「白井晟一 建築とその世界」より | とんとん・にっき

「白井晟一 建築とその世界」より


白井晟一の建築と言えば、東京で最も分かり易い実例は「松濤美術館」でしょう。僕も松濤美術館は、よく利用しています。また港区飯倉にある「ノア・ビル」をご存じの方もいるかもしれません。先日、八王子にある東京造形大学にある、大学附属横山記念マンズー美術館で「SIRAI, いま 白井晟一の造形」展を観てきました。なぜ「SIRAI, いま」なのか、いまひとつ理解できませんでしたが、まあそれはいいでしょう。僕らの時代、あるいはひとつ上の世代は、白井晟一のつくり出す建築に一喜一憂しました。僕がいつ頃白井晟一を知ったのか? たぶん宮内嘉久編集の「建築年鑑 1969年版」(発行:建築ジャーナリズム研究所)で、「親和銀行本店」で建築年鑑賞を受賞した時、その図面を見た時だったと思います。当時、図面をあれほど詳細に描く建築家はほとんどいなかったこともあり、白井の図面に圧倒されたのをよく覚えています。


そんなこともあり、大学を卒業してから友人たちと磯崎新の建築を観るために大分へ旅行した時に、僕だけ佐世保まで脚を延ばして親和銀行本店を観に行きました。その頃はのんびりしたもので、銀行でも住宅でも中の中まで見せてくれました。今から思うと、ホント、いい時代でした。そんなわけで大分では磯崎の設計した「福岡総合銀行大分支店」や「N邸」まで中に入れてくれました。一人で行った佐世保の「親和銀行本店」も同様に、東京から来た建築を勉強しているものだと言うと、案内役の女性を付けてくれて、隅々まで見せていただきました。懐かしい、いい思い出です。その頃は「懐霄館」はまだできていませんでしたが。「親和銀行東京支店」は、残念ながら数年前に解体されてしまいました。現在三越銀座店の拡張工事が完成間近です。


茨城県日立市にある茨城キリスト教大学(“シオン”?と呼んでいましたが)のチャペル、「サンタ・キアラ館」は、設計の実務についてすぐに、車で観に行った記憶があります。浅草にある「善照寺」については、このブログに載せました。前橋の「煥乎堂」という本屋にも、知人に案内されて観に行きました。今もあるかどうかは分かりません。「呉羽の舎」は、彰国社刊の「木造の詳細 3住宅設計編 ディテール別冊」をボロボロになるまで見ました。こんな木造の住宅があるのかと、驚いたものです。なにしろ室内の床のレベルが極端に低く、外の地盤とほとんどゾロのように見えます。天井高も極端に低く、その代わり建具は天井まであり、大きな開口部です。いずれにせよ、「呉羽の舎」が載っているこの本から、若い建築家たちは木造の実務など多くを学びました。


「白井晟一 建築とその世界」という本から画像を借りて、白井晟一をこのブログで紹介しようと始めたのがこの記事でした。が、しかし、僕が観た白井晟一建築の話になってしまいました。遅ればせながら、ここで白井晟一の紹介をしておきます。白井晟一は1905年、京都三条大宮に生まれます。1917年、父・七蔵との死別により、姉・きよの嫁ぎ先である日本画家近藤浩一路邸(東京都文京区湯島)に身を寄せます。1923年、関東大震災で近藤邸は炎上、京都に移転します。1924年、京都高等工芸学校(現京都工芸繊維大学)図案科に入学。1918年、母・えん死去。これを契機に渡欧を決意。ハイデルベルグ大学に入学します。実存哲学者カール・ヤスパースのゼミに通います。1930年、ベルリン大学に移ります。1933年に帰国。


1935年、義兄・近藤浩一路の住宅に施主の代弁者として参加し、そのほとんどを決定することになります。これを機に、初期木造住宅設計の時代が続きます。秋田での講演を機に、秋田での仕事をするようになります。1951年「秋ノ宮役場」、1955年「原爆堂計画」、1956年「松井田町役場」、1958年「善照寺」。1961年、高村光太郎賞建築部門第1回受賞者となります。1963年、一連の「親和銀行」の設計が始められます。1965年「呉羽の舎」、1967年「親和銀行本店Ⅰ期」、1970年「親和銀行本店Ⅱ期」、1974年「ノア・ビル」、「サンタ・キアラ館」、1975年「懐霄館(親和銀行本店Ⅲ期)」、1980年「渋谷区立松濤美術館」、1981年「石水館(静岡市立芹沢銈介美術館)」。そして1983年11月22日逝去します。(参考:1991年6月臨時増刊「建築20世紀PART2」大野幸による)










とんとん・にっき-shirai1 「木造の詳細 3住宅設計編」

白井晟一設計「呉羽の舎」

昭和44年12月10日第1版発行

昭和49年12月10日第1版第8刷

定価:1400円

発行所:株式会社彰国社










過去の関連記事:

白井晟一の「旧秋ノ宮村役場」の記事が!
白井晟一の「渋谷区立松涛美術館」を体感する!