国立西洋美術館で「19世紀フランス版画の闇と光」展を観た! | とんとん・にっき

国立西洋美術館で「19世紀フランス版画の闇と光」展を観た!


国立西洋美術館、所蔵作品で最も多いのが「版画」です。開館当初の版画のコレクションは24点でしたが、なんと現在では3747点を数えるまでになりました。それは、ルネサンス期のデューラーにはじまり、17世紀のカロやレンブラント、18世紀のピラネージやゴヤ、19世紀のドーミエやクリンガーなど、西洋版画を代表する作品が揃っています。というようなことを僕が知ったのは、2009年夏に開催された「かたちは、うつる 国立西洋美術館所蔵版画展」でした。


いま、国立西洋美術館では「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」が開催されています。その会場の奥の「版画・素描展示室」で、「19世紀フランス版画の闇と光」展が(ひっそりと)開催されています。過去にこの展示室で「オノレ・ドーミエ版画展」や「所蔵水彩・素描展」を観ました。今回は19世紀フランスにおいて版画本来の表現を追求したメリヨンとブレダン、そしてブラックモンとルドン、この独特の世界観を持った4人の版画が約40点、展示されています。「インクと紙で構成されるモノクロームの世界」、一つ一つじっくりと見ることができました。


以下、会場に掲示してあった「解説文」を載せておきます。


シャルル・メリヨン(1821-1868)は銅版画集「パリの銅版画」で、開発によって急速にその姿を変えていくパリの街から、石畳の続く路地やセーヌ河岸の光景を次々と描写しました。ひとつの構図には少しずつ変化をつけて複数のステートが制作され、ステートごとに独特のヴィジョンが展開されます。それらは単なる写実ではなく、古きよき時代への郷愁やこの華やかな大都会が抱える闇の部分をも映し出すようです。詩人で美術評論家のボードレールはこの版画家を「完成されたエッチングの真の典型」と評し、彼が描く光景の詩情性や荘重さを称えています。


ロドルフ・ブレダン(1822-1885)は銅版画とリトグラフをともにてがけています。「死と喜劇」や「蝶と沼」などでは、森や沼地にうごめく昆虫、動物、人物などのモチーフが細部に至るまで執拗に描き込まれ、濃密な空間が生み出されています。ブレダンはボルドーで版画を教えたルドンに、自然を賛美しながら「誰がなんんと言おうと、わたしの素描は真実なのだ」と語ったとされていますが、彼がいう真実とはけっして表面的なものではなく、存在の奥底に宿る神秘に満ちた生命観ともいえるでしょう。


メリヨンとブレダンは貧困や病に苦しみ、社会とは隔絶されたなかで制作を続けます。メリヨンにとってフェリックス・ブラックモン(1833-1914)は、ともにエッチングによるオリジナル版画の復興を担う、数少ない友人の一人でした。ブラックモンはギュスターヴ・モローの水彩画を基にした「ラ・フォンテーヌの寓話」のような複製版画によって高い評価を受ける一方で、肖像画や風景画などのオリジナル版画を創作します。なかでも動物を描いた作品では、その動きや質感がエッチングで巧みにとらえられ、独自性が強く発揮されています。


オディロン・ルドン(1840-1916)は、若き日にブレダンから銅版画を学んでいます。「聖アントワーヌの誘惑」(第1集)では、フォローベルの著作からもチーフを選び、微生物を思わせるような怪物などを闇に浮かび上がらせ幻想的なイメージを創出しています。ルドンは黒を「最も本質的な色」と位置づけ、実際に「ありそうにない存在に人間的な生命を与えること」に自らの独創性があると考えていました。


シャルル・メリヨン




フェリックス・ブラックモン



オディロン・ルドン



ロドルフ・ブレダン



「19世紀フランス版画の闇と光」

19世紀前半のフランスでは、ロマン主義の画家たちを中心に制作されたリトグラフの流行が過ぎると、次第に美術作品としての版画制作は翳りを見せるようになります。版元は安価で大量に印刷できるリトグラフを挿絵や風刺画として広く流布させましたが、手間のかかる版画の制作には消極的でした。他方で、過去の巨匠たちの油彩画を複製した版画が保守層から求められる時代でもありました。そんななか、メリヨンとブレダンは版画技法のもつ表現の可能性を模索し、独特の世界観をもった作品を制作していきます。それにはブラックモンやルドンなどの画家たちが続きます。彼らが銅版画あるいはリトグラフで表した黒は、時代や人間の心の闇をも映し出すかのようであり、紙の地色はときに光の表現となって輝きを放ちます。今回は、19世紀フランスにおいて版画本来の表現を追求したこの4人の画家の作品40点を紹介します。インクと紙で構成されるモノクロームの世界の、豊かな表現をお楽しみください。


「国立西洋美術館」ホームページ


過去の関連記事:

「オノレ・ドーミエ版画展」
国立西洋美術館で「所蔵水彩・素描展」を観た!

国立西洋美術館で「かたちは、うつる」展を観た!