平成26年会社法改正を見てみる⑥(仮装払込みによる募集株式の発行等) | 弁護士浅沼雅人のブログ

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会社法の見直しに関する要綱案(以下、改正要綱案)
会社法の一部を改正する法律要綱案(以下、法律要綱案)

 今回は、改正要綱案第1部第3、2「仮装払込による募集株式の発行等」を取り上げてみたいと思います。

 以前、見せ金による募集株式の発行等を直接の原因として破産した上場会社の破産管財人代理として、取締役に対する損害賠償請求等を行ったこともあり、今回の改正事項はその請求内容とも関連して、大変興味深い内容です。

 見せ金というのは、要するに募集株式の発行に際して、払い込まれた金員がその後に引受人に払い出されていたなどの事情により、実質的に払込みがあったと認められないものですが、私が経験した事案では、払込みがなされる前日に、同額の会社資金が迂回して引受人に支払われ、その金額はら払い込まれた、というものでした。

 このような仮装払込みによる募集株式の発行等について、改正がなされています。

 さて、改正事項の具体的内容は、上記改正要綱案及び法律要綱案の該当箇所をご確認頂ければと思いますが、要するに、

 ① 仮装払込みをした引受人に、当該払込期日又は払込期間経過後において、当該募集株式を  発行した株式会社に対し、払込金額として仮装された金額全額の支払義務を負わせる。
 ② 仮装払込みに関与した取締役に、株式会社に対し、同額の支払義務を負わせる。

という内容です。

 なぜ、このような改正に至ったか。

 平成17年改正前の旧商法では、新株発行により資本金の増加の変更登記があるにも関わらず、一部の新株が引き受けられなかった場合には、取締役がかかる新株の引受をする義務がありました(引受担保責任、旧商法280条の13)。

 この引受担保責任を前提として、最高裁判例(平成9年1月28日第三小法廷判決)では、仮装払込みにより、払込みが無効とされる場合でも、新株発行が無効となるものではない、とされていました。

 しかし、現行会社法では、引受担保責任が廃止されたので、仮装払込みによる募集株式の発行等の効力に関しては、上記最高裁判例が示していた論理が当てはまらず、募集株式の発行の効力は不明確となってしまいました。

 この点、会社法では、募集株式の発行に際して、払込みがなされなかった場合は引受人は失権する(会社法208条5項)ので、株式会社は引受人に対して、払込金の請求はできません。他方で、仮装払込みが判明するのは、通常、募集株式を発行してしまった後なので、引受人は募集株式を手にすることはでき、実際上、手にした株式を市場で売却してしまえば、売却代金を得ることができる、という状況にありました。

 仮装払込について、取締役に対する責任追及をしようとして、取締役としての善管注意義務違反に基づき損害賠償請求をするにしても、損害の構成は非常に難しいものがあります。

 見せ金という形になったとしても、会社の資産、負債に変動はありません。得られたはずの払込金額が得られなかった、という事実のみです。
 この得られなかった払込金額が損害だ、という構成もあり得るところですが、そもそも払込がなければ、引受人の株主になる権利は失権するだけで、会社に払込金を請求する権利もないので、得られるはずだった払込金が得られなかったことが会社の損害と言えるのか、というと、疑問もあるところです。

 私が経験した見せ金の事案でも、結局、会社の資産、負債に変動はなく、払込金相当額を損害と構成するのは難しく、また取締役の責任追及をしても、払込金相当額の全額を回収することは困難であったため、最終的には、募集株式の発行等に関わった仲介者等への手数料を損害とすることにしました。

 今回の改正は、このような事情を踏まえて、仮装払込みによる募集株式の発行等がなされた場合も、会社は引受人に対して払込金額の請求ができる、という建付けにして、その上で、取締役に対しても仮装された払込金額相当額を請求できる、としたものです。

 併せて、仮装払込みにより発行された募集株式については、払込がなされるまで株主の権利を行使できないものとする、とされています。

 仮装払込みにより発行された募集株式の発行によっても、引受人は有効に株式を取得できることを前提として、その権利行使を制限するという整理が行われています。
 但し、引受人から株式を善意で取得した人には、その権利行使の制限は及ばない、という整理がされています。

 このような改正が行われることにより、仮装払込みに関与した取締役に対する責任追及を行う場合も、損害の構成、立証等が困難となる場合もなく、私が経験したような事案でも、端的に払込金額相当額を取締役に請求できることになるので、個人的にも非常に納得のいく改正内容だと思います。

 上場会社で、仮装払込みが行われ、事件化する例も後を絶たないので、今回の改正により、そのような事案が減少することを祈ります。