「呑々草子」/旅行かば・・・ | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

杉浦 日向子
呑呑(のんのん)草子

杉浦日向子さんが、「週刊現代」編集者、ポアール・ムース・モリヤマ嬢(文中、「ポ」)と、取材を重ねた二年間のお話。「取材」といっても「呑々」というタイトルが示すとおり、それは決して堅苦しいものではない。

呑々は、雑文中の雑文を目指すもので、起承なければ転結もなし。いつでも単なる思い付き。ちっちゃなネタで、たっぷり無駄口。スナワチ、塩嘗めて一升、をその極意と奉じる所存である。ウカとかかわったが御身の悪縁、のんべんだらりをズブロクときこしめせ。                            (p140より引用)

ってなもんである。

その「思い付き」は実に多岐にわたり、新宿から高速バスで福岡へ向かい、そこから更に鹿児島へ。そのまま東京にとんぼ返りする「トライバスロン」や、秋は月見だ!で、場所も知らなかった「炭坑節」で有名な三池炭鉱に行ってしまったり。
また、バブル期ならではとでもいいましょうか、エグハデ・ハイレグ水着で都心のプールへ行ってみたり、ジュリアナに行ってみたり・・・。
その「思い付き」は、とっても酔狂なものだと言える。

でも、この杉浦さんとポアール・ムース嬢がとってもいいコンビでね。行く先々で、ぐいぐいと気持ちよく盃を乾し、粋な食を楽しむ。当時まだ若い編集者だったらしい、ポ嬢に対する、杉浦さんのお姉さんぶりが、いい感じ。テーマに関連する杉浦さんのマクラもまた楽し。きのこ、菌類に対する愛なんぞは、ちょっと意外な感じもする。

俄然筆がのってる感じがして可笑しかったのが、男性の裸関係二本。笑

「オトコのチクビ」で読むは、次の一句。

 胸板に晒乳首が生きて来る (ヒ)  : 飛騨古川の奇祭「起こし太鼓」にて

「尻遍路」では、マクラの江戸言葉のお話が面白かった。江戸言葉では「むっくりとしたいい男」というのだそうな。外見で言えば、中肉中背やや固太り、かつまた色白できめ細かい餅肌、顔は大きめ、こざっぱりした造り、胴は長め。また、「むっくり」には、些事にこだわらぬ、さばけて温かみのある男気をも含むのだそうな。で、こっから、「むっくりとしたいい男」の褌姿(!)に話が繋がるのですな。

その他、ふーむと思ったのは、編集者の仕事を取材した「ポのシゴト」。これまたマクラが面白くてですね、版元のシゴトには作家をその気にさせて、約を取り付ける「前段階」への労力があったということ。二百年前、江戸の作家は我侭な天邪鬼だった。彼らの大半は、筆による稼ぎなどを当てにしない、別に正業を持つ身であり、いわば旦那の片手間の執筆。純粋な職業作家の登場を待つ前には、まさに片手間の彼らを「その気にさせる」事に、労力の大半が払われたわけ。

未だに、作家と編集者の仲の良さが不思議だったりしたのですが、こういった伝統が連綿と受け継がれているのね、と思うと何だか納得するのでした。

ま、この「呑々草子」もその気にさせる編集者や、お足を出してくれる版元あってのものなのかもしれませんが。

軽快な文章ではないので、読み易いわけではないんだけど、粋な文章にうっとり、文中から立上るお酒にくらくらの一冊。

いやー、久々に日本酒が呑みたくなりましたですよ。私は蕎麦を食べられないんだけど、池波正太郎を引くまでもなく、蕎麦屋で一杯は、やっぱり粋な大人のイメージであって、一つ損をした気がするなぁ。杉浦流の蕎麦の食べ方も載ってます。

目次
巻の一 仮想正月
巻の二 ちんかも伝説
巻の三 ひねもすのたり
巻の四 東京干物
巻の五 東京だよオノオノ方
巻の六 オトコのチクビ
巻の七 トライバスロン
巻の八 なつかし狩り
巻の九 悲しき肉塊
巻の十 月が出た出た
巻の十一 感傷海峡
巻の十二 ポのシゴト
巻の十三 新酒三昧
巻の十四 ジュリアナじゃ
巻の十五 ラッキョ男のキス
巻の十六 尻遍路
巻の十七 理由なき酩酊
巻の十八 隠居志願
巻の十九 さぬきにはまる
巻の二十 元気なやつら
巻の二十一 花火と寄生虫
巻の二十二 なにわ蝉しぐれ
巻の二十三 ベニテントリッパー
巻の二十四 裸の最終回

← こちら、文庫。枡酒に仲良く漬かってますね。笑
               そう、お風呂にも良く入っているのです。

*臙脂色のの部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。