泉屋博古館分館で「板谷波山をめぐる近代陶磁」展を観た! | とんとん・にっき

泉屋博古館分館で「板谷波山をめぐる近代陶磁」展を観た!

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泉屋博古館は住友家が蒐集した美術品を保存、展示する美術館です。収蔵品の多くは、住友家第15代当主春翠(1864-1926) が蒐集したものです。泉屋博古館の名称は、江戸時代の住友の屋号「泉屋(せんおく)」と900年前に中国で皇帝の命によって編纂された青銅器図録「博古図録」からとっています。


青銅器と鏡鑑500点余りを保存公開するために昭和35年に発足、昭和45年に京都鹿ヶ谷の地に4室からなる青銅器と鏡鑑の展示室が完成しました。その後も、住友家から数々の美術品の寄贈を受け、現在収蔵品は3000点以上を数えます。また、収蔵品の増加に伴い、昭和61年に青銅器展示館の傍らに新展示室を増築し、さらに平成14年には東京六本木に分館を開設します。(泉屋博古館ホームページより)


今年の初めに僕は初めて泉屋博古館分館へ行きました。その時は「近代の屏風絵―煌めきの空間―」展を観ました。屏風が大きいので、観るのにはちょっと「引き」が足りないと感じました。今回は「近代陶磁」なので、鑑賞にはちょうどいい感じでした。実は、というほどのことではないのですが、「屏風絵」も「陶磁器」も、僕の苦手をする分野の作品です。かといって得意な分野があるわけではないのですが。まあ、好きこそものの上手なれ、めくら蛇に怖じず、勝手なことを書いていますが。ここで作品評、といきたいところですが、とても僕の手には負えません。いずれにせよ今回展示されている作品は、どれをとっても見事な、素晴らしいものであることは間違いありません。


板谷波山(1872-1963)は、茨城県下館市の生まれ、号の「波山」はさもありなん、故郷の筑波山にちなむという。上京して東京美術学校彫刻科へ入学、岡倉天心、高村光雲らの指導を受けます。横山大観・下村大観・菱田春草・木村武山などの日本画家も机を並べていたようです。美術学校卒業後、石川県工業高校の彫刻の教諭として採用されます。高校で陶芸の指導をすることがきっかけで、自身も作陶の道に入ります。高校を退職して上京後、本格的に作陶の道を進みます。河井寛治郎や濱田庄司は、この頃の波山の弟子だったそうです。


波山は、次第に数々の賞を受けるようになります。大正6年の日本美術協会展で、波山は「葆光彩磁珍果文花瓶」が1等賞金杯に輝き、日本陶芸界の頂点に立ちます。「葆光」とは、光沢を隠し、物の線界をやわらかく薄く描くことで、つや消し釉で淡い幻想的な色彩を創り出しました。この作品が平成14年に、宮川香山の作品と共に、近代の陶磁器としては初めて「重要文化財」に指定されました。昭和28年には陶芸家として初の文化勲章を受賞しました。


今回の「近代陶磁」展は、「葆光彩磁珍果文花瓶」が制作された時代を中心に作品が選定されていること、そして板谷波山を含めて、帝室技芸員に選ばれた5人の作品が、一同に観られることも特徴の一つです。例えば出光や畠山で観た淋派の「尾形乾山」の作品、三井記念で観た「楽茶碗」など茶道具としての数寄の茶碗など、いままで折に触れ陶磁器を観てきましたが、板谷波山の作品はそれらとはまったく異なる「アーチスト」の作品であり、いかにも完璧な「美術品」という感じです。そういえば出光美術館で板谷波山の作品を所蔵していて、たしか観に行った記憶があります。


また、平成16年には、五十嵐匠監督により、板谷波山の生涯を描いた映画「HAZAN」が公開されました。








以下、チラシ裏より

板谷波山「葆光彩磁珍果文花瓶」は、近代の陶磁器として平成14年に宮川香山の作品と共に初めて国の重要文化財に指定された作品です。板谷波山は「葆光釉」と呼ばれる光を包み込むようなやわらかな質感の釉薬に特徴があり、「葆光彩磁珍果文花瓶」でも大型の器面全体をむらなく覆い、その柔らかな光の表現は独自の世界を創り出しています。波山は、葆光釉の他にも「彩磁」「白磁」「青磁」など様々な技法、また中国の吉祥模様やインドネシアの更紗の模様を典拠とするなど、デザインにおいても学習の成果を遺憾なく発揮しました。そこで「葆光彩磁珍果文花瓶」が制作された大正期を中心に波山の作品をご覧いただきたいと思います。


また波山の明治から大正にかけては、陶磁器界が大きく変化を遂げた時代でもありました。本展覧会では、明治・大正にいきた陶芸家が技術やデザインにおいてどのように試行錯誤したかをご覧いただきたいと思います。さらに陶芸界では板谷波山を含め、三代清風与平、初代伊東陶山、初代宮川香山、初代諏訪蘇山の五人が帝室技芸員に任命されていますが、その五人の作品を一同に展示いたします。


泉屋博古館分館


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とんとん・にっき-hazan 「HAZAN」

監督:五十嵐匠 出演:榎木孝明 南果歩
将来を約束された美術教師であった波山は、その夜、すべてをなげうって陶芸に自らの生涯を捧げる決心をする。やきものを芸術の域にまで高めたと評される孤高の陶芸家、板谷波山の誕生である。後に数々の栄光を手にする波山がたどった軌跡は、決して平坦なものではなかった。満足な作品ができず窯にくべる薪にも不足する貧しい生活が続く。そんな中、彼の夢を誰よりも信じ希望の火を灯し続けた妻・まるの愛が、波山の作品に命を吹き込むのだった。