平成26年会社法改正を見てみる⑤(支配株主の異動を伴う募集株式の発行) | 弁護士浅沼雅人のブログ

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会社法の見直しに関する要綱案(以下、改正要綱案)
会社法の一部を改正する法律要綱案(以下、法律要綱案)

 今回は、改正要綱案第3、1の「支配株主の異動」を伴う募集株式の発行等」について見てみます。
 この点は、資金調達の場面ということもあり、事業再生・倒産の局面とも重なる場面なので、今後の実務上どのように対応されていくのかについても雑感を述べたいと思います。

 まず、現行法の募集株式の発行等の規律がどうなっているか。

 現在は、募集株式の発行等は、株式の全部に譲渡制限が付されている場合は、原則として、株主総会の特別決議が必要とされていますが、発行する株式の一部または全部について譲渡制限が付されていない会社(会社法上の「公開会社」)であれば、第三者に有利な価額で発行等をする場合や定款で株主総会の決議によるものとされている場合以外は、取締役会決議で発行することが出来るとされています(会社法201条)。

 しかし、かかる規律に対して、株主の関与なしに会社の支配権に異動が生じることに批判があり、比較法的にも、現行法の規律の元となったアメリカでも取引所規則により支配株主の異動を伴う募集株式の発行等については株主総会決議を要するものとされていることから、今回、一定の場合に株主総会決議を要することとする旨の改正が行われることになったものです。

 具体的な内容としては、次の通りです。
 

① 公開会社は,募集株式の引受人について,アに掲げる数のイに掲げる数に対する割合が2分の1を超える場合には,第199条第1項第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては,その期間の初日)の2週間前までに,株主に対し,当該引受人(以下(1)において「特定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所,当該特定引受人についてのアに掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならないものとする。ただし,当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第202条の規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は,この限りでないものとする。
ア 次に掲げる数の合計数
(ア) 当該引受人がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数
(イ) 当該引受人の子会社等が有する議決権の数
イ 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数


 まず、今回の改正の対象となるのは、支配株主の異動を伴う募集株式の発行等です。

 要件としては、要するに、当該募集株式の発行等の後に当該引受人が有することとなる議決権の数+その引受人の子会社等が有する議決権の数が、当該募集株式発行後の総株主の議決権の数の2分の1を超える場合です。
 かかる要件に該当する場合は、上記ア、イにかかる事項を、払込期日又は払込期間の初日の2週間前までに株主に通知しなければならないとされます。

 支配株主の異動を伴うと言える株式の割合については、色々な議論があり、特別決議で否決できる3分の1とすべきという議論もあったようですが、逆にこのような改正をすべきではない、という経済界の反対論もあったところで、結局、2分の1に落ち着いたということのようです。

 ただし、引受人が親会社等であれば、そもそも支配株主の異動が生じないので、その場合は適用除外とされています。 


② ①による通知は,公告をもってこれに代えることができるものとする
③ ①にかかわらず,公開会社が①の事項について①の期日の2週間前までに金融商品取引法第4条第1項から第3項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には,①による通知は,することを要しないものとする。


 現行法では、公開会社は取締役会決議で募集株式の発行等を行うことができる一方、募集事項を定めた場合は、株主にそれを通知するものとされています(会社法201条3項)。この通知は、公告で代えることができるので(会社法201条4項)、新たに設けられる規律においても、①における株主への通知については、公告に代えられる規律としたということのようです。

 ③については、要するに、有価証券届出書の提出が義務付けられる場合等ですが、この場合は届出書が開示されるので、重ねて株主への通知又は公告は不要とされています。


④ 総株主(④の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の議決権を有する株主が①による通知の日又は②の公告の日(③の場合にあっては,法務省令で定める日)から2週間以内に特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは,当該公開会社は,①の期日の前日までに,株主総会の決議によって,当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第205条の契約の承認を受けなければならないものとする。ただし,当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,この限りでないものとする。


 株式会社からの通知又は公告から、2週間以内に、10分の1以上の議決権を有する株主が反対する旨を通知した場合は、株主総会決議を要するという規律です。

 中間試案段階では、同様の建付けによっていたB案、株主総会決議を要することになる反対通知の割合を4分の1としていましたが、株主総会決議を要する場合が限定的すぎるという理由で、法制審議会会社法部会の最後の方になって、10分の1という数字で落ち着いたものです。
 ただし、経済界からは、10分の1でも少なすぎる、という意見もあったところです。

