こちら、メロキュン研究所にて風月さん・月華さんとコラボさせていただいてるトリオリレー『CROSSING』の5話・後編です


前編はこちら からどうぞです。


なお、このお話はW兄妹と言うパラレル設定です。

パラレルが苦手な方はお気を付けくださいねー!


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「えぇー!敦賀さんと最上さんのお兄さん達、超かっこいい!!」
「え?並ぶ?兄弟枠って事でいいですよ~!どうぞどうぞ♪」
((私達の目の保養のために、少しでも長く教室に!!))

教室入り口付近のざわめきに気付いたクラスメイト(主に女子)の計らいにより、倖一と蓮は行列に並ばず、すんなりと教室内へと通された。

『welcom!』という大きな文字と色々落書きされた黒板には色とりどりの造花が飾られ、天井には何故か万国旗が吊るされて。
彼女達が日常授業を受けるために使われる机は、カフェの雰囲気を出すためにテーブルクロスを敷き、ガーベラが一輪飾られている。

低い予算しか与えられない1年生らしく、日常の教室の雰囲気を少し残しつつ、『文化祭』と言うイベントを楽しめるように様々な工夫がなされていた。

「御注文はいかがなさいますか?…あっ、ケーキセットはおすすめよ!レシピ考案は私なの。」

席に案内したキョーコが、そのまま注文をうける。

「おっ、キョーコが考えたケーキなら味は間違いないね。なら俺はそれお願いしようかな?」
「うんっ♪蓮さんはどうしますか?甘さ控えめにしていますけど…召し上がれますか?」
「え…?」
「コーヒーもいつもブラックだし、甘いものもしかしてお嫌いなのかなって……」

確かにあまり好き好んで甘味に手は出さないが…

自分の好みをさりげなくチェックしてくれていた事に、蓮は思わず嬉しさがこみ上げてくる。

(俺のこと、ちゃんと見てくれてるんだ…)

今まで蓮の周りにいる女の子達は蓮の容姿ばかり目がいって、そういう細かい所に気がついてくれるような子はいなかった。
蓮にとっては、自分の好みを考慮してくれる姿はとても新鮮なもので、これもまたキョーコに対する好意が深まる一因になる。

「ありがとう、甘さ控えめなら問題ないよ。キョーコちゃんが作ったケーキ、俺も食べたいな…」
「っ、本当ですか?ぜひぜひ召し上がってください!
じゃあ、ケーキセットお二つで…」

〈どんっ!!〉

「はい、水。兄貴はこれで十分でしょ。」

『よろしいですか?』と続けようとしたキョーコのわきから奏江の手が伸び、蓮の前にだけ乱暴に水が置かれた。

「ほらっ、キョーコ!さっさと裏も手伝う!」
「ふえっ!?モー子さあぁん???」

水を置いた手でそのままキョーコの腕を掴むと、バックヤードにしている衝立の向こう側へととっとと連れ込んでしまう。

嵐のようにキョーコを連れ去る奏江の後ろ姿を、蓮も倖一もぽかんと見送った。

「もーっ、モー子さんったら。せっかく来てくれたんだから、もう少しお話ししてもいいんじゃない?」

バックヤードに追いやられたキョーコは、口を尖らせて奏江に可愛く抗議する。

「私がバカ兄貴と?冗談じゃないわ!」
「違うちがう、ゆきちゃんとよ~」
「や、社さんと…!?何でまた…!」

倖一の名前が出ると、奏江はまた顔を赤らめてぷいっとそっぽを向いてしまう。
しかし、ちらりとキョーコの顔を盗み見て、ポツリとこぼした。

「て言うか…本当にアンタと社さんって兄妹だったのね…」
「え?あぁ~、まぁ私とゆきちゃんってあんまり似てないからね。」
「いや、そういうことじゃなくて。」

自分の倖一への想いにすぐ気付きながらも、たまにこうやって天然な切り返しをしてくるキョーコに、奏江は思わずため息を吐いてしまう。

「アンタの言ってた『ゆきちゃん』が社さんで、しかも兄妹だって兄貴から聞いた時にはビックリしたわよ。アンタの口ぶりだと『ゆきちゃん』はどう考えても彼氏っぽかったから…」
「ええっ!?そんなことないって前にも言ったのに~!」
「まぁね。だから今日、二人が一緒にいるのを初めて見て『本当に兄妹だったんだ』って思っただけ!以上!!」

