宮崎 直男:編著 日本文化科学社 定価:1500円 + 税 (1982年6月)
私のお薦め度:★★★☆☆
また、自閉児の教育は、たかだか十数年であるから、教育内容・方法のコンセンサスを望むことが所詮無理なこととお考えの方もいるが、子どもたちは待ってくれない。教育にかかわる者は子どもたちの発達を援助することであるから、試行錯誤ではあっても、これまでの種々の障害教育において開発した教育内容・方法を参考としながらも、一つの試みをと思い、本書をまとめてみた。
この「まえがき」の中の一文に、本書の位置付けが集約されていると思います。
ここで “たかだか十数年”と言われているように、本書は1982年発刊で、今から20年以上も前の学校での自閉症児教育について書かれた本です。
“子どもたちは待ってくれない” それは今も昔も同じです。当時、学校に通っていた自閉症児たちの援助のために “試行錯誤”を繰り返しながらも最善の教育を・・・そんな思いでまとめられた実践記録の書です。
第Ⅰ部では、当時の自閉症児をとりまく教育の現状が集計されていて、今と比較していくうえでも貴重な資料となっています。
第Ⅱ部では、自閉症児の指導における実例が、それぞれの教育現場から報告されています。通常学級・情緒障害学級・精神薄弱(知的障害)学級・精神薄弱(知的障害)養護学校・・当時から、自閉症児たちは今と同じく、様々な環境の中で教育を受けていました。そしてそれは自閉症学校がいまだ無い現在でも、どこが最も適しているかは結論がでていませんね・・・しだいに大きくなる我が子を前にして、親が一番適していると思う環境をみずからの責任で選んでいるのが実状でしょう。
本書の中でも結論はでていません、ただその与えられた環境の中で先生方は、子ども達の力を伸ばすために工夫を重ねていらっしゃいます。
それぞれの学級での年間指導計画や1週間の時間表・授業案や、課題の抽出・指導の実際など、表題の通り「学級経営」の立場から、マニュアル化された参考書に仕上がっています。
当然20年以上の前のマニュアルですから、それ以来の自閉症児療育方法の進展を考えたとき、プラスしたいこともありますが、その指導方法の中には今も通用することも多いのでは・・そんな印象を抱かせていただいた一冊でした。先人の先生方の熱い思いにに感謝です。
(2003.11)
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目次
まえがき
I 自閉児教育の現状と課題
1 情緒障害教育のための国の施策
(1) 学校教育法等
(2) 実態調査
(3) 情緒障害教育実験学校の変遷
(4) 特殊教育の基本的な施策のあり方
(5) 事例集
(6) 重度・重複障害児に対する学校教育のあり方
(7) 軽度心神障害児に対する学校教育のあり方
2 情緒障害特殊学級等の実態
(1) 情緒障害特殊学級の実態
(2) 精神薄弱養護学校における自閉児の実態
3 自閉児のいる学級経営
(1) 学級経営
(2) 自閉児の実態把握の仕方
(3) 教育課程
(4) 指導の原則
(5) 施設・設備
(6) 教材・教具
(7) 教科書
(8) 指導要録
(9) 通信簿
II 自閉児の指導の実際
1 通常の学級における指導
(1) 食べることに興味のないA男 ― 小学校 ―
(2) 生まじめで清潔好きなM夫 ― 中学校 ―
2 情緒障害特殊学級における指導
(1) 文章表現力に乏しいT男 ― 小学校 ―
(2) 言語統合能力に遅れを持つO子 ― 小学校 ―
(3) すぐに不安定な状態に陥るD男 ― 中学校 ―
3 精神薄弱特殊学級における指導
(1) 物事にこだわりを持つN男 ― 小学校 ―
(2) 依頼心の強い多動なA男 ― 中学校 ―
4 精神薄弱養護学校における指導
(1) 奇声を発して動き回るA夫 ― 小学部 ―
(2) 全身的な協応運動に乏しいA男 ― 小学部 ―
(3) 激しく跳びはねてわめきたてるK子 ― 中学部 ―
資 料