子育てプリンシプル | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

奥田 健次:著 一ツ橋書店 定価:1000円+税 (2009.5)


     私のお薦め度:★★★☆☆


ちょうど1年ほど前に会報179号のお薦め本で紹介した「自閉症児のための明るい療育相談室」で小林重雄先生との共著・・・というか、かけあいを楽しく読ませていただいた奥田健次先生の単著です。


その大学の先生らしからぬ(?)独特の風貌と、歯に衣着せぬ物言いから「子育てブラックジャック」と呼ばれる奥田先生です。前の紹介文でも書いたのですが、以前、育てる会でも応用行動分析の保護者向け連続講座をお願いしていた恩ある先生でもあります。


そんな時代を知らない保護者の方からも、セミナーのアンケートの「お聴きしてみたい先生」にいつも名前の挙がる、人気の先生です。

さて、本著ですが、表紙に「※ 本書には、親にとってシンドイ姿勢を求める提言など、カゲキな発言が含まれています。」との注意書きがあるように、私がこれまで会報でたくさんお薦めしてきたTEACCH関係の本とは、大きく違っています (^_^.)


よくこんなことを言うお母さんがいます。
「うちの子は、手がかからなくて」
本当なのか? と思いながらその親子関係を見ていると、たいていの親は子どもの奴隷になっています。かいがいしく世話を焼き、すべて言いなりです。

「これは受け入れるけど、これは許さない」という一線を、自分の中にもっているようには見えません。


「うちの子はてがかからない」などと悠長なことを言っている親は、いずれ子育てや親子関係で大きくつまずきます。

子どもが14歳くらいに成長してから 「先生、助けてください!」 と悲愴な面持ちで相談されても、私もどうしようもない。そういうときはこちらも正直に、「お母さん、なんでもっと早く僕のところにきてくれなかったの。もう手遅れですよ」と言うしかありません。実際には、まだどうしようもない年齢ではありません。

しかし、そこまで大きくなるまで親が何もせず、いきなり「この子を直して」というのは虫がよすぎるでしょう。『アリとキリギリス』のキリギリスみたいなものです。


ここでの、許さない一線というのが、本著のタイトルの「プリンシプル」、原理・原則です。
ただここでは、奥田先生は、親子関係の「秩序」、公共の「ルール」、自然の「摂理」というような意味で使っておられます。
それは決して難しいものではなく、先生曰く

「生きていれば105歳になる祖父が本書を読んだら、「何をあたり前のことを書いとるんじゃ!」と叱られそうです。」
その程度の秩序やルールです。
「と、同時に、こんなあたり前のことが必要とされる世の中になっていることを、きっと祖父は嘆かれるにちがいありません。」


確かに、私たちが子どもの頃はルールを守らないと怒鳴られるコワイおじさんが近所に何人かいましたし、親や先生のいう事は「絶対」でしたね。・・・もう50年以上も前の「3丁目の夕日」時代の話ですが。


もちろん、そんなしつけを今の子ども達や自閉症児たちにそのまま通用させようとしても、反発も大きいと思いますが、「親に手を挙げられたこともない」若いお父さんやお母さんの中には、叱ることも叱られることも、あまり経験していなくて、“優しく”子どもの言うがまま・・・子どもが船長になっているご家庭もあるように思えます。


家庭を航海中の船にたとえるなら、子どもは新入り乗組員。
新米が成長するまで、主導権は親が握るのがあたり前です。
おろかな親は、嵐がきているのに舵とりを投げだして、ぐずるわが子の世話を優先します。
子どもが主導権を握るような船は沈没してしまうでしょう。


今、船の沈没というようなたとえは少し不謹慎かもしれませんが(韓国セウォル号沈没の後)、家庭にはプリンシプルが必要であるという話です。

もっとも、その遠因は、若い頃髪を肩まで伸ばして 「♪~ただ、あなたの優しさが、こ・わ・か・~っ・た♪」などと気楽に唄っていた、今はおじいちゃんとなり始めた私たち団塊の世代にあるのかもしれませんね。
優しさが一番で、昔からの口に苦いプリンシプルは途絶えさせ、「地震・雷・火事・オヤジ」は死語になりつつあるようです。


