このまちで、ともに暮らそう ~新たなセーフティネットづくりをめざして~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

21世紀型地域福祉システム研究会:編著 筒井書房 定価:2400円+税 (2009年3月)


      私のお薦め度:★★☆☆☆


今、セーフティーネットが危ない、という話は、マスコミなどでもよく耳にするようになりました。
特に先日の衆議院選挙で政権が交替する前には、ワーキングプアのの問題や派遣切り、母子家庭の生活保護加算の打ち切りなどと合わせてその危機が論議されていましたね。
障害者をはじめ、高齢者、母子家庭の方にとって、社会保障であるセーフティーネットが壊れる、あるいはその網から抜け落ちるというのは、生存に関わることになってしまいます。


本書は「このまちで、ともに暮らそう」という視点から、新たな21世紀型のセーフティーネットのあり方について
書かれたものです。
前半は座談会という形で、問題点を抽出し、めざすべき方向を考え、第2章では新たなセーフティーネットの担い手としての生活協同組合(生協)などについて考察しています。そして、第3章では、それを実践している各地の生協や支援センターの先駆的な取り組みを紹介しています。


本書を読んだ感想としては、「あとがきにかえて」の中で、最初の座談会を司会した福祉ジャーナリストの東畠弘子氏が書かれている一節・・・


私の原風景には、赤ちゃんが泣き、犬が吠え、夕暮れになると子どもに夕食を知らせる母親の声が原っぱに響いていた。東京の都心であっても、一本道にはタンポポが咲いていた。1960年代の「三丁目の夕日」のような光景を懐かしんでいるのではない。
泣いて笑って、そして、誰かと出会い、誰かと別れ、高齢になって病をえても、時に生きるのがつらくなっても、もう一度誰かがそっと背中を押してくれる、そんな人と人とがつながって社会があることを、もう一度実感したいのだ。これは、今も、未来も、どのような時代であったとしても変わらない。


「三丁目の夕日」時代を懐かしんではいないかもしれませんが、そこを理想の姿として目指しているという印象でした。
「お互いさまの助け合い」それを行政によるセーフティーネットを補完するものとしてとらえ、市民の手による相互扶助により、21世紀型の福祉システムを作っていこういうものです。そして、その核となるのが、生協や、本来の意味での(利潤を追求しない)NPOや社会福祉法人などであると論じています。


いわば、市民をお互いに信じる性善説に基づく理想論であると感じたのですが、こんな世界を実現するための方法論としては少し弱いのではないかとも感じました。
私も三丁目の夕日世代として育ったのですが、それがなぜ「懐かしむ」ような過去の時代になってしまったのか。本書でも触れられているように、少し前までは当たり前であった生協の共同購入が、今では個別配達が望まれるようになってきたのか。

そこの問題を、もう少しマイナス要因も含めて考えないと「生活協同組合の限りない可能性」と言ってみても、生協の良いところだけを強調したPR本になってしまうのではないでしょうか。


本書の中にも「向こう三軒、両隣」と相互扶助の担い手としての新たな(古い?)地域でのコミュニティづくりの大切さが述べられていますが、今、都会のアパートやマンションに住んで隣人とは無縁の生活をしている人の現実とはかけ離れているようにも感じます。

その人たちが支援が必要となったときにセーフティーネットは、向こう三軒両隣から得られるのでしょうか、また隣人としてお互いさまと手を差し伸べられるのでしょうか?


もちろん、本書はそれに向けての地道な実践例も挙げています。生協で多重債務に陥った人への生活再生相談や貸付を行っている「グリーンコープ生協ふくおか」などが紹介されていますが、確かに優れた取り組みだとは思いますが、新たなセーフティーネットを広く作っていくなら、やはり個人志向に陥りがちな現代人にも配慮したシステムの構築が必要なのでは?と思ってしまいます。


本の紹介というよりは、私の批判的な意見になってしまいましたね。
どうも生協というと、我が家も以前は共同購入に参加していましたが、自閉症についてのトンデモ本が、生協のお薦め本で販売されて以来、少し身構えるようになったからかもしれません。(「親の目からみた自閉症に対する問題書籍 」:1998年9月) 少々反省です。

     (2010.10)


---------------------------------------------------------

このまちで、ともに暮らそう―新たなセーフティネットづくりをめざして

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍
¥2,520
Amazon.co.jp

----------------------------------------------------------

目次


  発刊にあたって


第1章 これからのセーフティネットのあり方と地域社会づくり


  1 地域社会の変化とセーフティネットの危機
      「セーフティネット」の危機をどうとらえるか
      ミクロとしてのセーフティネット - 社会保障の変遷
      国民所得の伸びを大幅に上回る社会保障給付費の推移
                - 負担と給付のバランス
      生活障害ニーズの多様化、複合化 - 省力化へ動く施策
      人と人のつながる力が弱まっている
           - 崩れているのは社会保障制度だけではない
      人間が病んでいる時代 - この危機をどれだけ認識できているか


  2 この危機を乗り切るために必要なこと - セーフティネットはなぜ破れたのか -
      われわれはどこで間違ってしまったのだろうか
      雇用の不安定化がもたらした生活の破壊


  3 地域の福祉力再生の必要性
      「自己責任論」では解決しない
      負のスパイラルをどう断ち切るか
      「問題」の指摘で終わらない地域社会をつくるには
      地域にあるケア力を育てよう、気づいた人から広げていこう


  4 これからの福祉の担い手 - 地域づくりソーシャルワーカーを育てるために -
      地域づくりの哲学をつくろう!


