北畠 道之:著 朝日新聞社 定価:1262円+税 (1993年6月)
私のお薦め度:★☆☆☆☆
さて、「自閉も不登校も自然に治る」と言われて、眉ツバものだとは思いつつも、出版社が朝日新聞社ということで、少しの期待は持ちつつ買った本です。
なにしろ、現代の医学では自閉症はまだ治す方法は残念ながら見つかっていないけれど、適切に関わることで改善はできる・・・そう信じて、朝日新聞厚生文化事業団主催の毎月のセミナーに、岡山から大阪まで妻は通っていた頃です。朝日新聞というだけで、信頼できそうな気がしました。
でも朝日新聞出版部と朝日新聞厚生文化事業団とは・・・、全く別モノだったのですね。
したがって読み終わった読後感は、・・・最初に感じた印象通りでした。
筆者が、自らアングラ研究と言われている通り、その手法は自閉症とかいうレッテル(?)を貼ることを拒否して、問題行動を“気”のマトリックスに分類し、その場所によってそれぞれの行動をつぶしていくという手法です。
そこでは、自閉症や登校拒否など、障害や状態をあえて無視するというか・・重要視しないで、あくまで表面に表れた行動として観察するため、“自閉症”と言わずに“自閉”、“登校拒否”と言わずに“不登校”という言葉を使っているそうです。
それは、TEACCHなどが、まず自閉症の特性を理解してから、その行動の背景にあるものを知り、それに働きかけていこうという立場とは正反対の視点ですね。氷山モデルを例にあげると、水面下にあるものは無視して、表面にある問題行動だけに着目して、それを削っていこうとする方法です。
そしてその実際の治療法は、“気合を入れる”“ホールディング”などと筆者は呼んでいますが、いわゆる抱っこ法と同じ流れのようです。
これを「抱っこ法」と訳したのは、知り合いの通園施設長(当時)阿部秀雄さんで、親しまれるためにはいいネーミングだったが、厳密にいえば「優しく抱っこ」の受容面に偏り、「しっかり押さえる」規制面のニュアンスがたりない。
それで学会発表でも物言いがついたので、私は近ごろ「抱きとめ法」とよぶことにしている。
「抱っこ法」でも「抱きとめ法」でもかまいませんが、要は自閉症の特性に配慮しないで、郵便物の仕分けのように「間ぬけ」「照れ屋」「煮え切らない」「ひょうきん」「もの静か」などに分類された箱に入れられた問題行動を、その箱ごとにねらいを変えてホールディングしていくやり方です。
それをやってみようかどうかを決められるのは、それぞれのご家族でしょうが、私はお勧めしようとは思いません。
また、あとがきにも、筆者が書かれているように、「問題行動研究協会」として、北海道の「太陽の園」で、20年間活動されていたそうですが、今は太陽の園は別の方針のもとで療育をされるようになったので、東北地方をマイカーで巡回されているそうです。
長年携わった地元でも、継承されなかったということは、やはりこのようなやり方には問題点があったのではないかと・・・推察します。
(2000年2月)
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目次
第1章 心のパズルが解けた - 自閉も不登校もこわくない
どうしてこわくなくなったか
困った子は面白い感心な子
「発達法」ではレッテルをはらない
関わり分析のすすめ
第2章 どこから手をつけたか
カギは目の前にある - 現状分析
“恐怖”の人生双六
“自閉”の独楽
ルーズな対応が命中の始まり
なぜそんなに待たせるの
第3章 どうねらいを定めたか
心を打った感激の一瞬
二十年の悩みが一週間で消えた
第一の山 - 整理整頓のツボ
第二の山 - 叱らずゆるさず
第三の山 - お手玉算数
第4章 気合をどう入れたか
ホールディングのうまみ
暴れ峠 - 心の錆つきを吹っきる
涙壷 - 執着の氷が溶けてゆく
おこもり岩 - 魂の底が割れる
絵心と歌心
第5章 自閉の治癒を助ける
アンテナ・クリニックをつくる
多動自閉からどうやってぬけ出したか
自閉症になる場合・治る場合
子育て才能がなくてもなんとかなる話
“ジャングルのけもの”ではなかった話
第6章 不登校の治癒を助ける
なぜ学校へ行けないの
登校拒否の治し方
学校恐怖の治し方
学校嫌いの治し方
逃げるのが第一歩
第7章 心の技術学 - 関わりとは何か
心に橋をかける - 関わりの力
人にではなくロボットに育てている
育児近代化のチャチな目標
“育つ”自然感覚を“育てる”自然才能
第8章 気の技術学 - 気合のからくり
母と子がたがいに育て合う九歩のステップ
クルクル・ユラユラで意欲を高める
古くても新しくてもよいものはよい
涙壷の深みから意欲を引き出す
ウォッチングで知のジレンマを解く
ウォッチング・イン・ホールディング・アウト
足や手によって体感に目ざめる
第9章 情報医学への道 - 現代病のヘソ
“玉手箱”の哲学 - 時間空間モデル
“発想”の規則と“管理”の規則 - 和魂洋才モデル
“しあわせ回路”は生涯現役 - 脳のモデル
第10章 泥んこ保育の健気な戦い
みちのくの春浅く
子どもたちに救われた
ハメコミ保育はもうたくさん
問題を治して人を活かす
第11章 レッテルをはらずに行動障害を消す
“不自然さ”を早期発見して障害の発症を予防する「伊達方式」
引っかかる兆しのフローチャート - 二歳児予防検診の進め方
第12章 心と気を助ける会
「要するに具体的な穴埋めですよ」
「おつりのくる関係ですね」
〔付図〕
【問題行動分類解読表】
【問題行動分類解読図】
【心の関わり点マトリクス(分かれ目版)】
【気と心のマトリクス(三四はめこみ)】
【気と心のマトリクス(気質タイプ配列)】
【算数基本感覚安定格子】
【母子相互作用・自己成立系関門表】
【気のマトリクス ①知性回転の枠組】
【気のマトリクス ②情動機転の枠組】
【気のマトリクス ③体感成熟の枠組】
【子心のタイプ分類表】
【親心のタイプ分類表】
【症状発展六段尺度】
【強度行動障害発生率の減少】
【心の二歳児検診・共通方式表 ①第一反抗期の評価・処理・安定システム】
【心の二歳児検診・共通方式表 ②引っかかる兆しのフローチャート】
【関わり分析についての児童相談所への回答書】
【治療法実況図】 足引き ホールディング クルクル・ユラユラ イナイイナイバー
あとがき