副島 洋明:著 明石書店 定価:2000円 + 税 (2000年11月)
私のお薦め度:★★★★☆
知的障害者の人権擁護のために闘い続けておられる社会派弁護士、副島洋明氏が関わってこられたこれまでの裁判の結果および経過報告です。その思いは「記憶を歴史に」、その一つ一つに事件を個人的な資質、状況とするのではなく、そこにある普遍的な障害者問題として捉え、人権を擁護するための社会的な動きを作り出したいと願っておられます。
もちろん、弁護士と言う職務から、それは目の前の依頼者をいかに救うかという行為に全力を尽くされるわけですが、それだけに終わらせてはならないという姿勢から、広く世の中に訴えるために書かれたおが本書です。
すでに、マスコミ等で報道されている事件も多く、事件の名前だけは知っている方もいらっしゃると思います。私もいくつかの事件は新聞等で関心をもって見聞きしてきました。水戸アカス事件、白河育成園事件、愛成学園事件・・・
しかし、あらためてこの本を読んで、その数々の事件の背後にあった真実や、その事件の本当の悲惨さを知り愕然としました。
息子の障害がわかってから、知り合う人はみんないい人ばかりで、その優しさに触れ、「人間ってまだまだ捨てたもんじゃない」と人を信じる思いになっています。しかし、この本、裁判ということになると、対峙する相手はまぎれもない障害者にとっての抗争者ということになります。
まして副島弁護士のもとに持ちこまれる事件だけあって、その依頼内容は厳しいものばかりです。
また、裁判という性質から、障害者の勝利に終わる事件ばかりではありません。読んでいて「なんで!!」と怒りに震える事件もありました。
一方で考えさせられたのは、知的障害者が被害者となる虐待事件ばかりでなく、被疑者となってしまう場合の恐ろしさでした。
見込捜査や先入観から拘留されてしまった場合・・・いかつい刑事から威圧的な取り調べを受けた時には・・・その時の息子の様子を想像すると、無実であっても、とてもそれを最後まで貫き通せるとは思えません。
「自分がやったといえば、家に帰してあげるよ」 あっさり「ハイ」と言っちゃうでしょうね。本当に怖くなります。
それを防ぐには、副島先生が提案しているように、取り調べに立会い人をつける、あるいはビデオで録画することを求める。コミュニケーションに障害を持つ人のためには、コミュニケーション支援者を「通訳」として取調べを行う、というこしかないのでしょうか。
副島先生の目指す「人権センター」が早く現実のものとなるよう、みんなで協力していきたいと思っています。
副島弁護士、家族としての経験主義にはおちいりたくない・・・と、あまり表には出されていませんが、実は家族に知的障害の妹さんを持たれています。それだけ、障害者の人権が侵される事件に関しては、親身になって、心からの怒りをもって立ち向かっておられるのでしょう。
そんな副島弁護士の切なる思いがこもった本です。
厳しい事件の描写が続きますが、これも我が子達がくらしていく社会の裏にひそむ一面として・・親だけは子どもを守るために知っておくべき(子どもたちには、一生知らないですませるためにも)現実ではないでしょうか。
そんな、ちょっぴり複雑な思いですが・・お薦めの一冊に加えておきます。
(2003.1)
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- 弁護士―人間の尊厳と自立を守る (仕事 発見シリーズ)/副島 洋明
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目次
はじめに ― 知的障害者の人権状況
Ⅰ 水戸アカス事件
1.私にとってどういう事件か
1 苦い思いと謝罪
2 私と水戸アカス事件とのかかわり
2.水戸事件、その虐待事件の内容(刑事告訴した被害者調書から)
― 被害者たちの声を私たちはどう受け止めるのか ―
1 虐待のみせしめ ― A少年の被害
2 おびえ、泣きつづける虐待の被害者 ― Bさん(女性)の証言
3 性虐待と障害者 ― 水戸・障害者虐待事件の悲惨さ
4 虐待を訴えることのできなかった母親たちの証言
3.事件の発覚と私たちの活動
1 ひとりの母親の告発からはじまった
2 私たち弁護団の活動
4.事件の構造と責任
― このような障害者虐待事件はどうしてつくられたか、どこに責任があるか ―
5.水戸事件の挫折と教訓
― 私たちに残された課題 ―
6.最後に ― 私たちは事実をどう解明し、認識するのか
Ⅱ 白川育成園事件
1.私にとって白河育成園事件とは
― 自分の非力と限界、そして成果と感動 ―
2.白河育成園事件
1 虐待 その1 ― 薬づけ
2 虐待 その2 ― 親からの多額な寄付金強要
3 虐待 その3 ― 暴力・性的虐待
3.事件の背景と事件の発覚
1 事件の背景 ― 白河育成園の沿革
2 事件の発覚 ― 一部の職員の自己批判(内部告発)からはじまった
3 行政による “虐待”の確認
― 福島県の平成9年7月23日付 改善指導報告書 ―
4.私たちの活動と白河育成園事件の成果
1 私たち(弁護団と支援者)の活動
2 刑事告訴、そして人権擁護局の判断
3 白河育成園事件と当事者たち ― 白河育成園事件の成果
4 そして「その後」
5.最後に ― 白河育成園事件と施設虐待
Ⅲ 愛成学園事件
1.私にとってどういう事件か
2.事件の構造 ― 愛成学園事件とは何か
1 どのような事件がおこったか
2 事件の展開
3 Aの暴力正当化論
3.私たちの活動 ― 施設改革に向けた取り組み
1 愛成学園の歴史
2 裁判と施設改革、その“本質”をめぐって
3 内との闘い ― 施設改革は私たち自身の自己批判から
4 外での闘い ― 暴力を一掃する施設改革の運動
4.決着 ― 未完への思い
1 裁判 ― 和解による解決
2 施設改革 ― 未完の課題に向けて
3 〈 資料 〉 利用者の人権を守る誓約書:モデル
Ⅳ 国分寺事件
― 知的障害者と刑事裁判 ―
1.私にとってどういう事件であったか
2.国分寺事件とはどのような事件か
1 事件のはじまり ― 見込捜査
2 事件の展開 ― 自白と見込捜査の失敗
3 知的障害者の自白はどのようにしてつくられるか
3.知的障害者の裁判と弁護
1 裁判の争点
2 自白の任意性・信用性について ― 虚偽自白について
3 争点をめぐる裁判の結果
4.最後に ― 知的障害者と犯罪者像
Ⅴ 静岡・金谷町事件
― 捜査・被疑者段階での弁護と支援を考える ―
1.私の「はじまり」 ―「悪い当事者」をどう守るか
2.静岡・金谷町事件を取り組む
1 小さな事件報道・重大な事件
2 事件の背景 ― 事件は何故おこったか
3 事件(トンネル工事)はKさんから何を奪ったか
3.Kさんの支援および弁護、その実践的課題
1 静岡・金谷町事件 Kさんを守る会
2 コミュニケーション支援の要請書
3 知的障害者の自白の構造
4 起訴状の内容
Ⅵ 知的障害者の人権擁護に向けて
― 人権センターは可能か ―
1.甲山事件から学ぶこと
― 虚像の「知的障害者」を裁く ―
2.記憶を歴史に ― 障害者殺し
3.知的障害者「人権センター」の構想
1 知的障害者の人権擁護
2 知的障害者虐待事件を通して
3 知的障害者の刑事弁護を通して
4 知的障害者の「司法へのアクセス」
5 新しい権利擁護のあり方をつくる
あとがき ― あらためて事件をふりかえって