別府 哲:著 全障研出版部 定価:1400円+税 (1997年8月)
私のお薦め度:★★☆☆☆
障害をもつ子ももたない子も、その内面世界には自分の世界を広げたい、もっと伸びたいという思いを等しくもっていて、その発達を保障していかなければならない、という発達保障の考えから書かれた本です。
全国障害者問題研究会(全障研)の機関紙「みんなのねがい」に掲載された筆者の寄稿を元にしています。
事例としてとりあげているのは、脳性マヒや筋ジストロフィーの患者の子どもたちも登場しますが、主には自閉症児たちとのかかわりです。
それは、まずは「心の支えとなる人」をつくり、子どもを受けとめ、「まわりの世界へかかわりたい」という気持ちを大切にしていこうという関わり方です。
確かに、優しい思いで、旧来からの障害児教育の理想にそった考え方だとは思いますが、そのような共感をベースにしたやり方は、自閉症児にとってはそれだけでいいのでしょうか。
もちろん、最初に信頼関係を作ることは大切です。でもそこから先は、自閉症の特性に配慮した教育が必要なのではないか、と私は感じています。
「みんなのねがい」という言葉の中には、子どもたちは「みんな同じねがいを持っている」もっと言えば「同じ価値観を持っている」という、大人側の思い・価値観が入っているように読み取れました。
本当にそうなのでしょうか。
彼らを見ていると、彼らなりの価値観・文化そして感じ方があるように思えてしまいます。彼らは一人でいるより、みんなと一緒に、みんなと同じように関わっていることが本当に幸せなのでしょうか。
息子を例にとると、もちろん私たち家族といる時にも楽しんでいるようですが、一人でパソコンをしたり、DVDをしている時もリラックスして心地よさそうです。
「友だち」と呼べる相手はいなくても、一人で楽しめることはいっぱいあります。
また、これまでの教育でも「心の支えになる人」がそばにいるよりは、まわりでおこっていることを分かるように示してくれる「物」があった方が、安心して取り組めたように思います。
本書の冒頭で「自閉症児も相手の思いを敏感に感じとっている」と書かれていますが、親の私から見ると、「そう見えるだけ」で、ことばの理解ができないために、相手の表情や声の大きさ、イントネーションなどから、なんとか自分がどうすればいいかを読み取ろうとしている、幼い頃の健気な姿を感じてしまいます。
「相手が何を考えているか、何を思っているのか」というのが、なかなか分からないのが、自閉症の社会性の障害ではないでしょうか。
大阪で行われている就学前の通園施設パピースクールでの実践を紹介している文があります。
「私たちがつかんできたことは、障害や発達にかかわったさまざまな特別の配慮は必要ですが、障害児のための保育という特別な保育はないのではないか、という平凡なことでした。」
筆者の別府氏がこの中で強調したいとしているのは 「障害児のための保育という特別な保育はないのではないか」 という箇所ですが、私の強調したいのはその前の 「さまざまな特別の配慮は必要ですが」 という箇所です。そしてそれは、個々の価値観・文化まで配慮していただきたいということです。
「障害児の内面世界をさぐる」私たちと同じ価値観をもってさぐるのは、できれば脳性マヒや筋ジストロフィーの患者の子どもたちだけにとどめておいていただきたいな、というのが読み終わっての印象でした。
(2009.5)
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目次
はじめに
第1章 自閉症児との出会い
第2章 心の支えとなる人をつくる
◆「心の支えとなる人」
◆ 心の支えとなる人をつくるために大切にしたいこと
第3章 「問題」行動を考える
◆ 自傷行為のはげしいヒロ君
◆「わざと悪いことをする」
◆ それまで「できていた」ことが「できなくなる」
第4章 子どもを受けとめるということ
第5章 自我の育ちを課題とする子どもたち
第6章 「まわりの世界へかかわりたい」意欲を抑えこむもの
第7章 生活・文化をつくる
第8章 かけがえのない自分をつくる
第9章 きょうだい・親の思い
おわりに
解 説
● 障害児の保育・療育の場
● 障害児と学校教育
● 発達年齢と生活年齢
● 成人障害者と共同作業所
● 全国障害者問題研究会
手 記
● 風になりたい ・・・・・・・・・ 水上 睦美
● 私の心の鏡 ・・・・・・・・・・ 近藤 みどり
● きょうだい三人三様の個性で ・・ 前川 久美子
● 働くなかで育つ ・・・・・・・・ 野々村 照美