** STILL BORN ** | Tortue topico*

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**アンティークに魅せられて**
いい事も 悪い事も 全て人生…
時が経てば味になる。
そんな風に生きられたらいいなぁ
お空に還した我が子の為に 
生きる意味を見つけながら
暮らしていきたい

好きなもの色々ひとりごと。。。

逝ってしまったスーちゃんの事を誰かに話したいような、でも話してしまうと現実を見なければいけないような、矛盾した感覚。

どうしてもこの悲しみを自分で受け止めきれない。



何か救いが欲しくても、部屋には私ひとり。

何をしても、何を見ても、赤ちゃんのことばかり。



前日の入院から、一体どうして1日でこんな事が起こってしまうのだろう。

考えても答えは出ない。


昨日と違う事は、もうスーちゃんがお腹に居ないということ。

それだけは守らなきゃいけなかったのに、一番大切な子を失くしてしまった。




陣痛で苦しんでいる夜中に、代わるがわる看護師が世話をしてくれた。

中でも時間をかけて対応して頂いた看護師にお礼だけは言っておこうと思った。



お手すきの時にでも部屋に来てほしいと伝えておいた。

お忙しい中、あまり時間を割いてもらっても申し訳ないと思いながら、私は話し始めた。



「○○さんには夜中に何度もお世話になって、本当にありがとうございました。

こんなことになってしまって…本当に残念でなりません。


看護師って本当に大変なお仕事だと思うけど、妊婦さんは本当に不安と心配でいっぱいです。

どうか、これからもそんな妊婦さんの支えになってください。


○○さんにはとても助けられました。

つらい事も多いと思うけど、看護師続けてね。


退院が明日になると思うので、お会いできるのも今日までと思って、お忙しいとは思ったんですが、お呼び立てしてすみません。

お礼だけは直接伝えたかったので…


本当にありがとうございました」


私がスーちゃんと一緒に頑張っていた姿を見ていてくれた人だ。
途中から、涙がこみ上げてしまったけれど、伝えたい事を言えた気がする。



看護師も泣いてくれた。


そして、ご自身の生い立ちを教えてくれた。


「実は私、双子だったんです。

姉がいました。

だけど、産まれる時、私だけが助かってしまって・・・


物心ついた時からその事を両親に教えられていました」 と。



そうなのだ。

実は、死産や流産は想像以上に多いのかもしれない。

悲しい思いをしている親はなんと多いのだろう。


妊娠や出産は病気ではない。確かにそうだ。

だけど、当たり前に産めるということでもない。



私の一部であり、繋がっていた赤ちゃんはもう永遠の存在で、ずっと私の子であることには変わりない。

きっと、子供を失くした親というのは生涯、自分の子を想わない日はないのだろう。



短い入院生活でどれだけの方に助けられただろう。

それでも生命というのは、人間の力の及ばぬ神の領域。

気持ちだけでは助けられない命がある。


なんでウチの子が。。。

そう思うといたたまれない気持ちに押しつぶされる。


この看護師とは、結局これでお別れとなってしまった。

ちゃんと挨拶できてよかったと思う。



時々、看護士が悪露のチェックに来る。

死産とはいえ、産後の身体なのだ。


陣痛の痛みを忘れ、子宮の中を掻き出した痛みを忘れ、

たった18週だけど、あの子をお腹に入れていた時間が、尊くて愛しい。

私だけの身体に戻ってしまうのが、いやでたまらない。


ひとりになると、喪失感で支配される。


涙はこんなに流れるものか、と思うくらい後から後から溢れてくる。




時間が少し経って、就寝時間となる。

部屋の電気を消されるが、枕元の照明をつけ、考える事はスーちゃんの事ばかり。


しばらくしてナースコールをする。


「遅い時間にすみません。

赤ちゃんと会えますか?」



「確認しますのでお待ちください」 と言われるが、


すぐに返事がきた。

「これからお連れしますので」



私が会ってあげなきゃ寂しがってるはず。

私だって会いたい。抱っこしたい。

もう明日お別れだもんね、すごくイヤだけど。

でも今日しかないんだ。ゆっくりできる時間は。




夜11時半、

昼間と違って廊下がとても静か。

遠くからカラカラカラとキャスターの音。

スーちゃんが来る音。



お部屋の扉が開く。


看護師が清潔な真っ白いタオルに包まれているスーちゃんを手渡してくれた。


私 「こんな時間にすみませんでした。ありがとうございます」


看護師 「大丈夫ですよ。どうぞごゆっくり過ごして下さい」



そう言って、スーちゃんを連れて来てくれた年配の看護師は出て行った。

出ていく時に部屋の電気をつけてもらった。

優しそうなお母さんの様な看護師だった。



