近藤 原理:著 明治図書 定価:1903円 + 税 (1993年10月)
私のお薦め度:★★★★☆
本書は「シリーズ・障害者の暮らしと福祉」の第1巻として、「私の障害者福祉実践小論」として、長崎のなずな園で障害者の方と共に暮らす近藤原理先生が書かれた本です。
題名は『共生社会をめざして』と、いささか理念的な響きがしますが、内容はこれまでの共同生活の実践の中から生まれた、まさに「地に足のついた」、原寸大の暮らしの姿です。
お父さんの、近藤益雄先生は「のぎく寮」で、昭和28年に精神薄弱児の子どもたちと共同生活を始められます。原理先生は山口県の精神薄弱者施設に勤められたあと、昭和37年に家族で長崎に帰られて「のぎく学園」から、少し離れたところで自宅を成人の障害者との共同生活の家「なずな寮」とされ、生活をはじめられます。以来、もう40年、その暮らしの中で培われてきた原理先生の福祉実践論です。
私も、書物や講演によってですが、とても薫陶をいただいた先生のお一人です。
本書の最初の一節 「なぜ共同生活を始めたか」を紹介させていただきます。
夫婦と幼な子二人といった私どもの家庭に、知恵遅れ、てんかん、自閉症、脳性マヒ、分裂症、神経症などの大人の障害者十数名が加わってともに暮らすようになって27年たつ。いまでは二人の子どもも独立し出て行った。現在、我が家は11名の障害者たちとの暮らし。それに昼間だけ手伝ってくれる伊藤、江口の二人の主婦もいる。多いときは16名まで預かった。就労帰宅、施設入所、病院入院などで出て行く者、またやって来る者と出入りあり、これまで述べ40名が暮らした。
障害があったっていいではないか。もう、しかたないことだし。要は私どもがその障害のあるがままを受け入れ、ともに生きていくことが大切なのである。
そうしない限り、多くの障害者は施設で「大集団収容管理」の生活を永久に強いられることになる。
街から何キロも入った山の中に、こつ然とコンクリートの大きな建物が現れる。壁には「しあわせな未来のために、はげめがんばれまっしぐら」のスローガン。周りの畠ではたくさんの知恵遅れの大人たちが、炎天下汗し働いていた。
「治ったら帰れる」「よく働くようになったら外へ出られる」、自らにもそういい聞かせながら、来る日も来る日も人里離れた山の中で農作業に精を出す。精神薄弱者施設からの就労自立が、年 1%にもならない現実の中で、どんな「しあわせな未来」が待っているというのだろうか。
将来のためにいまを予備化するのでなく、「いま」この現実こそ充実・生きがいたらしめなければならぬ。
しあわせは「いま」の日々の生活の中にこそ求めなければならぬ。
馬の頭の先にニンジンをぶらさげて歩かせるようなやり方でなく、「いまの “いま”をより美しく」生きることこそ考えなければならぬ。
障害のあるがままを受け入れ、ともに生きていく。そうすることで障害者が地域で生きるのをあたりまえにしていく。
「福祉」はまだまだ切り拓いていく時代。障害者が「あるがままに、あたりまえに」生きられる社会をつくるには「切り拓きつつ、ともに生きる」よりほかに道はない。
いまの我が家もそう思っています。いまがしあわせでなければ・・・明日のために今日を犠牲にする生活はどこかに無理が生まれてしまいます。今日の幸せにし、そしてそれを明日の暮らしの糧につなげてやりたい。
近藤先生はじめ多くの先駆者の方たちのおかげで、子どもたちの選択肢も増えてきました。この道をさらに広げていくことが、私たちの世代に与えられた役目のように思います。
・・・・一方、なずなでの暮らし、その理念は理念として、そこに流れる時間はとてもおおらかなものがあります。「ゆとり・ユーモア・夢」と最終章が結ばれているように、ここにこそ楽しい、本来の家族的な生き方があるように思えます。
私たちがいつのまにか忘れてしまった、支えあってともに生きる、そんな暮らしがあります。
全国に『無数のなずなを!!』・・・それが実現できたとき、障害者だけでなく、私たちにとっても幸せな暮らしが待っているような気がします。
そんな本書で教えられた「なずなの心」を我が家でも大切にしていきたいと思っています。
(2003.1)
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目次
まえがき
Ⅰ 学び合って共に生きる
1.なずな障害者教育福祉合宿研究会の30年
1 なぜ共同生活をはじめたか
2 「なずな合宿研」の萌芽期
3 実践理論を深める
4 より充実した合宿研へ
5 やさしいコトバで深い思想を
6 「平和」を中心に据えて
2.共に老いながら求めているもの ― ゆとり・文化・友だち
1 ゆとりのある生活リズム
2 行事や趣味を楽しむ
3 私も支えられている
4 ゆとりと「文化」と友だちと
5 在宅手当てを
3.見方をかえる ― 「症状」は「特性」
1 エトあて名人
2 バツグンの記憶力
3 二代目「受付係」
4 「女のなまえのおと」
5 ひとりになって「学習」
6 だが数には弱い
7 「症状」は「特性」
4.教師へ ― 視野に生活と地域を入れた専門性を
Ⅱ 支えあって共に生きる
1.30年目の春
1 30年目の春
2 一泊旅行
3 親を思う心
4 卒業研究発表会
5 誤解・偏見・差別
6 地域と結ぶ教育
7 収容施設の役割
8 三つ子の魂 百まで
9 きょうも、いい日で
10 役割と出番
2.「人間だから」の視点
1 教師冥利
2 6歳の親子別れ
3 孫のいる風景
4 「人間だから」の視点
5 「撲滅」ではなく「共生」を
6 共に暮らす村
7 人間コンピューター
8 症状は特性、障害は個性
9 マムシに噛まれた話
10 書くことは老化防止
3.原爆墓標
1 待つ楽しみは長いほどいい
2 食べる物は自前で
3 心の杖
4 障害児者と40年
5 自尊心
6 地域で生きる
7 原爆墓標
8 私の原爆忌
9 強い意志
10 悟り
4.9割のために
1 おおらかさ
2 マミとフクコさん
3 先駆者
4 「椿の宿」にて
5 9割のために
6 ユーモア
7 後悔しきり
8 草の根福祉
9 老いをともに
10 寄り添うこと
5.なずなの心
1 ゆとり創造
2 男も家事を
3 障害者も生活者
4 国際貢献
5 福祉の学生
6 なずなの心
7 わが家の年越し
8 ヨコの発達の教育
9 共生は慣れることから
10 「おふくろに・・・・・・敬礼!」
11 思いやりのないことば
Ⅲ 寄りそって共に生きる
1 差別をなくすために
2 無数のなずなを!!
3 農業をしながら
4 受身で緊張の強いケンちゃん
5 仲間のあたたかい支えの中で
6 ケンちゃん係三人目にカズオ君
7 相手に合わせてゆっくりと
8 「君は立派な精神治療士だ」
9 カズオ君が教えてくれたこと
10 一方からだけ見ない
11 見方を変える
12 ゆとり・ユーモア・夢
あとがき