宮下規久朗の「モチーフで読む美術史」を読んだ! | とんとん・にっき

宮下規久朗の「モチーフで読む美術史」を読んだ!


宮下規久朗の「モチーフで読む美術史」を読みました。


本のカバーには、以下のようにあります。

たとえばあなたが実際に美術館に出かけて目にした、これまで見たことのない中世の西洋絵画を即座に読み解くにはどうすればいいだろうか。本書は、絵画に描かれた代表的な「モチーフ」を手掛かりに美術を読み解く、画期的な名画鑑賞の入門書である。西洋絵画だけでなく、日本を含む東洋の美術や現代美術にも言及している。人気の新聞連載に加筆し、カラー図版150点を収録した文庫オリジナル。


宮下規久朗:略歴

1963年名古屋生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院修了。美術史家、神戸大学人文学研究科准教授。「カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン」(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞などを受賞。ほかに、「食べる西洋美術史」「ウォーホールの芸術」「欲望の美術史」(光文社新書)、「カラヴァッジョへの旅」(角川選書)、「刺青とヌードの美術史」(NHKブックス)、「フェルメールの光とラ・トゥールの焰」(小学館101ビジュアル新書)、「知っておきたい世界の名画」(角川ソフィア文庫)など多数の著作がある。


「モチーフで読む美術史」、本文に入る前に「読書案内」があり、「本書によって、美術のモチーフや主題について更に興味を持たれた方は、以下の本を参考に、ぜひご自分でお調べください」として、11冊の本を紹介しています。これはフェアなやり方だなと、いたく感心しました。以下にその11冊を載せておきます。


ジェイムズ・ホール、高階秀爾監訳「西洋美術解読事典」河出書房新社、1988年。

柳宗玄、中森義宗編「キリスト教美術図典」吉川弘文館、1990年。

大貫隆、名取四郎、宮本久雄、百瀬文晃編「岩波キリスト教辞典」岩波書店、2002年。

ミシェル・フイエ、武藤剛史訳「キリスト教シンボル事典」白水社、2006年。

木村三郎「名画を読み解くアトリビュート」淡交社、2002年。

木村三郎「西洋近代絵画の見方・学び方」左右社、2011年。

宮下規久朗「食べる西洋美術史」光文社新書、2007年。

宮下規久朗「知識ゼロからのルネサンス絵画入門」幻冬舎、2012年。

高橋裕子「西洋美術のことば案内」小学館、2008年。

池上英洋「恋する西洋美術史」光文社新書、2008年。

池上英洋「西洋美術史入門」ちくまプリマー新書、2011年。


この本で取り上げられたモチーフは、犬、豚、猿、鶏、猫、鼠、鳩、兎、羊、から始まり、窓、梯子、橋、分かれ道、髪、心臓、血、裸、裸足と靴、性愛、慈愛、夢、まで、全部で66のモチーフが取り上げられており、それぞれに2ページほどの文章が付いています。つまり、ひとつのモチーフで文章が2ページ、画像が2ページ、計4ページで構成されています。知っている絵もあれば、まったく知らない絵も出てきます。素人ゆえ、一喜一憂して、またそれが楽しい。


例えば、「鏡―よい意味も悪い意味も」、やはり鏡と言ったら皆さんよくご存じの、ベラスケスの「ラス・メニーナス」と「鏡を見るヴィーナス」でしょう。これは僕でも分かりました。


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ところが、「チーズ―身近なご馳走」、ここに出てくる2枚の絵は、画家の名前もそこに描かれた絵も、僕はまったく知りませんでした。イタリアのリコッタチーズは豆腐のように淡泊な味で、美味しいものをなりふり構わず食べている至福が伝わってきます。フローリス・ファン・デイクは、オランダ静物画の先駆者で、同時代の批評家に「あらゆる美食よりも美味な絵だ」と評されたという。中央にはオランダの特産品である大きな丸いゴーダチーズが、林檎や葡萄とともに描かれています。


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個々のモチーフに注目し、その意味を考え、さらに共通するモチーフによって作品を横断的に見ることは、きわめて意味深いことである、と宮下は言います。それは西洋の古典美術に限らず、東洋美術でも現代美術においても、美術は伝統的な寓意や象徴に満ちている、とも。東洋美術、宮下の著作にこんなにも出てくるとは思いもしませんでした。例えば、牧谿の「観音猿鶴図」や伊藤若冲の「仙人掌群鶏図」、そして絵金の「花衣いろは縁起」や長沢芦雪の「虎図」、等々、「カラヴァッジョ」の専門家は東洋美術にも造詣が深い。


この本の成り立ちは、東京新聞および中日新聞に2013年1月4日から4月5日まで連載された「神は細部に宿る モチーフで読み解く美術」をもとに、新たな話をいくつか書き加え、図版をふやして加筆修正したもの、だそうです。毎日連載するということは、なかなかできるものではありません。昨年末に娘さんが病にかかって家族の生活が一変し、入院した病室で断片的に書きつぎ、なんとか書き上げることができた、と言う。しかし懸命な治療と祈祷の甲斐もなく、この本の校正中に、天に召されたという。ご冥福をお祈りします。


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