スーちゃん。

しばらくひとりにしちゃってゴメンネ。

寂しかったよね。

会いたかったよ。

やっぱりダメだ。

この子を手放すなんて出来ない。


スーちゃん

ママと少しの間一緒に過ごそうね。


抱っこして、その後 私のベッドに寝かせる。

スーちゃんの顔を見ながら、ママはあなたにお手紙を書こうと思う。

明日、棺に一緒に入れてもらおう。


いつも持ち歩いていた母子手帳ケースにキレイなカードをいれておいた。

なぜか・・・たまたまステキなカードを見つけて買っておいたのをケースに入れてあったのが、まるでこの為に用意されていたかのようだね。


スーちゃんへの手紙。


天使になったあなたに、なんてつらいこと。

私が紡ぐ言葉では足りないくらい。


涙がポロポロこぼれちゃうけど、

パパとママがどれだけスーちゃんを愛しているかってこと伝えないと。


スーちゃん、あなたをもう一度よーく見せてね。


身体に掛けられているタオルやガーゼを丁寧に開く。

スーちゃんの身体を知っておきたい。


目に焼き付けて、あなたの可愛い姿を胸に刻む。




だんだん汗をかき始めたスーちゃん。

この部屋はスーちゃんには暖か過ぎるんだ。


ここに連れられてすぐは、スーちゃんの身体が少し冷たい。

きっと涼しい所でネンネしてるんだね。


部屋の温度を目いっぱい下げているが、空調があまり冷えない。

これは昼間の内に確認しておいたけど、外気と連動しているから今日はこれ以上室内温度は下げられないと言う事だった。


スーちゃんの身体の為に少しでも涼しい場所に置いてあげたかった。



なんだか、汗をかいているスーちゃんが可哀想に思えた。


私の掌に収まるほどの小さいお顔に、ティッシュをこよりにして近づけた。

水滴をこよりの先で吸わせる。

うっすら血の汚れもまだ付いている所があったから、それも拭いた。

どこもとても小さいから そっとそっと汗を拭いた。


そしてスーちゃんの頭にチュッとキスをした。

本当はもっともっとキスをしたかった。

だけど、本当に小さいあなたにこれ以上は出来ないと思った。


可愛い可愛い私のスーちゃん。

ママはずっとスーちゃんを愛しているよ。



「ママと一緒にネンネしようね~」

声をかけながらスーちゃんの隣に横になる。

産まれたらこんな風に過ごせると思っていたのに、今夜が最初で最後の添い寝。

それでもスーちゃんと一緒にネンネ出来たって思いたい。

こんな形でも少し幸せを感じた。


このまま朝まで一緒にいたい。

そう思っていたけど、

スーちゃんはまた汗をかいてきた。


どうしよう…ずっとここに居るのは可哀想だな。



スーちゃんを抱っこした。

スーちゃんの身体をよく見る事が出来た。

スーちゃんの汗を拭いてあげた。

スーちゃんにキスをした。

スーちゃんと一緒にネンネ出来た。



今の私があの子にしてやれることが出来たかな。


汗をかいてきているスーちゃんが可哀想で、やっぱり看護師にお任せすることにした。



ナースコール

「赤ちゃんをお戻しするのでお願いいたします」


ほんの30分ほどの逢瀬だった。

スーちゃんと過ごした時間は一生の宝物。


少しするとカラカラカラとキャスターの音。

スーちゃんを乗せるベッドの音。


連れて来てくれた時と同じ看護師。

「いつでもまた連れてきますから、会いたくなったら朝でもかまいません」



明日また会おうね。


今夜は少し眠れるかな。

明日はあの子を見送ってあげないといけない。



寝付けないまま、色々と考える。



この病院はキリスト教で、牧師様が常駐している。

必要であれば病室に呼ぶ事ができ、24時間365日体制で患者の心のケアをしているらしい。

だからいつでも声をかけて下さいとの事だった。


病院発行の冊子を手にとって、その案内を見た時

今こそ、私に必要かも知れないと思った。

本気で誰かに、救ってもらいたかった。


ずっと葛藤してみたけど、

私だけ何かにすがって救われたい思うのは、何か違う気がした。

束の間の現実逃避にしかならない気がしたので結局やめた。


ぐずぐずと泣き、悶々としながら、時間が過ぎてゆく。


朝は来るのかしら。

私の時間だけ止まっていてほしい。

まだスーちゃんがお腹に居る時に戻して欲しい。


時間が経つほど、あの時あぁしていれば…

こうしていれば… と、悔む事ばかりで

スーちゃんにいくら謝っても足りない。



眠れない。

どんどん夜が深くなっていく。

気がまぎれるかと思ってTVをつけたけど、画面が灯りになるだけで何も頭に入ってこなかった。


途中、何度かウトウトして気が付く、の繰り返し。

TVも消した。


だけど気が付いたら朝の血圧、検温で起こされたから、いつの間にか寝ていたのだろう。

睡眠時間は短いけど、ようやく眠れた。



スーちゃんとお別れの朝がやって来てしまった。