平成26年会社法改正を見てみる⑦(子会社株式の売却) | 弁護士浅沼雅人のブログ

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会社法の見直しに関する要綱案(以下、改正要綱案)
会社法の一部を改正する法律要綱案(以下、法律要綱案)

 今回から、改正要綱案の「第2部 親子会社に関する規律」に進んでいきたいと思います。

 順番に行くと、「第1 親会社株主の保護等」の中で「1 多重代表訴訟」、「2 株式会社が株式交換等をした場合における株主代表訴訟」という内容になっています。かかるテーマも重要な改正ではありますが、事業再生・倒産実務とは直接的には関係がないので、より関係の深い、「3 親会社による子会社の株式等の譲渡」について先に見てみたいと思います。

 改正要綱案における記載は次の通りです。

3 親会社による子会社の株式等の譲渡
 株式会社は,その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡をする場合であって,次のいずれにも該当しないときは,当該譲渡がその効力を生ずる日(以下3において「効力発生日」という。)の前日までに,株主総会の特別決議によって,当該譲渡に係る契約の承認を受けなければならないものとする。
① 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)を超えないとき。
② 当該株式会社が,効力発生日に,当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有するとき。

(注) 本文の場合には,上記のほか,事業譲渡等に関する規律(第467条から第470条まで)の適用があるものとする。


 この改正は、親会社が有する子会社株式を譲渡するに際して、親会社の株主総会における特別決議を要するものとし、かつ、事業譲渡と同様に反対株主の株式買取請求の適用があるようにする、というものです。

 現在の会社法では、事業譲渡の場合は、株主総会の特別決議が必要とされています(会社法467条)。
 しかし、子会社株式の譲渡については、そのような規定はなく、解釈上、子会社株式の譲渡も事業譲渡と実質的に同様であれば、事業譲渡の規律が適用されるとする見解がありましたが、一般的には、重要な資産譲渡として、取締役設置会社では取締役会決議により行われることが多かったと思います(会社法363条4項)。

 このような実務の状況等から、親会社の子会社株式譲渡も、子会社が営む事業を譲渡するという実質において、事業譲渡と異ならないことを考慮して、親会社の株主総会の特別決議を要するものとする改正が行われることになったものです。

 では、今後、事業再生等の実務へどのよう影響を与えるか。

 一つは、子会社株式の譲渡による資産の換価等が迅速に行いにくくなるという点があります。
 事業が窮境に至ると、本業以外の事業は、第三者に売却して、本業に経営資源を集中する、「選択と集中」が行われるのが一般です。この場合、他事業を子会社において行っていれば、事業の売却は、子会社株式の売却という形で行われますが、かかる売却に際して、その株式の簿価が、親会社の資産の簿価の5分の1を超える場合は、株主総会の特別決議を要するようになり、迅速な売却ができない可能性が出てきます。

 殊に、資金的にも窮境に至った会社においては、迅速に子会社を売却して、資金を得ながら、本業へ資源を集中していくということも必要になりますが、かかる売却に際して、迅速性を欠くことになりかねません。また、株主の動向如何では、子会社売却の実現が遅延して、資金化できずに、資金繰りに行き詰るということもあり得ないではありません。結果として、民事再生や会社更生などの法的倒産手続に進まなければならない、という会社が出てくるかも知れません。

 ※ かかる改正に伴い、民事再生法42条(事業譲渡に関する裁判所の許可)、43条(株主総会決議に代わる許可)の対象として、支配株主の異動を伴う子会社株式の譲渡も加えられることになります(整備法10条、12条)。