わらって話せる、今だから ~高機能自閉症児の青春ドラマ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

上野 景子、上野 健一:著 東京シューレ出版 定価:1500円+税 (2008年4月)


      私のお薦め度:★★☆☆☆


「笑って話せる、今だから・・・」オヤジたちの飲み会でも、よく出る話です。特に子どもが大変だった小さい頃から一緒に過ごしてきた親同士には、よくわかるフレーズですね。


でも、この本を読んで感じたのは、それとは少し違った違和感でした。
本書を書かれているのは、共に教師経験のあるご夫婦、お父さんは現役で個別支援学級の担任をされ、しかも同じ年に日本自閉症スペクトラム学会正会員となり、その2年後、これもご一緒に自閉症スペクトラム支援士の資格をとられています。
第4章は、そのお父さんが、自閉症児の特性の理解や関わり方について丁寧にまとめられています。


それだけ読めば、すごく障害に理解のある家庭で、大変ではあったが山あり谷ありの自閉症児の子育てをしっかり乗り越えてこられた体験談であろうとの印象を持って読みはじめました。
でも、どこか違うのです。


夫はもうすでにお酒を飲み、居間で横になってテレビを観ていました。「どうして帰っちゃったの。たいへんだったんだから」と私が言うと、「車を移動させただけだ」と言いながら康一を指差し、 「本当にあったまにくる! こいつには!」 とまだいらだちが収まっていません。数日前のコンサートでの転落の怒りもぶり返し、興奮は頂点に達せんばかりです。


康一の場合、そんな態度を見せてもまったく懲りないし、かえっておもしろがり挑発してくるのは長年の経験でわかっているはずなのに・・・・と思った矢先、康一がやはり夫をからかい始めました。夫は酒の勢いもあり、テーブルの上に駆け上がり、康一に飛びかかりました。そして馬乗りになって、やっつけ出したのです。私は「康ちゃん、逃げろ!」と叫び、夫には「やめろ!」と怒鳴りましたが、「なぜいつもこいつの味方ばかりする!」と今度は私に矛先が・・・・。
興奮状態でも私は矢継ぎ早にカメラのシャッターを切りました。夫の暴力行為を証拠に残そうと必死でした。


「第2章 これがわが家の不登校ライフ」から「たった一日で我が家が崩壊していく・・・・」の中の一節です。
子どもが崩れていくのではなく、夫の暴力行為により家庭が崩壊していくという流れは、私の想定外でした。
そんなことばはお父さんだけではなく、お母さんからも発せられます。同じ「不登校ライフ」からの一節です。


たまには私も息抜きがしたくなり、夫の休日には日常とは異なる場を求めて、我が家を離れ、三人でドライブに行くのですが、これが康一にとっては無駄で苦痛な時間なのです。不本意ながら連れてこられた康一は、些細なことで大パニックを起こします。
渋滞になればシートの上でドスン、ドスン。夕食の6時を過ぎれば(こだわりで、康一くんは夕食は6時と自分なりに決めていたそうです)、「飯! 飯!」と大騒ぎです。
夫はいらだち、わざと急ブレーキをかけ、私は 「学校に行かないくせに何なの、その態度は。お前が学校に行って普通の生活をしていれば三人平和で暮らせるのに! 明日から学校に行け!」 と怒鳴るのです。
まるで車内は阿鼻叫喚と化すのでした。


その、同じお父さんが、第4章ではこのこだわりについても、詳しく論理的に解説されています。


こだわりをやめさせるかどうか。それは本人の生活にどれだけ悪影響があるのか。周りの人たちにどれだけ迷惑をかけているのか、それによってやめさせるかどうかを考えればいいのです。少し我慢すればいい程度なら、そのままにしておけばいいのです。それを無理にやめさせて、みんなが大迷惑を被るようなこだわりが新たに始まったら元も子もありません。要するに、妥協点をどこに置くかということです。


自閉症は現在の医学では治らないと言われています。自閉症が治らないということは、その主症状のひとつであるこだわりもなくならないということです。ですから、こだわりをなくそうと考えること自体がおこがましいことでしょう。むしろ、こだわりはなくならないと思って接する方が、楽な気持ちで対応できます。肩肘張らずに、楽な気持ちというのが、もしかしたら発達障害児と接する時のコツかもしれません。


この両者のギャップに違和感を感じてしまうのです。康一君のこだわりに楽な気持ちで接しているようには見えないのです。
まあ、昔から、旅館などで、一番ハメをはずして騒ぐのが、学校の先生たちの団体という話を聞いたことがあります。普通の会社ならパワハラで許されない言葉遣いでも、相手が生徒なら教室では普通に使われているのでしょうか?
本音と建て前のギャップなのか、あるいは学校では許されない分、家では思わず感情を爆発させてしまうのか・・・・
読んでいて、これらの章の、あまりの落差に、どう共感していいのか困惑してしまうのが正直なところでした。