ただし、本書の中で、奥田先生厳しいだけではありません。
子育てについても、わかりやすく解説していただいています。


0歳児はもも組さん、1歳児はりす組さん、3歳児はらいおん組さん。
子どもを「子ども」としてひとくくりにするのではなく、段階的に受け入れ方を変えていくべきです。

「子ども」をひとくくりにしているから接し方がわからなくなるのです。


0歳児の間は果物の桃を扱うときのように丁寧にそおっと、大事に大事にもも組さん。

1歳児はかわいいりす組さん、そろそろしつけを始めるのですが、まだりす組さん。わかるようにやさしく教えてあげましょう。

そして3歳からは、イヌやネコを飛び越して一気にらいおん組さんです。


もも組さんに対しては、要求充足率は100%としておきましょう。

まだ言葉のない赤ちゃんにとって、泣くことしか要求する方法はありません。空腹ならおっぱいで満たし、オムツが気持ち悪いのなら替えてあげます。


りす組さんになると、これまでの接し方を少し見直さなければなりません。

つまり、要求充足率100%から「90%、80%」というように、段階的にいわゆる「がまん」を経験させなければなりません。他愛のないことでかまわないので、わざと意図的に、10回のうち1回くらいは子どもの要求を断固拒否する経験を積むように心掛けてください。

らいおん組さんになったら、さらに要求充足率を減らしましょう。

子どもが要求してきた10回のうち、要求の断固拒否は4、5回くらいあってもいいでしょう。練習が大切なのです。りす組さんの段階で断固拒否の練習が不足した親子だと、らいおん組さんになってから断固拒否の練習をするのは本当に骨の折れる仕事です。



さて、なぜこんな面倒な練習が必要なのでしょう? 18歳の春を目指して子育てされているお母さん方には、もう言わずもがなと思いますが、・・もっと詳しく知りたい方は、どうぞ本書をお読みください。


でも自閉症児、特に知的障害を持つ子どもを育てていて、気をつけなければいけないのは、このいつまでも、その年齢より「子ども」扱いをしてしまうことかも知れませんね。りす組なのに、もも組のまま、らいおん組になっているのに、まだりす組あつかい・・・・
中には、もうとっくに大人になっているのに子離れできない親も(ココに)います。
20歳を過ぎると保護者ではなくなり、親権も持たないただの家族ですね。反省です。


これについての印象に残った話がありました。


私が納得できる答えはただひとつ、「20歳(はたち)になったら家からでていけ、といつも言っています」これだけです。
物心ついた頃から、「成人したら家をでて、自分で稼いで暮らすんだよ」ということを繰り返し伝えていれば覚悟ができます。中学や高校など、将来の進路を具体的に考え始めるもっと前の段階から、親は子どもに伝えておくべきです。いつか家をでて行くのだということを、できるだけ早い段階から言い聞かせておくのです。
6、7歳の頃には、「20歳になったら家を出るのがあたり前なんだ」と考えるようになっているのが理想です。そのためには、小学校からでは遅く、幼稚園の年少くらいから始めてもけっして早すぎることはありません。


これはもちろん、ニートや「引きこもり(引きこもらせ)」にならないための対処法についての話の中でのアドバイスなので、障害を持つ子の場合には、家を出るまでにある程度の道を作っておいてあげることが必要とはなってくるでしょうね。
でもそれにしても、小さい頃から、やがて子どもたちは家をでていくものだ、という見通しと覚悟をもって過ごすことが、親にとっても、子どもにとっても大切だなと感じる話でした。


この例でもお分かりのように、奥田先生の本来の専門は発達障害、学習障害、自閉症などの子どもたちなのですが、本書はそれにとどまらず、むしろ一般の親に向けての一喝本のように思えます。


いつもの“自閉症”関連のお薦め本というよりは、「我が家に“子育てプリンシプル”は存在するや、否や」程度の気持ちで読んでいただければと思います。価格も専門書よりは、一般書クラスに近く、お買い得になっています (^_^.)

また、買おうかどうか、迷われている方は、下の目次をご覧ください。異様に(?)長い目次ですが、本書の内容が端的にお分かりになると思います。


     (「育てる会会報 192号 」 2014.4 より)


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目次


  まえがき


親に求められる姿勢


    世の大人たちは、
    「子どもがダメになること」ばかりやっています。
    「私の子育てはまちがっていません!」と意固地にならず、
    まずはお母さんが“聞く耳”をもってください。
    親が行動を変えないと、
    子育てはいい方向に向かっていきません。
  
