東京国立博物館・平成館で「対決-巨匠たちの日本美術」展を観る! | とんとん・にっき

東京国立博物館・平成館で「対決-巨匠たちの日本美術」展を観る!

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東京国立博物館・平成館で、創刊記念「國華」120周年・朝日新聞130周年特別展「対決-巨匠たちの日本美術」展を観てきました。なにしろ普段は観られない日本美術の傑作である名品・優品を、作家同士の関係性に着目し、中世から近代までの巨匠たちを2人づつ組み合わせ、「対決」させる形で展示されているというから、画期的な出来事です。国宝10余件、重要文化財約40件を含む、計100余件の名品が一堂に会し、巨匠たちの作品を実際に見て比較できることが最大の魅力です。


僕は知りませんでしたが、「國華」という雑誌は、歴史のある美術雑誌のようです。明治22(1889)年に岡倉天心が中心となって創刊されたもの。創刊の辞で「美術ハ國ノ精華ナリ」と唱いましたが、しかし、すぐに経営難に陥り、朝日新聞社の創立者、村山龍平と上野理一が支援、1901年に設けられた主幹に就いた瀧精一の方針で、「創造」よりも「学術研究」に重きを置くようになったという。「國華」は豪華な装丁や美しい図版でも定評があり、現在も和とじで、月額4600円とそうとう高価です。


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「國華」については、大阪朝日新聞社社主の村山龍平を事実上のパトロンとし、「朝日新聞社により運営されている美術雑誌『國華』――この雑誌は明治22年の創刊で現在も続いており、美術雑誌としては世界で最長寿を誇る」という記述が、辻惟雄の「岩佐又兵衛・浮世絵をつくった男の謎」のなかにもありました。辻惟雄は前主幹時代の02年に会員制特別鑑賞会組織「國華清話会」を復活させたという。


とはいえ、僕にとっては「日本美術」はほとんど詳しく知らない、いや、他に得意とする分野があるというわけではありませんが、まさにこの分野は最大の弱点です。もちろん、名前ぐらいは常識の範囲内では知ってはいますが、個々の作品については始めて知った作品がほとんどです。これが逆に、僕にとっては「日本美術」を学ぶまたとない絶好の機会です。登場するのは、運慶と快慶、雪舟と雪村、永徳と等伯、長次郎と光悦、宗達と光琳、仁清と乾山、円空と木喰、大雅 と蕪村、若冲と蕭白、応挙と芦雪、歌麿 と写楽、そして鉄斎と大観です。総勢12組24人という豪華な顔ぶれです。なにしろ「巨匠たちの対決」というタイトルです。比較対照して観るという、他に例をみない珍しい試みです。





会場に入るとすぐに、運慶の「地蔵菩薩座像」と快慶の「地蔵菩薩立像」が隣り合わせて展示してあります。二つの菩薩像を対比して観ると、その特徴が際だってみえてきます。写実性に富んだ力強い彫刻の運慶、一方、端正で落ち着いた作風を特徴とする快慶。同じ仏師一門ですが、まさに「動と静」、対称的です。木彫では、円空の「自刻像(賓頭盧尊者)」と木喰の「自身像」も見事にその特徴が見て取れます。鑿や鉈により荒々しい削りあとを露わにした独自の「円空仏」、一方、優しい微笑をたたえ、放漫な顔立ちの木喰の「微笑仏」、お互い惜しみなく数多く制作しています。





仁清の「色絵吉野山図茶壺」と 乾山の「色絵紅葉図透彫反鉢」、そして小さなものですが、仁清の「色絵鶴香合」と乾山の「銹絵槍梅香合」、これらの見事な作品には驚かされました。長次郎と本阿弥光悦による名碗対決も素晴らしい。光悦というと、陶芸、書、漆芸など多芸に秀でた人という理解でしたが、楽焼でも新境地を開いていたんですね。千利休が理想とした茶碗、端正で無駄のない碗形の楽茶碗を作ったのが長次郎です。この二人の「赤楽」「黒楽」の対決は、微妙ですが面白い。