 10分の1の反対者のみで、残りが賛成することが確実であっても、株主総会は必要となりますが、他方で、反対通知を待たずに、会社が自発的に株主総会決議を取ることも妨げられない、というのが立案者の見解のようです。

 但書の点は、当該会社の資金繰り等で緊急の必要があるときには、株主総会決議を要しないというものですが、この点は、後ほど、雑感を述べたいと思います。

⑤ 第309条第1項の規定にかかわらず,④の株主総会の決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあって,その割合以上)をもって行わなければならないものとする。

 必要となる株主総会決議について、中間試案は普通決議とされていましたが、会社の支配権の異動という意味で取締役の選任と共通するということで、最終的に定款で定めることのできる定足数の特別な規定の下限を3分の1とされています。

 以上が支配株主に異動がある場合の募集株式の発行等の改正で、募集新株予約権の割当等についても、予約権の行使により支配株主に異動が生じるため、同様の規律が設けられる予定です。

 かかる規律の対象は、公開会社ですので、中小企業に多い、株式の全部について譲渡制限がついている会社は対象になりません。
但し、一部の株式にでも譲渡制限が付されていなければ公開会社ですので、規模の大小は関係ありません。
 以前記事にした社外取締役の設置等の改正点と比べても適用範囲が広いことになり、事業再生等の実務に与える影響は大きいだろうと思います。

 実際に、かかる改正される予定の支配株主に異動が生じる募集株式の発行等がなされる場合を想定すると、平常時と、事業が窮境に陥った緊急時に分けられます。

 平常時は実務上、特段の問題は生じないと思いますが、緊急時の場合はどうなるでしょうか。

 通知又は公告を行う、というのは、現在の会社法201条3項と同様なので、払込に至るまでのスケジュール的には変わりません。要するに、公告を行うのであれば、大体、遅くとも掲載日の2週間前までには申込みをして、公告があってから2週間後に払込期日が来るようにスケジュールを立てるので、1カ月くらい前には、具体的な作業を進行させなければないのは、同じなので、全体のスケジュールは変わらないかなと思います。

 問題は、10分の1以上の議決権を有する株主が反対の通知をした場合は、株主総会決議を要し、「財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるとき」には、不要とされている点です。

 上記例外の要件は、一義的に明らかではないので、例外の要件に当たるものとして、取締役会決議のみで、募集株式の発行等を行おうとすると、募集株式の発行等の差止めの仮処分を受ける可能性があります。仮に仮処分を受け、決定が出てしまうと、募集株式の発行による資金調達ができなくなり、資金繰り破たんを来す可能性が出てきます。

 そうすると、資金繰りが本当に厳しい場合であれば、あるほど、保守的に株主総会決議を取得しておこうと思うのが通常で、上記例外規定を用いる場合というのは、非常に少ないのではないかと思います。

 中小企業であれば、同族会社も多く、株主総会決議が容易なので、保守的に株主総会決議をとっておくでしょうし、同族以外にも株主が取引先等に限定されていれば、株主の動向等も予想し易く、議案への賛同をお願いするということもやりやすいので、やはり、株主総会決議を取っておくだろうと思います。

 上場会社であれば、株主は多様であろうと思いますが、仮に、株主に対する通知、公告をした後に、10分の1以上の株主の反対があり、そこから株主総会決議を取るとすれば、その準備にさらに時間を取られることになるので、予め、株主総会決議を取るようにしていく、という可能性が高いように思います。

 結局、いずれの会社を想定しても、結局、株主総会決議を取る方が手続の安定のためにも良い、ということになり、支配株主の異動を伴う場合には、株主総会決議を取得しておくというのが、実務になっていくのではないかと思います。

 仮に、株主総会決議を取れない可能性が高い事案があるとすれば、民亊再生や会社更生などの法的手続に進み、その中で、再生計画又は更生計画に基づいた減増資を実行せざるを得ないのだろうなと思います。そのような事案がどの程度あるかわかりませんが、改正法案の建付けからすると、窮境に至り、株主の動向が不明な会社であれば、早めに法的手続を取るという事案も増えるのかも知れません。