発達障害といじめ ~“いじめに立ち向かう”10の解決策~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

キャロル・グレイ:著 服巻 智子:訳・翻案・解説 クリエイツかもがわ 定価:2800円+税 (2008年12月)


      私のお薦め度:★★★☆☆


ソーシャルストーリーTMやコミック会話で、みなさんすでによくご存知のキャロル・グレイ女史による、発達障害児へのいじめを防ぐためのマニュアル本です。


第1部では、まず「いじめ」とはどういうものか、特に発達障害児にとっていじめにあたるのはどういう行為なのか、というところから始まります。


いじめの定義の中で、ASDの子どもにとっての独特な現れ方や影響に注意を向け、「感じ方・感情の違い」という基準を入れておくことが重要です。と、同時に、いじめの標的にされた個人が気分を害さなければならないという要件も現実的ではありません。この種の要件は、定義の抜け穴になり、うぶなASDの子どもを効果的ないじめ防止プログラムやその個別支援の努力から排除することになったり、とりこぼしてしまうことにもなりかねません。


ASDの子どもたちに日常的に支援を続けられているグレイ女史ならではのいじめの定義でしょう。確かに、いじめられているのに、それと気づかない子どもも、相手に悪意がないのにいじめられていると考えてしまう子ども・・・ともに、対応が必要になるものですね。 


そして第2部では、実際に行われているいじめに対する具体的解決策が示されているのですが、訳者の服巻先生が書かれているように、残念ながらこのままで日本の教育現場で実行するには、まだハードルが高いように思われます。


また、「いじめの報告」の習慣づけは、日本文化や日本の教育現場では、これまであまり成功してきませんでした。この点は大人側に責任があります。改めて誠実に取り組みなおし、大人側が子どもたちの信用を取り戻さなくてはならないことです。


確かに、「すぐに報告する習慣をつける」という解決策は、それを受け取る大人側に誠実な対策がないかぎり、日本では余計にいじめを陰湿にし、拡大させることにもつながりかねません。


「その子のためのいじめ対策チームを立ち上げる」と言われたとしても、それは個別教育支援計画の支援会議が開かれているアメリカのような所だからこそ、有効な対策となるのでしょう。日本では、まだ子どもとその家族が、必死で訴えても、ともすれば孤立無援状態に陥ることが多いように思います。


ましてや、学校をあげて「いじめ撲滅集会」を開いてくれるような学校があるとは、日本ではまず考えられません。

マスコミに取り上げられるような事件がおこって、初めてPTA集会や全校集会が開かれるという現状ではないでしょうか。そして、その事件とは、しばしば取り返しのつかない悲劇である場合が多いように思います・・・・


そうならない前に、本書のような書籍を多くの方に読んでいただいて、いじめへの対策をとっていただきたいと願っていますが、先に述べたように、本書では日本の現状・文化とのギャップが大きすぎるように思われます。


もちろん、そのまま日本でもすぐに取り入れられる「自尊心を育てる」「本音と建て前の両方を教える」などの項目も多いので、本書の第4部「日本での実践をすすめるために」をもっと膨らます感じで、「日本版 “いじめに立ち向かう”10の解決策」の執筆をぜひ服巻先生にお願いしたいと思います。


       (2009.6)

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目次


  著者まえがき 発達障害のひとたちの苦悩に学ぶいじめ対策 キャロル・グレイ


  編訳者まえがき 日本語版発行にあたって         服巻 智子


第1部 いじめとは何か - 定義と実際


  はじめに
  1 発達障害をもつ学齢期の子どもたち
  2 発達障害の子どもたちのことを考えたいじめの定義
  3 いじめの発生とその影響
  4 いじめっ子といじめられっ子
  5 いじめの基本的類型
  6 発達障害の子どもたちが狙われやすいいじめ
  7 いじめのバックドラフト
  8 いじめについての誤った通念と発達障害


第2部 “いじめに立ち向かう”10の解決策
       - いじめ防止プログラムの実際


  解決策 その1 いじめの地図を描く
  解決策 その2 「いじめは絶対いけない」と強く信じる子どもを増やすこと
  解決策 その3 その子のための「いじめ対策チーム」を立ち上げる
  解決策 その4 いじめを封じ込めるのではなく、とことん見つけ出すこと!
  解決策 その5 すぐに報告する習慣をつける
  解決策 その6 大人の姿勢の見直し
  解決策 その7 本音と建て前の両方を教える
            -「だれもが友だちというわけではない」それでOK!
  解決策 その8 いじめ防止プログラムの実際
  解決策 その9 自尊心を育てる
  解決策 その10 大人の責任といじめ防止の個別化
            - 10色のクレヨンのたとえ


第3部 いじめに立ち向かう
       - 保護者と専門家のために(ワークブックの使い方)


  1 いじめ対策チームがやるべきこと(ガイドライン)
  2 “いじめかもしれないこと”に対する誠実な対応の模索
  3 「いじめに立ち向かうワークブック」
       - 考え方とどうすべきかを学ぶ(ワークブックの使い方)


第4部 日本での実践をすすめるために  服巻 智子


  1 “いじめに立ち向かう”日本の実践例
  2 実践をすすめるために


 編訳者あとがき