ユートピアはかつて考えられていたよりもずっと実現可能なように思える。われわれは今、従来とはまったく異なる憂慮すべき問題に直面しているのだ。ユートピアが決定的に実現してしまうのをどう避けるかという問題に。ユートピアは実現可能である。社会はユートピアに向かって進んでいる。おそらく今、新しい時代が始まろうとしているのだろう。知識人や教養ある階層が、ユートピアの実現を避け、より“完璧”でない、もっと自由な、非ユートピア的社会に戻る方法を夢想する時代が。
―ニコライ・ベルジャーエフ
先週末は、2007年の雑誌『Esquire』日本版10月号に目を通したが、それは「食欲の秋」にふさわしいテーマ、<極上「ごはん」に出会う>という特集号だった。秋の夜長に、過去の雑誌を改めて読み返すのは、過去の流行を振り返る意味でも、楽しくも興味深いものだ。
また、フランスのスターシェフ<ピエール・ガ二ェール>のコラム「四季の色」では、<10月の色はオレンジ>(オレンジのような果実のようなイエローがかった橙色ではなく、土の色。スパイスにある「シエナの土」のような、赤茶を帯びたオレンジだ)と形容されているが、秋まっさかりの食材や飲み物について書かれたそれは、季節感を的確に捉えており、何度読んでも感慨深く、ノスタルジックで、秋の訪れと共に、楽しい気分にさせてくれる。
芸術の秋: トロント編
同誌の<Esquire Eyes>では、当時6月2日にオープンしたダニエル・リベスキンド設計の『マイケル・リーチン・クリスタル』が取り上げられ、そのオープニング展に選ばれたのが、日本人の杉本博司氏だった。リベスキンド設計のそれは、1914年に開館したカナダ・トロントの『ロイヤル・オンタリオ博物館(ROM)』の新館であり、その最上階のギャラリーで開催された企画展が「杉本博司 歴史の歴史」だ。同博物館は、フォーシーズンズやパークハイアットなど超高級ホテルの近くに位置しており、絶好のロケーションだとも言える。
ふたりとも、時間という観念に興味を持っていますね。博司の写真は、時間、あるいはその背後にある歴史をとらえるという言い方をするし、ダニエルは記憶という言葉をよく使う。あなたの建築は記憶を思い起こさせ、記憶を前進させるための装置だと言えるかもしれない。
尚、ROMから1.5kmほど南下した場所に、『アートギャラリー・オブ・オンタリオ(AGO/オンタリオ美術館)』があるが、そこで現在開催中の大回顧展が『David Bowie Is』(9月25日~11月27日)だ。同企画展は、今年ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(3月23日~8月11日)において開催され、過去記憶にないような来場者数を記録したイヴェントなのだ。
正に、2013年の世界は、デヴィッド・ボウイ一色に染まり、新たな時代がスタートしたのは確かなのだが、東京では細々と、銀座ソニービルに「DAVID
BOWIE CAFE」なるものが登場したことは記憶に新しいが、あれが春先の3月だったとは、光陰矢のごとし、月日の過ぎるのは早いものだ。ボウイに関しては、年末にかけて、もうひとつ驚きの知らせがあるので、それについてはその時にまた。
芸術の秋: 東京
一方、ここ東京では、来週から、恒例の第26回東京国際映画祭(10月17日~25日)が、六本木ヒルズをメイン会場に開催される。尚、ゲストの一組として、ソフィア・コッポラが、(アメリカ映画界の巨匠であり)父親のフランシス・フォード・コッポラと共に来日予定だ。
今回、平日に足を運んでまで、特別観たいような作品が見当たらないとはいえ、私的に気になる作品を5作品挙げるとするならば、先ずは、前回のブログでも取り上げた、スティーヴン・ソダーバーグ監督作『恋するリベラーチェ』(2013年/米)と、ロバート・デ・ニーロ主演作『マラヴィータ』(2013年/米)の2作品だろうか。いずれも上映日は22日(火)だ。尚、デ・ニーロも来日予定だ。
もう3作品は、17日(木)及び20日(日)上映のマチュー・アマルリック主演作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』(2013年/仏)、22日(火)上映のジュゼッペ・トルナトーレ監督作『鑑定士と顔のない依頼人』(2012年/伊)、最終日となる25日(金)上映のレア・セドゥ主演作『アデル、ブルーは熱い色』(2013年/仏)だ。
読書の秋
先週末は、六本木のグランド・ハイアットのレストランで、ファッションピープルの女の子たちと会食だったのだが、
そう、9月30日付ブログ“Fads are so yesterday.”では、イギリスに移住したオーストラリア人スーパーモデル<エル・マクファーソン>と、LA・マリブ在住のアメリカ人スーパーモデル<シンディ・クロフォード>が共に、過去ツイッター上で引用したシェイクスピアの言葉を取り上げたが、オルダス・ハクスリー著『すばらしい新世界』の小説の中でも、引用されるのが、他でもないシェイクスピアのそれなのだ。
先述した60年代生まれの彼女らは友人同士でもあるが、憶測だとはいえ、彼女たちがシェイクスピアやハクスリーの作品を読んでいるのは明らかであり、そのメッセージ性であるとか、情報を共有していることが、ツイートから読み取れたのは、俺だけではないはずだ。知的で、美しいスーパーモデル<シンディ・クロフォード>が20歳若ければ、付き合いたいくらいだが、彼女とは本選びにおいても、とても気が合いそうだ。付け加えると、本選びに関して、彼女は前夫であるリチャード・ギアの影響が大きい一方、俺の場合、10代前半からデヴィッド・ボウイの影響を多大に受けているのは確かだ。
『すばらしい新世界』に関しては、光文社から今年6月、新訳の文庫本が出版されたばかりだが、同社サイトでは、同書についての「あらすじ」をはじめ、「名言・名場面」、「登場人物の相関図」がそれぞれ詳しく紹介されているので、興味のある方はどうぞ。同小説が、1930年代に出版されたことに誰もが驚くはずだ。
現在公開中の映画『エリジウム』の世界もそうだが、近未来を描いたSF小説やSF映画は少なくないが、俺の趣味ではないにしろ、オーウェルの『1984』と、ハクスリーの『すばらしい新世界』の世界観はそれぞれに興味深く、善かれ悪かれ、イマジネーションを膨らませてくれるから、素敵だ。参考までに、『すばらしい新世界』の時代は、西暦2540年ゆえ、気が遠くなるほど先の未来の話なのだが、ここ10数年のテクノロジーの劇的な進化を考えるならば、今から527年後の世界では、月や火星に行くのが、当たり前の時代になっているかもしれない。地球がまだ存在しているならば、ね。
最後になるが、同小説の中から、気になる名言を抜粋して紹介したい。
「でも、どうして禁書なんです」とジョンは訊いた。シェイクスピアを読んでいる人間に出会ったことで興奮して、ほかのことは当面忘れていた。ムスタファ・モンドは肩をすくめた。「古いからだよ。それがおもな理由だ。ここでは古いものを必要としていない」 「美しいものであってもですか」 「美しいものはとりわけ必要がない。美は人を惹きつける。われわれはみんなが古いものに惹きつけられるのを望まない。新しいものを好きになってほしい。」
今、時計の針は、10月7日(月)の24時半を回った。
Good night!