「郵便局と蛇」 /自然と不思議と | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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A.E. コッパード, A.E. Coppard, 西崎 憲
郵便局と蛇  

目次
銀色のサーカス
郵便局と蛇
うすのろサイモン
若く美しい柳
辛子の野原
ポリー・モーガン
王女と太鼓
幼子は迷いけり
シオンへの行進

巻末の「A・E・コッパードについて」によると、コッパードの作品は、キリスト教に関わるもの、村を舞台にしたもの、恋愛小説的なもの、ファンタジー、の四種に大別できるそうである。で、この「郵便局と蛇」は、その四種の中からランダムに編まれたものだとのこと。

虎の毛皮を被り、ライオンと闘う羽目になった男の話(銀色のサーカス)。
いつか世を滅ぼすとの予言をされ、封じ込められて最後の審判の日の前日までは、沼から出られない王子の話(郵便局と蛇)。
天国の悦びを探しに行った、幸福だった事が生涯三度しかなかった男、うすのろサイモンの話(うすのろサイモン)。
とある街道に立っていた、若く優美な、けれど一人ぼっちだった柳の話(若く美しい柳)。
薪を拾いにやって来た三人の女たちの話(辛子の野原)。
アガサ伯母と幽霊との蜜月を壊してしまった、ポリーとジョニーの話(ポリー・モーガン)。
戴冠することのない王女に、王冠の代わりに渡された太鼓の話(王女と太鼓)。
エヴァとトムの息子、無気力なデヴィッドの子供時代から青年時代までの話(幼子は迷いけり)。
旅をするミカエルの話(シオンへの行進)。

こう羅列してみただけでも、かなりのバラエティに富んだ話だと思う。美しい自然描写も魅力的だし、「うすのろサイモン」における天国へのエレヴェーターなど、ほんのぽっちり挿入される超自然的なアイテムも魅力的。

この中で私が好きだったのは、「辛子の野原」、「王女の太鼓」、「シオンへの行進」の三編。

辛子の野原」は、薪を拾いにやって来た女たちが、野原の中でただ語り合うという話で、不思議な事などは何もない。過ぎ去った男を追憶する二人の女、最後に一人の女が見つける一シリング銅貨など、平凡な人生にも過去それなりの出来事があり、それら全てを内包して人生は続くんだな、と思った。最後には小さな希望が残っていたり、ね。

王女の太鼓」は、家出した孤児のちびのキンセラが出会った王女トゥルースの話。戴冠式は常に延期され、王冠の代わりを求めた王女に与えられたのが太鼓、というこの突拍子もなさがいいなぁ。王女の見張りをしているのは、巨人のハックボーンズだったりね。この太鼓は実に美しく、「太鼓の胴には惜しげもなく黄金が用いられ、皮はもっとも神聖な獣の皮。飾り鋲と楔は水晶と柘榴石。絹の吊革、翠色も鮮やかな房飾り、黒壇の枹が一対」付いているのだそうな。

シオンへの行進」は、天国への旅路ということなのかなぁ。巻末の「A・E・コッパードについて」にもあるような、コッパードのキリスト教への不信感を表しているような気もするお話。旅をするわたし(ミカエル)の相棒となったのは、絹の舌と鉄拳を併せ持つ修道士。修道士は罪を犯す男を打ち殺す・・・。更に彼らと共に歩むことになったのは、自分が見た夢のために祈るマリア。

これは私にとっては「魔法の本棚シリーズ」の最後の一冊だったんだけど、これもまた不思議な味わいのお話でした。思いっきり怪奇小説している「
赤い館 」を除いて、この「魔法の本棚シリーズ」は自然描写がどれもこれも素晴らしい物語でした。美しい自然の中にあってこそ、「魔法」が活きるのかしらん。