東京IEP研究会:編 財団法人明治安田こころの健康財団 定価:1500円 (2009年5月)
私のお薦め度:★★★☆☆
財団法人明治安田こころの健康財団 設立45周年記念として発行された本書です。
前身の安田生命社会事業団により出版された「個別教育計画の理念と実践」、「個別教育・援助プラン」に続く、発達障害のある子どもたちへの支援のために編纂された3冊目です。特に30周年記念事業として発行された最初の「個別教育計画の理念と実践」が素晴らしい本だったので(もう15年も前になるのですね。その節は哲平のIEPを作る過程でとてもお世話になりました)、期待して手にとりました。
今度はきれいなカラー印刷で、パラパラとめくると色鮮やかな課題の数々が目に飛びこんできてワクワクしながらページをめくりました・・・
ところが、読み進めるうちに私の期待と少しずれるのです。こちらが勝手に、その題名から、将来の就労自立に向けての、厳選された自立課題の“百選”と勘違いしたせいでもあるのですが・・・
その課題の内容というのは、自立へ向けての課題ではなく、自閉症の障害としての特性、すなわち「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「イマジネーションの障害」の三つ組に向けて働きかけるという課題でした。
すなわち、私たちが「自立課題」を考えるときに行なう自閉症の特性として持っている強みを伸ばそうという発想に対して、弱いところを補おうという発想での課題例です。
したがって、使っている道具は似ていても、例えば見本通りに、ペグをさしたり、弁別したりするのではなく、見本を見ながら指導者と交替を繰り返して作ったり(社会性)、指示される通りペグをさしたり(コミュニケーション)が課題として設定されています。手順書にしても、手順書通りにボールペンを組み立てるのではなく、相手のことばを聞いて手順書を作る(イマジネーションの共有)ことなどが課題となります。
勝手に早トチリして(私のハンドルネームの由来です(^_^;)・・ )、勝手にガッカリしていれば世話ないわ・・・と言われそうですが、私と同じ思いを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それは、本書の「あとがき」にも書かれています。
課題百選を手にしてみてどのような感想をもたれたでしょうか。題名の‘百選’に興味を持たれた方、具体例のカラー写真に惹かれて手にされた方、それぞれいろんな感想をお持ちと思います。もしかすると「新しい課題を期待していたのに、予想していたのとなにか違う」という感想をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。
それこそが、この報告書の本質に関わる重要なポイントなのです。「はじめに」でふれたように、この本は、自閉症の行動特徴を軽減するための提案ではありません。自閉症の障害の“三つ組”として示された障害特徴の一つ、日常生活だけでは自然に増えていかない周囲の人とのやりとりを(人為的なのは承知の上で)、出来るだけ増やそうという試みの提案です。当然、ここで示されている課題をやれば自閉症が良くなるとか、治るというものではありません。
やはり、私一人ではなかったようですね。安心しました。
最初に、このあとがきに目を通していれば、その意図に沿ってページをめくっていけたので、全く違った印象を持っていたでしょうね。その意味では、「あとがき」ではなく、「はじめに」に書いておいていただきたかった内容ですね (^_^;)
もちろん、こういった視点、目的からみれば、いろいろ考えられた課題の数々だと思います。やりとりを考えていく中で参考になる課題例だと思います。
ただ、私と同じ勘違いをする方がいないように、「あとがき」の一部をさきに紹介させていただきました。
あともう一つ、こちらは本文の最初に書かれていますが、「課題百選」というのは「百個の課題を選定したという意味ではなく、厳選した具体的課題とその実施手続きを選定した、という意味だそうです。
したがって、課題としては、障害の“三つ組”に対応するものですので、基本的には三つだけです。その同じ教材を使って、バリエーションを少しずつ変えての実施例がそれぞれずっと続きますので、その点も承知の上で読んでいただきたいと思います。
最後まで読み終わっての感想は、本書の意図やねらいは分かりますが、やはりちょっと題名と内容が誤解を誘いかねないようにも感じました。
