「円空 こころを刻む―埼玉の諸像を中心に―」展を観た! | とんとん・にっき

「円空 こころを刻む―埼玉の諸像を中心に―」展を観た!



江戸時代前期、美濃に生まれ、荒波を乗り越えて蝦夷地と呼ばれた北海道へ渡り、自ら彫った仏像を岩屋に納めた僧がいました。円空という名のその僧は、各地を渡り歩き、訪れた先々で、木切れを利用して、数々の仏像や神像を彫りました。現在円空作といわれているものは、3000体が確認されているという。その円空が、埼玉の地にも訪れて、数々の仏像を残していた、ということは、今回僕は初めて知りました。日光へと向かう途中、埼玉に滞在したそうです。


大胆に省略された、迷いのない直線的な彫りと簡潔なつくり、仏像づくりの規範に囚われずに、自由自在に仏の姿を掘り出しました。地河津よく、迷いのないのみの跡を残した、真似できそうでいながら誰も真似できない仏の形が、円空独特の作風です。それは正統な仏師がつくる仏像とは違う、親しみやすさにあふれています。埼玉に残る円空の作品は、個人宅にあるものが多いこともあり、そのほとんどが公開されていません。昭和63年に開催した「特別展 さいたまの円空」展、今から23年前のことです。その間に新たに確認された円空の像も少なくないという。


そんなこともあって、再び埼玉県立歴史と民族の博物館で「円空仏」を展示するという機会がめぐってきました。円空が生きた時代から約350年。円空が彫った12万体のうち、天災や人災をかいくぐって、残っているのはごくわずかだそうです。埼玉県立歴史と民族の博物館は、この会期中に開館40周年を迎えるという。「円空 こころを刻む」展では約170体が出されています。この展覧会が一つの節目として、貴重な文化財を次の世代に伝えながら、新たな歴史を刻んでいきたいと、博物館は言います。(参考:「特別展 円空 こころを刻む」図録より)


思い返してみると、僕が始めて「円空仏」と出会ったのは、2006年10月から開催された「特別展 仏像 一木にこめられた祈り」でした。今から5年前のことです。この展覧会では、第4章が「円空と木喰」となっていました。他の完成された仏像に対して、円空と木喰のノミだけで彫り上げた仏像はいかにも荒っぽく、飾りはほとんどありません。ただし、円空と木喰の作風は対照的で、円空は鉈で割った木材の切断面をそのまま残し、手足なども明瞭に表現しないことが多い。一方、木喰の像は、表面を滑らかに仕上げ、造形に丸みが目立ちます。


2008年7月には、東京国立博物館で 「特別展 対決―巨匠たちの日本美術」が開催されました。「運慶vs快慶」「雪舟vs雪村」「永徳vs等伯」「光悦vs長次郎」等々、12組の日本美術の巨匠たちが「対決」をしていて、それらを一堂に会して観られたことは、いろんな意味で、また僕にとっても、すごい展覧会だったと思います。その一つに「円空vs木喰」があり、極めて良質な12体が出されていました。その時の図録には、円空の略歴は、以下のようにありました。


円空(1632-95)、江戸時代の遊行造仏僧。美濃(岐阜県)出身の天台僧。尾張(愛知県)・高田寺で金剛・胎蔵両部の密法を受けたのち諸国巡歴の遊行に出る。その足跡は美濃・飛騨を中心に、関東、東北さらには北海道にまで及ぶ。素材を生かし樹木そのものに宿る霊力を残しながら、鑿や鉈による荒々しい削りあとを露わにした独自の「円空仏」を刻む。生涯で10万体の仏像を作るという大願を立てたといい、今なお全国に数千体の作例が伝わる。


展覧会の構成は、以下の通りです。

1.円空、怒る

2.円空の雲文

3.円空、笑う


円空が仏像を彫り始めたのは、30歳を過ぎたころとされる。現在確認されている初期の作品は、岐阜県群上市美並町神明神社の神像と言われています。円空の初期につくったのは、ほとんどが神像であり、その応用として仏像を彫り始めたとみられるという。円空は早い時期には一般的な仏像を模倣しようとしたが、次第に省略や独特の表現が目立つようになります。体の中に渦巻きのような文様があるのは、円空独特のものだという。これは「飛雲」と考えられていて、仏が人々を救いに来るというイメージだという。「円空仏」の魅力は、その笑顔です。素朴で力強い笑い顔が、円空仏の特徴です。「微笑み」と言うよりは、「笑う」という表現がふさわしい。軽く開いた口の間に歯が見えるものがあります。まさに「歯を見せて笑っている」という表現がふさわしく、笑い声まで聞こえそうです。


1.円空、怒る




2.円空の雲文



3.円空、笑う




「特別展 円空 こころを刻む―埼玉の諸像を中心に―」
江戸時代初期、美濃国(現岐阜県)に生まれた円空は、各地を巡り歩きながら、数多くの仏像や神像を刻んだことでも知られています。仏師が経典の規範に則って製作したものとは違い、素朴で自由な造形の円空の作品は、人々に親しまれ、信仰されてきました。迷いのない力強い直線的な造形と、簡潔な彫りの中に浮かぶ慈愛に満ちた表情をもつ円空仏は、現代を生きる私たちを魅了してやみません。昭和63年に当館が特別展「さいたまの円空」を開催してから23年が経ち、この間に確認された像も少なくありません。岐阜県や愛知県に次いで数多く確認されている埼玉の円空仏を一堂に会し、円空がこの地に残した思いを探ろうとするものです。

「埼玉県立歴史と民族の博物館」ホームページ

とんとん・にっき-en1 「円空 こころを刻む―埼玉の諸像を中心に―」展
特別展図録

発行日:平成23年10月7日

編集・発行:埼玉県立歴史と民族の博物館











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