自閉症スペクトラムなど発達障害がある人との コミュニケーションのための10のコツ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

坂井 聡:著 エンパワメント研究所 定価:1500円+税 (2012.6)


    私のお薦め度:★★★★☆

ちょっぴり長い題名ですが、発達障害をもつ人にとって安定した暮らしには、適切なコミュニケーションを持つことがいかに大切か、ということと、その手段を獲得するためのコツについて、坂井先生がわかりやすく書かれた本です。


もともとコミュニケーションや社会性に弱さをもつ彼らですが、これまでも、また将来も一人で暮らしていけるわけではありません。
彼らが少しでも生きやすくなるようにと、坂井先生がやさしく、また面白く解説されています。


最初は、基礎的なところから、「コミュニケーションとは」から第1章が始まります。
前半部分には、「コンピテンス」とか「コンテキスト」など、あまり耳慣れない言葉や専門用語も出てきます。「ノイズ」や「チャンネル」なども、私たちが普段使っているニュアンスとは少し違っています。それぞれの言葉の解説は、章の最初にありますが、まだぴったりとくる日本語の単語が作られていないため、横文字で表記されています。
読み進めていくうちに、もとの意味を忘れないよう解説されている部分には付箋を貼っておくのもいいかもしれませんね。(私は、そんな風にして読み進めました (^.^)・・)


後半の「10のコツ」にはいってからは、いつもの坂井先生の楽しい講義です。
このあたりから、私も肩のコリがなくなりました。
坂井先生は、実際に教育現場で長く実践を続けてきた方だけあって、紹介されているエピソードも豊富で、またその10のコツも、現場でやってこられた中から生まれてきたものだというのがよくわかります。


例えば「忘れてもいいということを伝える」コツです。
自閉症のことを「忘れることのできない障害」とあらわした先生がおられましたが、たしかに大人になっても、子ども時代の出来事を忘れられなくて、フラッシュバックをおこされる方もいらっしゃいます。その場合に提案されているコツです。


たとえば、忘れる方法として「水に流す」があります。忘れたいことをトイレットペーパーに書いて水に流すのです。「このような儀式をすることが忘れるということです」と伝えるのです。

辞書で「水に流す」というところを読んでもらって、納得してもらうことも1つの方法です。


このように具体的な方法を提案することで解決できることはたくさんあります。ゴミ箱に捨てるとか、シュレッダーで細かくするという方法もよいのですが、燃やすという方法はやめましょう。場所に関係なく、忘れるという理由で火をつけてしまうとも考えられるからです。

いい方法ですね。喩えがうまくわからない自閉症の特性を逆に生かして、「水に流す」・・・本人もきっと納得することでしょう。具体的で、しかも目に見えるやり方ですから、すんなり伝わるような気がします。伝わってこそのコミュニケーションですね。
しかも注意事項まで・・・ありがたいです。


同じように、靴にこだわりがあって、穴が開いても履き続けていたトキオ君のエピソードです。


お母さんは、トキオくんと一緒に新しい靴を買ってみました。その靴も気に入っているはずなのですが、新しい靴に変えることができないのです。誕生日を機に変えようとしましたがうまくいきませんでした。月の変わり目でもうまくいきませんでした。


そこで、靴の引退式をしようということになりました。履いていた靴に感謝をこめて引退式をすることにしたのです。
学校の先生に引退式の式次第を作ってもらい、引退式を行いました。


「それではただいまから、トキオくんの靴の引退式を始めます」
「起立、礼、着席」
「靴へのことば」
・・・・・・・・・・・
「それでは、以上をもちまして靴の引退式を終わります」
「起立、礼、着席」
「靴の退場です。みなさん拍手で送ってください」 パチパチパチ…
なんとその日の帰りからトキオくんは靴を変えて帰ることができたのです。 


これについても、今、お気に入りの服や毛布を手放せなくて苦労されている方もいるのではないでしょうか。一度試してみてはいかがでしょう。
何度も養護学校で卒業式を体験させてこられた坂井先生ならではのアイデアでしょう。
そういえば、我が家の息子も、終わりを自分で納得させたいときは「卒業。卒業します。」と自分で言っていますね。なんでもかんでも卒業させたがるのも問題なのですが・・・(^.^)


こんな風に、いろいろユニークなアイデアやコツの詰まった本です。
コミュニケーションの大切さを理解するためには、もちろん最初から読んでいただきたいのですが、日ごろの子育てに追われて、今 時間のとれない方には、後半の10のコツだけでも読んで、一度は試してみることをお薦めしたい一冊です。


    (「育てる会会報 186号 」 2013.10 より)


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目次

  はじめに
  プロローグ こんなエピソードが 


第1章 コミュニケーションとは


  1節 コミュニケーションを3つの視点から考える
  2節 コミュニケーションの基本原理 
  3節 コミュニケーションを成立させるために必要なもの 


第2章 コミュニケーションを成立させるために


 【メッセージの送受信】


  送り手と受け手
 
    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    同じ話題ばかりのタロウさん


  符号化と符号解読


    発達障害がある子どもが抱える困難さ(符号化)
    必要な支援と指導(符号化)
    「抱っこして」
    発達障害がある子どもが抱える困難さ(符号解読)
    必要な支援と指導(符号解読)
    「気にしてないよ」


  メッセージ


    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    直接行動で表現している


 【コミュニケーション手段とルール】


  チャンネル


    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    メールで相談


  コンピテンスとパフォーマンス

    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    あいさつができないケイゴさん


  ノイズ


    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    「小さな声でお願いします」


 【コミュニケーションの評価と文脈】


  フィードバック
 
    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    日記の最後は「楽しかったです」


  コンテキスト
 
    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    「手順表があれば大丈夫」


  経験の場


    発達障害がある子どもが抱える困難さ
    必要な支援と指導
    「うそはついていません」


第3章 コミュニケーションのコツ 押さえておきたい10の視点


  ① 知っていても言わないほうがいいという場合があることを伝える


    エピソード 正直に言いなさい。嘘はいけません


  ② その表現やことばが意味していることを理解できるように伝える


    エピソード 目を見て話しなさい


  ③ 納得して終わることができるように工夫をする


    エピソード いつまで反省すればいいの?


  ④ 具体的に伝える
 
    エピソード 起きなさい


  ⑤ どのタイミングで伝えたらいいのか理解できるように伝える
 
    エピソード 今から友だち連れて帰るからね


  ⑥ 思い込んでいることに気がつけるように伝える
 
    エピソード お世辞は嫌いなので


  ⑦ 子ども一人ひとりに合わせた対応をする
 
    エピソード 諸説あります


  ⑧ 経験する機会を増やす
 
    エピソード 服を合わせなさいよ


  ⑨ 忘れてもいいということを伝える


    エピソード 甘いものを食べた後は


  ⑩ 納得できる伝え方になるよう工夫する


    エピソード 引退式


第4章 もっとコミュニケーション


  1節 指導者として、大人として 
  2節 コミュニケーションの練習をする際の配慮点 
  3節 子どもが何を伝えたいのか? 
  4節 もし同じことで悩んでいるとしたら 


あとがきにかえて