また、それまでの活動についても、最初は康一君がLDと診断されていたため、「LD児理解推進グループ『のびのび会』」を作って、会員も集め運営されてこられたそうですが、康一君が高機能自閉症との診断名の変更を受けると、その会も「高機能自閉症理解推進グループ『のびのび会』」とあっさり改称して活動を続けておられるそうです。
このあたりも、一般会員になられた方の気持ちを考えると、少し割り切れなさを感じてしまいますね。
普通なら、本来のLD児の会員の方たちに、それからの会の運営は譲って、新しく高機能自閉症理解のための会を立ち上げられるのが自然のように思えてしまいます。


他にも、沖縄で作業療法士の専門学校に入学した康一君に根負けして車を買い与えてしまったため、連日乗り回し、内緒でアルバイトに精出したため、結局留年・退学してしまったりと・・・「終わり良ければ、全て良し」、と最後は趣味を生かした自転車関係の会社に就職して働きはじめるところで終わっているのですが、果たしてそれで良かったのかな?
そんな違和感を、結局最後まで引きずってしまった読後感でした。


ただ、題名にもなっている 「笑って話せる、今だから」 ということばは、若いお母さんにも将来への見通しの中に入れておいていただきたいと思います。
あるいは、筆者の上野さんも、それを承知の上で、反面教師として、それでもなおかつ 「笑って話せる、今だから」 として書かれたのかもしれませんね。だとしたら、赤裸々にご家庭の恥ずかしいところまで、正直に描かれた勇気には尊敬の念を抱きます。最初から、そういう視点で読めば、違和感は感じなかったのかもしれませんね。

さて、どう読まれるかは、これはみなさんのご自由ですので、後はおまかせしたいと思います。


           (2009.10)


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目次


  はじめに


第1章 高機能自閉症の息子と学校の壁


  息子の出発
  小学校時代の康一
  中学校入学
  最初の懇談会を終えて
  体験学習への参加
  順調に見えた中学生活が崩れる日
  担任から連日の報告
  北海道で出会ったLDの仲間
  康一が心をひらいた塾の先生
  学校はくだらない
  夫婦で出した結論
  親と子で歩き出す不登校
  康一を支えてくれた人たち
  私を支えてくれたカウンセリング
  詩に気持ちをしたためて


第2章 これがわが家の不登校ライフ


  不登校ライフ その1・流氷ツアーに参加
  康一の居場所
  不登校ライフ その2・楽しいはずの旅行が・・・
  不登校ライフ その3・たった一日で我が家が崩壊していく・・・
  専門医との出会い
  子どもにストレスを覚える日々
  笑顔が消えた私
  ほめられることになれていない私


第3章 北の大地にはずむ高校生活


  北星余市高校の見学
  北星余市高校の事件
  かわいい子には旅をさせよ
  高校進学までの道のり
  子離れのとき
  いきなり担任からの電話
  ピカピカの高校生活
  下宿のトラブル
  夏休みにボランティアを体験
  部活動 その1・野球部
  部活動 その2・バドミントン部
  親から見れば謹慎処分も成長のあかし
  小型船舶の免許に挑戦
  夏休みに見えた将来
  自分の夢に向かって
  感動の卒業式


第4章 高機能自閉症を理解するために


  家族で歩んだLD理解への道のり
  LDの混乱
  軽度発達障害の疑問点
  自閉症の診断基準となる症状について
  高機能自閉症について


  行動障害
    ・認知過程の障害
    ・想像力の乏しさ
    ・微調整ができない
    ・過敏性が高い


  行動特性と対応
    ・同じ失敗を繰り返す
    ・前と同じようにできない
    ・言葉の誤用が多い
    ・感情の分類が少ない
    ・細かい部分から抜け出せない
    ・初めての場面が苦手
    ・こだわり
    ・パターン化
    ・パニックを起こす
    ・時間の流れが苦手
    ・先が読めない
    ・相手の気持ちがわからない
    ・融通がきかない
    ・観点が違う


  悪意の有無
  対応のポイント
  専門医の受診と告知
  特別支援教育
  人間は生きているだけですばらしい


第5章 親子のきずな


  琉球への旅立ち
  自動車運転免許取得
  ひとまわり大きくなった夏休み
  初めての実習
  医療機関との相性
  決断
  再出発
  支えてくれる人がいて強くなれる
  沖縄からの一人旅
  康一らしいお見舞い
  自立への一歩


 自分の道 ・・・ 相田みつを美術館館長 相田 一人


  あとがきにかえて