これ以上の話はしません!の意思表示も兼ね、奏江はさっさと作業台の前に立ち、インスタントコーヒーを入れ始める。
そんな奏江の後ろ姿を見てふむと考え込むキョーコだったが、妙案を思い付いたとばかりにぽふんと手を叩くと、既にお皿にセットされていたケーキをトレイに乗せて、奏江の側に置いた。

「モー子さん!ゆきちゃん達の席にはモー子さんが持って行ってね!」
「は!?何突然…」
「じゃっ、私は他のお客さんにオーダー聞いてくるから~♪」
「ちょっ…待ちなさいよ!」

タイミングよく聞こえてきた『すいませーん』と言う声に「はぁーい!」と元気よく答えると、キョーコはそのままスキップしそうな勢いで衝立から飛び出していった。

(ゆきちゃんとモー子さんが付き合っちゃったら、モー子さんともっと一緒にいられるかも♪)

るんるん頭上に花を咲かせながら声のしたテーブルへと向かうキョーコ。
呼んでいたのは二人組の男子学生だった。

「はいっ、ご注文はお決まりですか?」
「このケーキセット二つね。
でさ、キミも結構可愛いよね。名前何て言うの?」
「へっ?最上ですけど…?」

普段倖一や蓮以外の男子に親しげに話しかけられることがないせいか、名前を聞かれてそのまますんなり答えてしまうキョーコ。
二人組のうちの一人が、キョーコの手を取りそのままナンパ体制に入る。

「そっかー、最上さんって言うんだねぇ。下の名前はなんて言うの?俺3年でめっちゃ暇してるんだけどさぁ、この後付き合ってくんない?俺のモロタイプなんだよー!」
「はへ?もろた…?」

これまた正面切って口説かれるという経験の少ないキョーコにはいまいちピンとこない言動で、戸惑っているうちに男子学生はさりげなさを装い腰に手を回そうとして……

そのまま腕を掴まれ捻り上げられた。

「あででででっ!!はっ離せよーっ!」
「っ!?」

何も気付いていなかったキョーコが、ビックリして横から伸びていた腕の持ち主を見ると、自分のすぐ側に蓮が立っていた。
腕を掴まれた男子学生は捻り上げられた腕につられて立ち上がっていたが、蓮の方が圧倒的に体格が良く、顔はニコニコ微笑みながらも笑っていない目で見下ろされて顔が真っ青だ。

「御注文はケーキセット二つでしたよね…?暇なら俺が相手しましょうか?」
「いいいいいえ!結構です!間に合ってます!!」
「そうですか、では少々お待ちくださいね?」

そう言うと掴んでいた男の腕をパッと離し、まだビックリして動かないキョーコの腰をさらって衝立の前まで移動させた。

「キョーコちゃん、あそこの客には俺が運ぶよ。セット、用意してくれる?」
「え!?そんなっ、蓮さんだってお客様なのに」
「俺がもう行かせたくないの。だからね?用意できる…?」

首を傾げて少し眉を寄せ、困ったように微笑む蓮にキョーコは思わずドキリとする。

(や…やだ。蓮さんってば、こんな可愛い顔も出来るだなんて!何だか急にドキドキしてきちゃった…!)

キョーコは、自分の頬がどんどん赤くなっていくのを止められなくて俯いてしまう。
蓮の大きな手がキョーコの髪を撫で、少しいい雰囲気…?となったところで、甲高い声がそれをぶった切った。

「お兄さん!私達が準備しますから!」
「どうぞお兄さんは席に戻っててくださいな~!」
((私達も心配されたい!助けられたいっ!!))