  ・不登校児のお母さんに、私がだした処方箋
  ・私はブラックジャック!?
  ・家庭出張型セラピーで出会った子どもたち
  ・まずは聞く耳をもってください


典型的なダメ親とは


    たとえば、「今は1個だけ」と決めたら、
    何が何でも守るのです。
    ムードや気分に流されず、
    どんなときも「金太郎飴」のように
    同じ態度、姿勢でいることが必要です。
    子育てはすべてそこから始まります。
    “金太郎飴お母さん”を目指してください。


  ・ムードに流されるお母さんたち
・世間に漂う風潮を疑ってみたことがありますか
  ・大切なのはわが家のルール
  ・病気になるのはとてもかんたん


わが家のルールのつくり方


    親を脅かしたら恐喝犯、
    親の財布から100円でも盗んだら窃盗犯、
    たとえ4歳の子どもでも
    やってはいけないことを教えなければなりません。
    社会のルールに照らして考えれば
    家庭内で定めるべきルールが見えてきます。


  ・ルールをつくるのはむずかしいことじゃない
  ・決めたルールを日々伝えよう
  ・「手がかからない子」なんていない
  

家庭でのルールの守らせ方


    子育ては練習の連続です。
    ルール(お約束)を設けて何度も練習してください。
    そして子どもがきちんとルールを守れたら、
    赤飯を炊いてお祝いするくらい大げさに
    褒めまくってあげるのです。
    ルールを伝えて終わりでは不十分。
    練習を重ねることが大切です。


  ・たった1時間でルールは教えることができる
  ・叱り下手な親も成長できる
  ・まずは他愛のないことをルールに
  ・ルールが守れたら大絶賛せよ
 

親と子の立場と役割


    家庭を航海中の船にたとえるなら
    子どもは新入り乗組員。
    新米が成長するまで、
    主導権は親が握るのがあたり前です。
    おろかな親は、嵐がきているのに舵とりを投げだして、
    ぐずるわが子の世話を優先してします。
    子どもが主導権を握るような船は沈没してしまうでしょう。


  ・子どもの言いなりになる親や祖父母
  ・新米の乗組員を船長にしてはいけない
  ・子どもの将来のために考え方を変えてみよ


目指すべき家族のあり方


    親が一方的に命令し服従させる『煉瓦塀家族』、
    親の言動に一貫性がなくゆらゆら揺れる『クラゲ家族』、
    どちらもダメな家族のあり方です。
    どんなときも家族全員で共有する「枠組み」をもつ
    『土台家族』になってください。


  ・子どもが友達との約束を破ったら?
  ・コロローソの「3つの家族」とは
  ・目指すべきは「土台家族」です
  ・「自分が好き」という自己肯定感をもてる子に
  ・「土台親」は子育てに手間を惜しまない


「子ども」の奥田流分類


    0歳児はもも組さん、
    1歳児はりす組さん、
    3歳児はらいおん組さん。
    子どもを「子ども」としてひとくくりにするのではなく、
    段階的に受け入れ方を変えていくべきです。
    「子ども」とひとくくりにしているから
    接し方がわからなくなるのです


  ・受け入れるだけが愛情じゃない
  ・段階的に要求を聞きわけることが大事
  ・「子ども」とひとくくりにしてはいけない
  ・要求充足率を段階的に変えていきましょ


自立をうながす育て方


    「20歳になったら家からでてけ」。
    これを思春期に入ってから言っても遅いのです。
    3、4歳から言い聞かせてください。
    時がきたら、自分の翼で羽ばたく覚悟が
    子どもの中に育ちます。
    わが子の自立の邪魔をするのは人間の親くらい。
    その証拠に、鳥にニートはいません。


  ・ニートは社会問題ではなく家庭問題
  ・人間の親は子どもの翼の羽をむしりとってしまっている
  ・夢や希望だけでなく、現実のきびしさを教える
  ・ちょっとだけ私の場合を


ストレスを乗り越えさせる


    子どもに苦労をさせない子育ては
    子どもを軟弱にします。
    「かわいい」と思うのはいいけれど
    「かわいそう」と思いなかれ、なのです。
    わが子を大事にしすぎて
    試練を乗り越える練習を家庭で経験していないと、
    社会にでてからたいへんな思いをするのは子どもです。


  ・子どもをダメにするセンチメンタルな父母、祖父母
  ・ストレス悪玉説を捨てましょう
  ・大学生なのに、わが子は4歳?


