『ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説』マルクス | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

■『ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説』カール・マルクス著/中山元訳 光文社古典新訳文庫





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「青年マルクスは、宗教批判から現実の政治変革としてヘーゲルの法哲学批判へと向かい、そしてユダヤ人問題、すなわち「貨幣」に支配される社会を変革することなしに、真の人間解放はあり得ないと喝破する。独創性あふれる「初期マルクス」の最重要論文集に、詳細かつ丁寧な解説を付す」Amazon商品説明より



ようやく読み終えた。1年くらいかかっちゃったかな。本編というか、マルクスじしんの論文じたいはけっこう前に読み終えたのだけど、翻訳の中山元による解説が長大で・・・。特にフロイトの新訳ではお世話になったが、このひとの解説は非常に丁寧でしっかりしていて、すばらしいのだけど、今回の充実度はこれまでの比ではなかった。なにしろ、562頁あるうち本編が246頁、ということは解説だけで316頁になるのだ。ふつうに若干厚めの文庫本くらいある。これに、マルクスじしんと比べればわかりやすいものであるはずなのに、ずいぶん手こずってしまったのだった。


収められている論文はどれも初期マルクスが「急進的な民主主義者」から「プロレタリアートによる革命を目指す共産主義者」へと変わっていく時期の重要なもので、26歳のときに書かれた「経済学・哲学草稿」よりもさらにちょっとだけ前らしい。驚異的な若者である。基本的にはヘーゲルの法哲学と、友人でもあったがやがて離れていくブルーノ・バウアーを批判している。これまで読んだマルクスでいちばん読みやすく、すっと入ってきたのは「共産党宣言」だったが、あれにしても、当時の世界の経済状況が身の回りにないところで読んでいるぶん、解説書をこれまでにいっさい読んでいない状態で果たして理解できたかなというようなところがあったが、おもえばマルクスは、基本的に「批判」のひとなのである。社会のありかたを批判し、それを擁護するひとを批判し、また批判するひとの批判のしかたを批判し、その思想を打ち立てていったのだ。本書でいえば、多少の引用や説明があるとはいっても、体感的にはほとんどいきなりバウアーやらヘーゲルやらが出てくるので、たまたまこの前にそれらを読んでいるというのならはなしは別だが(しかしヘーゲルはともかくとしても、マルクスより先にバウアーを読んでいるというひとは現在ではいそうもない)、難しいというかわかりにくくて当然なのである。哲学書は、新書やなんかの入門書で満足せず、本文を、それも極端なことをいえば原文で読まなくてはいけないということがどうも専門に勉強しているひとではあるようだが、個人的には、易しい翻訳や解説にたよることをそこまで毛嫌いするのはやめたほうがいいという気がする(たいていのばあい、解説でさえも難解であることが多いが)。学者になるというのでさえなければ、最終的にそういう目標があればいいというはなしであって、こんなものをなんの用意もなくあたまから理解しようとしたって素人にはまず無理である。


というわけであるから、例の如く、本書の解説のようなものを書くことは僕には不可能であるし、僕でしか書けないような新たな読みかたなんか到底無理なので、とりあえず読んだという記録としてこの記事を残すことにします。僕のばあいは、小説やなにかを読んでいて、ふとひっかかり、過去に読んだこうした本のことを思い出し、ブログで広げることで、読みが深まっていくということがけっこうある。というか、フロイトなんかはまさにそうやって、読んでいないときに理解が深まっていった。マルクスは、あまりにはなしの規模が大きすぎて、しかも経済とか政治とかもっとも苦手とする領域のひとでもあることだし、読んでいるそのときはわかったような気になっても説明せよといわれるとつまってしまうようなところがある。マルクスにおいてもそういう機会がやってくるのを待つしかないかもしれない。ただ、本書の解説は、これだけで初期マルクス、革命の担い手としてプロレタリアートを見出すまでのマルクスはばっちりというしろものだとおもう。難しかったものは読み返すとしながらけっきょく時間がなくてぜんぜんできていないが、本編も含めて、いままでのマルクスじしんの書物に比べれば比較的わかりやすかったし、これくらいはせめてもういちど通読してから、次にすすみたい。





ところで、光文社のこの翻訳の流れは、てっきり中山元なり森田成也なりで資本論の翻訳が出るということなんじゃないかとおもっていたのだが、中山元はじつはとっくに(2011年)日経BP社から資本論の翻訳を出しているのだった(まだ1巻のみかな?)。とはいえ、光文社からも森田訳で資本論の草稿 が出る予定があり(もともと去年の11月くらいの予定だったはずだが、延期になっているようだ)、たぶんそのうち森田訳で資本論本編も出るのではないかとおもう。それまでおおまかにマルクスの輪郭くらいはつかめていないと・・・。





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