「自閉症の“三つ組”特性にはたらきかける やりとり課題例」・・・ん~ん、これでは、やはりちょっと題名としてはインパクトが弱いですかね (^_^;)
(2009.7)
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目次
刊行にあたって
はじめに
第1章 自閉症の障害特性と課題百選
1 社会性の障害といわれる自閉症の障害特徴
2 能力の停滞がおきることと自閉症の障害特徴について
3 障害特徴に基づく対応とは
4 障害の“三つ組”の特徴を考慮した課題設定
1)社会的相互交渉の質的障害
2)コミュニケーションの質的障害
3)イマジネーション(想像性)の質的障害
5 認知能力の発揮に向けた工夫と適切な生活課題でのやりとり
第2章 “三つ組”に対応した課題設定
1 “三つ組”の改善に向けた課題
1)社会性相互交渉の機会を保障する
課題例1 実物見本を見て交代で作る
課題例2 実物見本を見て互いに手渡して作る
課題例3 実物見本を見て役割を分担して作る
課題例4 実物見本を見て途中から役割交代して作る
課題例5~7 視覚手がかりのバリエーション
2)コミュニケーションの機会を保障する
課題例8 ことばを使って相手に要求を伝える
課題例9 ことばを使って相手に教える
課題例10 相手の指示(ことば)を理解する
課題例11 ことばを使って相手に手順を伝える
課題例12 ことばを使って相手に位置を伝える
課題例13 ことばを使って相手に正誤を伝える
課題例14 ことばを使って相手に依頼する・報告する
課題例15 写真シートを指差して相手に要求を伝える
課題例16 写真シートを指差して相手に教える
課題例17 相手の指示(指差し)を理解する
課題例18 「手順・位置シート」を指差して相手に手順を伝える
課題例19 「手順・位置シート」を指差して相手に位置を伝える
課題例20 「○×シート」を指差して相手に正誤を伝える
課題例21 写真シートを指差して相手に依頼する・報告する
コミュニケーションのためのツールと伝え方
3)イマジネーション共有の機会を保障する
課題例22 相手の行動を見て文字(筆記)により手順書を作る・実行する
課題例23 相手のことばを聞いて文字(筆記)により手順書を作る・実行する
課題例24 相手のことばを聞いて実物により手順書を作る・実行する
課題例25 相手のことばを聞いて写真カードにより手順書を作る・実行する
課題例26 相手のことばを聞いて単語カードにより手順書を作る・実行する
課題例27 相手の行動を見て写真または絵(色)カードにより手順書を作る・実行する
課題例28 相手の行動を見て写真または絵(色)カードにより手順書を作る・実行する
2 事例
1)社会的相互交渉の機会を保障した例
2)コミュニケーションの機会を保障した例
3)イマジネーションを共有する機会を保障した例
3 “三つ組”の改善に向けた課題に使用できる身近な教材の例
第3章 認知特徴を考慮した具体的な試み
1 適切な刺激と行動(反応)を結びつけるための工夫
1)適切な刺激に注目させる工夫
2)適切な刺激と行動(反応)を結びつけるための工夫
3)細かいものを見分けさせるための工夫
2 細かい弁別からマッチング(見本合わせ)に向けたステップ
1)レパートリーを広げるために
2)分類とマッチング
ステップ1 機能によるマッチング
ステップ2 実物同士のマッチング
ステップ3 絵カードと実物のマッチング
ステップ4 記号・マークのマッチング
ステップ5 文字・数字のマッチング(数字の場合)
ステップ6 文字・数字のマッチング(文字の場合)
ステップ7 種類・量のマッチング
ステップ8 手順のあるマッチング
3 適切な刺激に注目させるための工夫
1)事例1 刺激と行動を結びつけるための工夫
2)事例2 細かい弁別を獲得させるための工夫
第4章 生活課題におけるやりとり(指導)の工夫
1 生活課題の分析とやりとりの現状(アセスメント)
1)生活の中の活動とやりとり
2)生活課題の分析
2 つまずき(不完全なステップ)に対するやりとり(指導)の工夫
1)服の着脱(服の前後)
2)服の着脱(ボタン)
3)食事(おはし)
4)手を洗う
5)体を洗う
6)歯磨き
7)靴をはく
8)靴のひもを結ぶ
9)排泄(排尿)
10)排泄(ペーパーをたたむ)
おわりに