気づけばクラスメイト達が数人、かなりの至近距離にいて、思わず蓮とキョーコはババッと離れて距離をとる。

「敦賀さんのお兄さん、名前は蓮さんって言うんですねー!」
「やーん、綺麗な名前~♪」
「そう?ありがとう。」

さすが女子の扱いに長けている蓮は、キョーコに向けていた表情から普段の顔(倖一命名は、万人受けする紳士顔)に戻って彼女達の話しに受け答えをする。

クラスメイト達の勢いに飲まれ、すっかり蓮と距離を空けてしまったキョーコは、今度は女の子の『すみません』と呼ぶ声に反応し、その場を離れた。

「すみません、セットって飲み物どれから選べるんですか?」
「あ、これはですね…」

呼んでいたのは3人組の女の子で、キョーコは先程のようなことはないはずと安心していた。
しかし、質問を受けてメニューに目を向けている隙に、隣のテーブルの男子学生がキョーコの足元にそっと携帯を滑り込ませる。
女子達やキョーコが気が付かないのを良いことに、こっそり盗み撮ろうとしていたのだ。

「キミ、携帯落としちゃうよ?…って、これ!最新のiポンじゃない!?いいねー!何時間並んでゲットしたの?」
「えっ!?…あぁ、はいまあ……」

それを救ったのは倖一だった。
腕を掴まれ携帯を触られた男は一瞬不快そうな顔はするものの、盗.撮を通報されるよりは…と、苦笑いで倖一の質問に答えていく。

(………7,8,9,10秒!!)

「そっか、良い物見せてもらったよー!ありがとうねー!」
「はいはい…って!えええ!?何で新品なのに壊れてるんだよ!」

ゆっくり10秒心の中で数えた倖一が適当に話を切り上げて離れると、携帯を見た男は突然叫びだした。

それは倖一の『素手で機械を触ると、10秒で壊してしまう』と言う特異体質のせいなのだが…
まあ、当然ながらこれは男の知る術のないこと。
悪事を働こうとしていた訳だし、バチが当たったとしか言いようがない。

「キョーコ、注文はちゃんと聞けた?」
「?うん。ゆきちゃんどうしてここに?席にいたんじゃ…」
「何でもないよ?じゃあ行こうか。」

肩に腕をまわしてキョーコをそのテーブルから引き剥がすと、衝立の前へと連れて行く。
ことのなり行きを見守っていた蓮と奏江が、そこにはいた。

「あんた…本当にトラブルメーカーね。」
「へっ?何?何かあったの?」
「モーッ!あんたはもう裏方に徹しなさい!」
「えっ!?だってまだ忙しいよ?」

奏江に怒られても、自分が危ない目に遭っていたことに気づいていないキョーコはちんぷんかんぷんだ。
蓮はひとつ溜め息を吐くと、キョーコの耳元にそっと顔を寄せて小さな声で教えた。

「キョーコちゃんがあんまりにも可愛いから、困ったお客さんが多いの。裏にいられないなら、俺がさらっちゃうよ?」
「かっ…さ……!?」

耳元で『可愛い』と囁かれ、更に『さらっちゃうよ?』の一言に一気にぼふんと顔を赤くさせるキョーコ。
慌てて衝立の向こう側へと逃げ込んで、叫びだしてしまった。

「そっ、そんな破廉恥な~~~っ!!」
「はあ!?キョーコ?…とりあえず、お茶とケーキ準備してくれる?私が持っていくから。こっちは忙しいのよ!?」

衝立の向こう側に奏江も消えてしまうと、倖一はじとりと蓮を睨み付けた。

「るぇ~ん?お前、キョーコに何言った?」
「特に何も。」

倖一が苦手とするきゅらきゅら笑顔で答えると、『ぐっ…』と言葉に詰まった倖一はそれ以上の追求を止めてくれた。

(まぁ…さらいたいのは本当だけどね)

キョーコの姿が、行動があまりにも可愛すぎて。
『どうしてくれよう…!』と内心悶え続けているのは本当のこと。

『席に戻ろう』と倖一に促されながら、衝立の陰に逃げ込んだキョーコに向けて、心の中で呟いた。


―――可愛すぎるのも罪なんだよ?



**月華さんへと続きます**



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うふふ、まさかの1万バイト超え。

携帯でお話を書くのに限界を感じました。

(でも携帯からじゃないと書けないんだけど)


最近文章の荒れ具合がやたら気になるようになりました。

何度も書き直して~とかやってるうちに、4話からだいぶ時間が空いてしまいまして…

クロッシングを楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ない事をしました、ごめんなさい。