  5 福祉専門職を地域でどう位置づけるか
      行政には期待しすぎるな。しかし、逃してはいけない
      何が福祉専門職を地域に入りにくくしているのか
      社会福祉法人、NPO法人は地域づくりを主眼に
      福祉の専門性を認識できれば24時間365日は当たり前
      地域に入ってこそ福祉の専門職という評価を
      「地域の福祉力」が地域社会を変える力に


第2章 地域におけるコミュニティのあり方


  1 地域コミュニティの意義とは
     1.今なぜコミュニティの福祉力が必要なのか
      (1)社会の変化
      (2)コミュニティとは何か
     2.地域社会の再生・活性化の基軸としての福祉
     3.地域が危ない
      (1)安心・安全の確立の落とし穴
      (2)次世代を育む場としての地域社会の再生
     4.相互扶助を基本とした真のコミュニティのあり方とは
      (1)相互扶助の強化と確立
      (2)見守り機能を再生した北九州市の取り組み
      (3)生活協同組合の限りない可能性
     まとめに代えて


  2 市民資本が地域福祉を豊かにする - 生活協同組合の取り組みから -
     1.立ち遅れる社会福祉制度
     2.生活協同組合のお互いさまの助け合い
     3.メンバーシップ組織の助け合いを超えての非営利・協同へ
     4.市民資本による地域福祉システム
     5.「大きな福祉」に使い勝手よく、つくり、変える
     6. 21世紀型地域福祉システムと市民自治の実現


第3章 新たな支え合いの試み


 ■先進事例1 中核地域生活支援事業とは何か - その実践と展望 -
              中核地域生活支援センター夷隅ひなた

  1 中核地域生活支援センターはどのように立ち上がったのか

  2 中核センターの体制

  3 中核センターが目指すもの
     (1)住民の命を守りたい
     (2)支援を必要とする人に寄り添って支援したい
     (3)困り事は必要な時に応えたい
     (4)とりあえずの支援だけでなく、問題が解決するまで支援したい
     (5)個人だけでなく、家族全体の支援が必要
     (6)お金がなくては暮らせない
     (7)一人の人への支援が地域を成長させる
     (8)家族関係も調整が必要な場合がある
     (9)相談事業は地域の中で

  4 人権侵害対応活動

  5 地域づくり活動(地域ソーシャルワーク活動)
     (1)既存の資源の質の向上を図るとともに、
           各資源同士が力を合わせていくためのネットワークづくり
     (2)地域の福祉課題を地域の資源が力を合わせて解決していくための仕組みの活性化
     (3)地域の人材をどう育てるか
     (4)住民自治をどう支援していくか
     (5)知域づくりビジネスへの支援
   
 ■先進事例2 多重債務からの生活再生に取り組むグリーンコープ生活再生相談室
                     グリーンコープ生活相談室

  1 なぜ生協で多重債務問題なのか? - 取り組みの経過

  2 暮らしを取り巻く経済状況と多重債務問題の関連

  3 生協の組合員も同様に経済生活の破綻問題は深刻
     - 2005年7月20日に調査した組合員の3か月以上の供給未収金滞納状況

  4 多重債務に至る生活上の問題は、誰にでも起こりうる問題である
     - 消費者金融(サラ金)からお金を借りるのはすぐ隣にいる生活者

  5 多重債務問題対策の大きな柱は生活再生相談と生活再生貸付
     - 生活再生相談とは?・・・具体的な事業内容と特徴

  6 具体的にはどのような事例が? - 貸付と生活再生

  7 生活再生貸付の目的と発生分類
     - 年度による貸付目的の変化

  8 家計破綻が生活者の身近な問題となる時代が迫っている!
     - 借金はあるが貯蓄はない生活の現実を見据えて

  9 新たな支え合いの仕組みづくり
     - 地域の中に助け合いによるセーフティーネット貸付を


 ■先進事例3 ともに生きる地域社会をつくる
                   ひがしまつやま市総合福祉エリア

  1 市民福祉プランひがしまつやまの策定

  2 ユニバーサルな支援の仕組みづくり
     (1)総合相談センター
     (2)地域サービスセンターによるホームヘルパー派遣

  3 ともに暮らすまち 東松山の実現
     (1)保育園、幼稚園でともに育つ
     (2)ともに学ぶ教育と就学支援委員会の廃止
     (3)ともに働くための支援
     (4)地域での暮らしの場

  4 他人事から自分事への転換


 ■先進事例4 地域社会の豊かさをひらく
                   社会福祉法人いきいき福祉会

  1 介護保険制度が変えた福祉観

  2 「市民の地域経営力」をポイントに事業展開
     (1)自分たちの仕事を数字でとらえる
     (2)真の生活者ニーズを敏感にキャッチし、新規事業の展開へ
     (3)社会福祉法人は非営利事業体であり、地域生活者の生活の道具である!
     (4)職員の経営参加と専門性の質がカギ
     (5)社会福祉法人は市民生活の道具たれ

  3 コミュニティの福祉経営のカギは「衣・食・住(すまい)」+「医・職・住(すまい方)」
     (1)コミュニティの資源を生かす
     (2)世界語になった日本語とコミュニティ福祉経営
     (3)コミュニティ福祉経営は
         「衣・食・住(すまい)」+「医・職・住(すまい方)」を市民参加の経営で


  本書で伝えたかったこと -あとがきに代えてー