国立西洋美術館で「非日常からの呼び声」を観た! | とんとん・にっき

国立西洋美術館で「非日常からの呼び声」を観た!



国立西洋美術館で「非日常からの呼び声」を観てきました。観に行ったのは4月17日のことでした。もう1ヶ月以上も前のことです。4月23日から30日まで8日間、フランス旅行へ行っていたことで、記事にするのが遅れてしまいました。ということもありますが、「平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」ということで、通常の展覧会とは一味も二味も違った展覧会だったからにもよります。同時開催の「ジャック・カロ リアリズムと奇想の劇場」については、既に記事を書いてブログに掲載しました。


平野はまず最初に、美術館の「企画展」と「常設展」について述べています。「今何やってるの?」とは「企画展」のことで、ふと思い立って収蔵品の「常設展」をわざわざ観に行くことはあまりない。海外の美術館、たとえばルーヴル美術館に行くのは、「ナポレオン一世の戴冠」や「モナリザ」があるからだという。一年間、パリに住んでいたときには、日本から友人・知人が遊びに来て、決まってルーヴルへ行きたいと言う。平野は滞在中、ルーヴルへは30回は足を運んでいる。同じ美術館を何度も観るということは、優れた本を再読することと同じだという。


美術館の思惑もあるが、この展覧会は西洋美術館が平野の感性を通じて、所蔵品の新たな魅力に光をあてようという試みです。平野は「小説家ならではの視点」ということで、好きなようにキュレーションしてくださいという依頼をすぐに応諾したという。最初は何らかのテーマを設定し、それに沿って作品を選んでゆく、ということも考えたが、そうした発想はうまくいかなかった。収蔵品の魅力を最大限に引き出すという目的からすれば本末転倒で、結局はテーマを決めずに、収蔵品の中から特に素晴らしいと思うもの、興味を惹かれたものを選びだし、取捨選択したという。


結果として、浮かび上がってきたのが「非日常からの呼び声」というテーマでした。全体を六つのセクションに分け、最初の一作から最後の一作までを、一連の物語のように見てもらう工夫をした、という。選ばれた作品は32点、そのうちエドヴァルド・ムンクの「雪の中の労働者」は寄託作品、オディロン・ルドンの「アポロンの二輪馬車」はポーラ美術館の所蔵品、その他はすべて国立西洋美術館の所蔵品です。


各章のタイトルは、以下の通りです。

Ⅰ.幻視

Ⅱ.妄想

Ⅲ.死

Ⅳ.エロティシズム

Ⅴ.彼方への眼差し

Ⅵ.非日常の宿り


「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」を観て、思っていた以上に作品数が多かったこと、油彩画や水彩に比して版画が多かったこと、ハンマースホイの絵がチラシになっていたのでその印象が強く、会場の配置にもよると思いますが、平野がねらう「最初の一作から最後の一作までを、一連の物語のように」というようには見えなかったこと、等が上げられます。僕も何度か所蔵品による常設展を観ていて、取り上げた作品で平野と同じものがあったのには、ほっと安心したことをここに述べておきます。デューラーやゴヤ、クラーナハ(父)らの版画を含めると議論が難しくなるので、僕はここでは平野が選んだ各章の油彩画を一点だけ選んで、以下の載せておきます。


僕が初めて知った作品、オノレ・ドーミエの「マグダラのマリア」を、一つだけ取り上げておきます。ドーミエは版画家としてよく知られており、西洋美術館にも収蔵品があり、展覧会も催しています。しかし油彩画の作品があることは知りませんでした。ドーミエは1848年に、フランス西海岸のエクス島の教会の宗教画を共和国政府から依頼され、その習作としてこの作品を描いたという。素早く大まかなタッチで対象を捉え、明暗の対比によって劇的な効果を生み出す手法は、ドーミエの油彩画に特有なものだと平野はいう。彼はこうした小品で本領を発揮したが、大作を仕上げるのは性に合わず、注文を受けてから15年も経って、制作の断念を政府に申し出たという。


Ⅰ.幻視


Ⅱ.妄想


Ⅲ.死


Ⅳ.エロティシズム


Ⅴ.彼方への眼差し


Ⅵ.非日常の宿り


「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」

若手世代を代表する作家の平野啓一郎氏は、デビュー作である1998年の『日蝕』以来、西洋文化に対する深い造詣を踏まえた作品を発表してきました。その一方で、字間や余白を工夫するなど、小説の視覚的な要素に関する視覚的な実験も行っています。本展覧会は平野氏をゲストキュレーターとして迎え、彼の芸術観を主に当館所蔵の美術作品によって展覧する試みです。本展では「非日常からの呼び声」という、平野氏自身が選んだテーマのもとに、氏が自身の美術的・視覚的な感性を展覧会という場で発揮します。非日常の光景あるいは非日常の世界へと誘う光景を描いた作品を、平野氏による解説とともに展示し、観客の皆さんが作品に対する視線を氏と共有することを目的とします。美術作品を通じて平野氏の感性に近づくと同時に、作品の新たな魅力に気づくきっかけとなれば幸いです。


「国立西洋美術館」ホームページ


hirano 「非日常からの呼び声

 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」

図録

編集:渡辺晋輔(国立西洋美術館主任研究員)
執筆:平野啓一郎

    国立西洋美術館学芸課

発行:国立西洋美術館

    西洋美術振興財団




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