水墨画対決は雪舟と雪村です。雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」、以前「雪舟展」で観ましたが、さすがは中国に学び、日本の水墨画に独自の境地を開いた雪舟です、言わずと知れた名作です。一方、雪村の「蝦蟇鉄拐図(がまてっかいず)」、自由奔放なおおらかな水墨画、雪舟との対決にふさわしいこんな水墨画が、雪村にはあったんですね。他の選ばれた作品もそうですが、よく見つけてきたと驚かされます。



今回の「巨匠たちの対決」、浮世絵では例えば北斎と広重など、他に組み合わせの候補はたくさんあったでしょうが、ここでは喜多川歌麿と東洲斎写楽の浮世絵対決です。歌麿は女性の肌や姿態を美しく理想化した美人画を描いました。一方、写楽は現実を直視し、役者の老いなど醜悪なところまで冷酷なほどに表現しました。歌麿の「夫人人相十品・ポッピンを吹く娘」と、写楽の「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」、この対決、派手さの少ない浮世絵という小さな作品、しかも見慣れているせいか、他の作品対決と比較して、感動はいまひとつの感は拭えませんでした。




応挙の「猛虎屏風図」と芦雪「虎図襖」、この二つの虎図、座敷に座って見たときに、どんな気持ちになったのでしょうか。たぶん、ほとんどの人は逃げ出したくなるのではないでしょうか。応挙の「三美人図」と芦雪「山姥図額」、全く対称的な作品ですが、妙に微笑ましい作品です。型破りの発想の芦雪は、精緻な写生画の応挙に師事したというから面白い。日本画では、若冲と蕭白の対決。若冲の「仙人掌群鶏図襖」と蕭白の「群仙図屏風」、どちらも日本画とは思えないほど色鮮やかでけばけばしい作品、ぶっ飛んだ想像力、まさに「奇想の画家」です。今回の「対決展」に登場する24人の巨匠たちの似顔絵を描いた現代の絵師・山口晃は蕭白の「群仙図屏風」の前に他って、「胸ぐらをつかまれるような迫力があって、初めて見たときは3回ぐらい跳び上がりそうになりました」と述べているのが印象的でした。 





とりあえず、ここまでで僕の限界です。その他の「対決」、永徳と等伯、宗達と光琳、大雅と蕪村、鉄斎と大観については、まさに僕の弱い部分、今までの僕には馴染みの少ない作品でしたので後回し。宗達の「扇面散屏風」、これはその時代にこんなにも現代的なデザインがあったのかと、驚かされました。「対決」をうたっていますが、勝ち負けを付けるのは、これだけの作品を目にすると、無粋というものです。また、僕が行ったのは10日の展示替えの前で、従って俵屋宗達筆の国宝「風神雷神図屏風」(建仁寺所蔵)と尾形光琳筆の重要文化財「風神雷神図屏風」(東京国立博物館所蔵)を観ることはできませんでした。この二つの作品は、出光美術館で見たことがあります。 今回、これまで所在不明だった永徳の「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」と、与謝蕪村の「山水図屏風」という六曲一双の大作が展示されています。「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」について、以下に載せておきます。




狩野派の屏風絵で、数十年にわたり行方不明だった逸品の存在が、最近ふたたび確認された。しかも、かつて狩野元信の作と伝えられたこの屏風を、新たに調べた専門家は、安土桃山時代を代表する絵師・狩野永徳の作と判断した。織田信長や豊臣秀吉が重用した永徳は、真筆と目される作品が約10件しか現存していない。見つかったのは、六曲一双(6枚折りの屏風が左右1隻ずつ対となる)の「松に叭叭鳥(ははちょう)・柳に白鷺図屏風」。右隻は、渓流のほとりに松が太い根を張り、黒い叭叭鳥が13羽。左隻はやはり太い幹の柳と池、それに16羽のシラサギが配されている。両隻とも水墨画で、高さ160.5センチ、幅約350センチ。墨の色も濃く、力動感あふれた作風だ。(博物館ホームページより)


東京国立博物館・平成館