スティーブン・ショア:著 森 由美子:訳 学研 定価:2500円+税 (2004年10月)
私のお薦め度:★★★★☆
現在、ニューイングランド・アスペルガー協会理事長やアメリカ合衆国アスペルガー症候群連合の理事を務められるスティーブン・ショア氏は、自ら自閉症スペクトラム障害をもつ本人です。1961年生まれといいますから、まだ自閉症自体が誤解と困惑の中にあった頃に育っていたわけです。
1960年代前~中期に、私は自閉症スペクトラム障害と診断され、、施設に入るよう勧められた。
当時自閉症は、下手な子育て、特に母親の子育ての仕方によって引きおこされる稀有の精神的障害と見なされていた。
幸いなことに、両親は、私を施設に追いやってしまうと私の可能性を無駄にしてしまうことがわかっていたため、話し合いを重ね、ついには私の診断を下した医者たちとその他のメンバーを説きふせて、彼らが所属している私立の学校に一年後に私を入学させてもらう約束をした。
入学を待っている間、両親は、音楽、運動、知覚統合、語りかけ、模倣に焦点を当てた、今で言う自宅での初期教育を私に施してくれた。
今日あるような、自閉症スペクトラムの子どものためのメソッドなどの支えもなしにやっていたことを考えると、これはユニークなことである。
そのすばらしい両親の支援に救われて著者は高校・大学へと進み、やがて結婚して大学に一時は職を得、現在はボストン大学で特殊教育の博士論文に取り組んでいるそうです。
もちろん、社会性に障害をもつ自閉症スペクトラムを持って生きる人生ですから、順風満帆というわけではなく、いろいろな困難にぶつかりながら “学習”しながらの人生です。
氏はそれを図形に例えて表現しています。
多くの人々は観察によって社会の規則を学ぶのに対して、自閉症スペクトラムの人はたいていそれを経験によって身につける必要がある。
マッキントッシュのコンピュータ上で擬似ウィンドウズを使用するようすに似ている。普通は大変うまく動くのに、スピード、なめらかさ、その他の小さな違いといったところで動きに支障がでる。
自閉症スペクトラムでない人の社会的関わりにおける能力を、円の形で表すならば、自閉症スペクトラムの人の社交能力は、四角形から始まると言えそうだ。
氏の説明によると・・・やがて、適切な教育を受けるにことにより、その最初の四角形にニョキッと新たな辺が加って六角形になり八角形になり、さらに適切な教育を施されれば各辺にニョキニョキッと辺が加わり、加えて社交的能力が向上するにしたがって辺の数は増えつづけ、ギザギザの円形に近づいていきます。
しかしながら・・・
多角形が本物の円ともうほとんど見分けがつかないほどになったとしても、完璧な曲線の形になることは絶対にない。つまり自閉症スペクトラムの人は、社会的な関わり方を、観察を通してではなく経験を通して覚えるのである。
直感的に社交的能力を得る状況に近づくことは可能だが、車輪が多角形の場合に、完全な円形の車輪に比べて荒っぽい運転になってしまうのと同様に、ある部分ではまだ荒っぽさが残っていることがある。
まさに当事者の経験からでてきた例えだと思います。
こうして、多角形の車輪のついた車をガタガタと運転しながらも、経験を重ねて筆者は結婚生活、社会生活を送られています。それには、先に触れられているように、両親によって適切な教育、早期療育が効果があったことも間違いないでしょう。
当時に、勧められたように、もし家庭から隔離されて施設に入所していたとしたら、ここまでの充実した人生を送れていたかどうかは疑問だと思います。
今、筆者が自閉症スペクトラムの子どもたちと関わり、その可能性を生かすための教育の分野に取り組んでいるのは自らの体験によるところが大きいのでしょう。
また一冊、自閉症スペクトラムの世界を理解するために、当事者が自らの体験を語ってくれる本が世にでたことを嬉しく思います。
(2004.11)
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目次
「日本のみなさまへ」 ・・・・・・・・・ スティーブン・ショア
巻頭の辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ テンプル・グランディン
序文
謝辞
城
第1章 私の生活のひとコマ
第2章 私が幼少のころ
第3章 自閉症の溝に沈んでいたころ
● 私の幼少時に関する母の回顧録
第4章 パットナム時代
● クラスのようす
第5章 幼稚園
● 敏感な知覚への適応
● 外部の知覚
● 内部の知覚
第6章 驚異と恐怖でいっぱいの学校生活
第7章 中学校
● 自閉症の子どもにとっての音楽
音楽はコミュニケーションを向上させる
自閉症スペクトラムの人々にとっての音楽
グループにおける音楽
楽器とアンサンブル
科学的根拠からみた、音楽がもたらす恩恵
高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもと親との関係についての考察
第8章 恐怖よりも驚異でいっぱいの高校時代
第9章 とうとう巡り会えた楽園
【 大学時代 】
● デート
● 初めての試み
● 何がおきているのか、あまりに鈍感だった私
● 初めての真のガールフレンド
● 大学から次のステップに進む恐怖
● 三番目の出会い
● 将来の妻となる女性との出会い
● 夫について
● 映画とテレビ
第10章 仕事の世界
【 より順応していた私からそうでない私へ 】
● どこが私にあうのか?
● 感情的な余波
● 感情と向きあうこと
● 口に出した言葉の威力
第11章 再び学校へ
【 修士号と博士号の取得に向けて 】
● 三つの自己形態
第12章 再び城へ
● テンプル・グランディンとの再会
● 私のような人のためのコンピュータ空間
● LCDC(言語・認知発達センター)のこと
● アーノルド・ミラー博士との出会い
第13章 壁への挑戦
● 現在、自閉症はどのように分類されているか
● その他の障害と比べて、自閉症とは
● 自閉症スペクトラム
● 自閉症スペクトラムを通して得た私の経験を当てはめて考えると・・・
● 社会的関わりについての直感的理解に近づいていくこと
● 壁を乗りこえる
第14章 離陸準備完了
● 卒業
● 発表
● 擁護
● 生活における擁護を訓練しつつ、教育における擁護をすること
● 政治的な関わり
● 必要なのは施しではなく、手を差しのべること
● 次は何ができるのか?
● 自閉症スペクトラム共同体へのチャレンジ
第15章 最後に
【私の責任の重さ 】
付録 (1) ダニエル・ローゼン博士とのインタビューより
付録 (2) 大学入試にむけて
● 自分にあう大学を見つける
● 大学内における自己開示、便宜、そして支援
● 支援ネットワークの確立
● 就職に向けての調査と計画は早めに
参考文献
訳者あとがき
協力者リスト・訳者プロフィール