河であるが、折悪しく、反乱軍の蜂起が勃発する。銀河は後宮で軍隊を組織し、反乱軍に立ち向かうのであるが・・・。
粗筋を書くとこんな感じなのだけれど、これはむしろ周りの与太話の方が面白い本。銀河の同室の三人の女性たち、庶民の出の銀河を馬鹿にしていた気位の高いセシャーミン、道ならぬ恋に燃える玉遙樹(タミューン)、美貌だけれど無口で簡潔な表現を好む江葉も魅力的だし、すっとぼけた角先生も魅力的。そして、何と言っても皇帝がね! 私は好きだなぁ。
また、敵方である幻影達(イリューダ)、渾沌のコンビも興味深い。特にこの渾沌の人物設定はなかなか他の小説では見られないものだと思う。彼の心と行動は、まさに渾沌そのもの。
これを元にしたアニメも出ているそう。