子育てに役立つ催眠,魔法


    子どもの「しんどい」「疲れた」を
    いつも鵜呑みにするとロクなことはありません。
    鵜呑みにすると
    「疲れやすい子」になるからです。
    そんな子どもの言葉を深刻に受け止めず、
    子どもを冗談で笑わせて、
    誘導するくらいの技は身につけておくべきです。


  ・「10代は疲れない!」
  ・「病は気から」と思っていればいい
  ・“がばいばあちゃん”になろう


失敗経験から学ぶこと


    ほとんどのお母さんが、
    子どもがつまずきそうな石を
    前もってとりのぞいてしまいます。
    転んで怪我するのはかわいそうだし、
    泣かれるのも面倒だからです。
    でも子どもは親のセーフネットつきで
    一生、生きてはいけません。
    「失敗}=「成長のチャンス」と考えてください。


  ・わざと失敗させてみることができるか
  ・成功経験と失敗経験をバランスよく
  ・おつかいで失敗の意味を教える方法とは


効果的な目標設定の技術


    5メートルしか泳げない子に
    50メートルを強制しても、
    怖がって、やる気を失うだけです。
    人に謝ったことがない青年に
    心から相手に謝罪しろと言っても余計に反発します。
    親は一足飛びの成長を期待するのではなく、
    スモールステップで見守る辛抱強さが必要です。


  ・最初は完璧でなくてもいい
  ・少しずつ×(バツ)の数を減らし○(マル)を増やしていく
  ・不良の心を動かしたすごい武道家


うまい叱り方とダメな叱り方


    「今度やったらおしおきよ」
    「もう二度としないね」
    こうした「説得」をくり返すことが
    最良の子育てとカンちがいしている親がたくさんいます。
    イエローカードをちらつかすだけの大人を
    子どもは見ぬいています。
    やってはいけないことを教えたいなら
    ときには一発レッドカードをだす勇気も必要です


  ・「説得」のカードで切りぬけようとするおろかな親
  ・子どもにレッドカードの存在を教えよ
  ・親はフェアな審判であれ


動因と抑制のバランス


    人間は生まれながらに「わがまま」なもの。
    それはちゃんとエンジンがついた車である証拠です。
    でも暴走したり、事故を起こさないように
    「がまん」というブレーキを教える必要があります。
    どちらも必要ですし、
    どちらも同時に育てていかなくてはならないものです。


  ・子どものわがままにどう向き合うか
  ・わがままとがまんを両方育てましょう
  ・心理カウンセラーの思い込み
  ・葛藤させることの大切さ


公共心と私心


    あの人ばっかり得してずるい、
    こっちはいつも損ばかりしている。
    ねたみやひがみの目で世の中を見ていると、
    子育ても子どもの将来もゆがみます。
    目先の損得勘定だけで幸-不幸を決めつけるのは
    よくないことです。
    子どもの「幸せ感」を育てるのが、
    家庭教育の最大の課題です。


  ・社会へでて行ける子に育てるには?
  ・「私心」ばかりの大人たち
  ・「幸せ感」はお金でははかれません


演出家、プロデューサーになる方法


    “子どもだまし”が通用する10歳までに
    親の威厳を植えつけるのです。
    親を「すごい!」と感じるように
    “はったり”も上手に利用すればいいのです。
    子育ての目標は
    心から「ごめんなさい」、
    心から「ありがとう」の態度を
    子どもがとれるようにすることです


  ・子どもは破壊する存在です
  ・子どもの期待をふくらませる嘘
  ・10歳までの大切さ


感情コントロールの大切さ


    怒りやすい性格、キレやすい社会。
    性格や社会のせいにするのはかんたんです。
    しかし、これらの性格はのほとんど形成されたもの。
    つまり、感情のコントロールは育て方ひとつです。
    子どもの頃からの適切な練習によって、
    自分の怒りをマネジメントすることができるようになります。


  ・ケンカから学ばせよう
  ・人を殺せる人、殺せない人
  ・自分の怖さを知ること
  ・社会のせいにしないこと


携帯電話


    テレビ、パソコン、携帯電話・・・・・・。
    主導権がイマイチな親、楽観的な親が相手なら、
    子ども部屋に“完備”するのは
    子どもにとってむずかしいことではないでしょう。
    本来、子どもに“専用”は不要なのです。
    あったとしても、親のきびしい統制つきであるべきです。


  ・とても危険な“子ども専用”
  ・携帯電話は親の安心のため?
  ・子どもは親を揺さぶります


  あとがき