自閉症の理解のために ~小児精神科医の臨床と研究から~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

安藤 春彦:著 メディカ出版 定価:2136円 + 税 (1995年1月)


    私のお薦め度:★★☆☆☆


愛知県心身障害者コロニーの中央病院で副院長を勤められている安藤春彦先生の著書です。

雰囲気的には保護者や一般の方を対象に、臨床医の先生が勉強会でやさしく話してくれているという感じです。


また医療的な内容、「自閉症の診断」等の章は、ちょうど本書の半年ほど後に出版された同氏の『自閉症の診療』のエッセンスを抜き出したようで、その意味で読みやすくなっています。

特にこの章の中にある「子どもが自閉症だと医師が親に告げる時の注意事項」などは、これから自閉症の診断・告知に関わる全ての医師の方に読んでいただいきたいような一節です。


ただ、その後の第5章、「自閉症の精神病理論争」の章まで進むと、筆者が「論争」として挑んでいるように立場はいろいろ違っています。


ここで、筆者たちは従来の追跡調査とは異なり、各年代ごとの自閉症児の状態を横断的に比較して「年齢が上がるに伴って、自閉症児の言語機能は発達するが、孤立は改善しない」と主張し、ラター氏の「認知障害が一次障害であって、二次的に孤立や他の行動異常が引き起こされる」に反論しています。


年齢が上昇しても最も改善発達してきにくいことから、自閉症の基本障害は、孤立である。しかし、孤立がもとになって言語障害を起こしてくることはない。逆に、言語障害が原因となって孤立や強迫的こだわり行動を引き起こしてくることもない。


すなわち、自閉症の診断基準である孤立、言語障害、強迫的こだわり行動の三者のあいだには、症状形成上の因果関係はなく、これらは自閉症において並列的に存在しているにすぎない。


そして、この論文を批判したメジボフらに本書の中でも改めて反論を試みられています。


どちらが正しいのか・・・などは、素人の親にとっては判断できませんね。

ただ親としてみれば横断的調査というのはあまり意味のないように思います。親にとっては子どもの発達はあくまで個人的なもの、連続性のものであって、今の息子と、息子より10歳年上の他の自閉症児の平均を比較されても・・・それが、なにか?という感じです。


まして、自閉症児の療育については、その年代によりどんどんと大きく変わっているのが実状でしょう。

息子より10年上の世代には遊戯療法のみで育てられた方も多いと思います。(もちろんいまでも、本書の筆者や石井哲夫氏のように、その遊戯療法・受容療法の流れを引き継いで認めておられる研究者の方もいらっしゃいますが・・・)

素人考えですが、その育てられた時代の環境を考慮しないで、現在の時点での横断的比較を行なうことには意味があまりないようにも思えます。

願わくは、追跡調査も含めての総合的な研究成果の発表を期待したいと思います。


         (2003.12)


-------------------------------------------------

自閉症の理解のために
¥2,310
Amazon.co.jp

------------------------------------------------


目次


はじめに


第1章 自閉症発見のいきさつ


  ミシシッピー州から来た男の子
  自閉症の最初の報告者、カナー
  カナーは最初、自閉症をどうみていたか
  カナーの自閉症診断基準
  カナーの卓見
  カナーの挙げた特徴のうち、今日あてはまらない事項
  自閉症の不思議さ


第2章 自閉症の子どもたち


  さまざまな自閉症児の実例
  自閉症でない、他の発達障害の実例
  家族による気づかれ方
  障害児をみる母親の目
  自閉症に対する親の気持ちの時代による推移
  自閉症児にみられがちな特異な能力をどう考えるか
  親はどう行動を起こすか


第3章 自閉症の診断


  親もすでに自閉症と知っている
  三つの基本症状
  専門医は、どこを診て自閉症と診断するのか
  子どもが自閉症だと医師が親に告げる時の注意事項
  医療職員の役割と親の役割
  自閉症と自閉的傾向はどこが違うか
  心理判定員の自閉症診断の精度
  小児精神科医に専門性はあるか


第4章 自閉症の本態


  圧倒的に男子に多い
  自閉症児はだんだん増えている
  昔も自閉症児はいたか
  自閉症児出産の母親の年齢
  出生順位と次の子との年齢差
  育て方と自閉症
  自閉症の症状は、軽くなってきている
  身体発達マイルストーン
  自閉症児の言語発達障害の実態
  てんかん発作の併発
  原因は何か


第5章 自閉症の精神病理論争


  カナー説
  ラター説
  追跡調査と横断的調査
  自閉症児の言語機能と症状の関係のクロスマッチ検定
  言語障害原因説をめぐる疑問と日本国内の治療教育の現状
  精神病理と治療の関係


第6章 自閉症の予後とその要因


  自閉症児はどうなっていくか
  自閉症児の学業成績はどうなっていくか
  自閉症児を抱えた親の苦悩
  医療は自閉症児のために何ができるのか
  しつけや教育の効果
  自閉症児のための福祉制度
  社会的処遇のあり方
  家族と社会


第7章 自閉症児の治療・看護と教育


  自閉症児がなぜ心身障害のなかで最大の課題なのか
  日本での精神発達障害児の医療と教育の歴史
  自閉症児教育の夜明け
  自閉症児の治療や教育が困難な理由
  教育と医療の協力関係をどうつくるか
  自閉症児と地域医療
  治療教育の基本線と具体的方法
  コロニーからみた障害児問題
  自閉症児の看護
  遊戯療法は無効か
  短期入院治療システム
  行動療法とは
  行動療法をめぐる疑問と誤解
  行動療法の効果と限界
  薬物療法
  年長自閉症児の自傷・他害 の薬物療法の実例
  薬物療法に伴うことがある危険
  特効薬か、テトラハイドロバイオプテリン


引用・参考文献