自閉症児と絵カードでコミュニケーション | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

アンディ・ボンディ/ロリ・フロスト:著 園山 繁樹/竹内 康二:訳
二瓶社 定価:2000円+税 (2006年7月)


    私のお薦め度:★★★☆☆


最近、よく目や耳にする言葉にPECSという言葉があります。
the Picture Exchange Communication System の略で、日本語にすると「絵カード交換式コミュニケーションシステム」ということです。つまり絵カードを使ったコミュニケーションです。


「絵カード」というと、私達はすぐにTEACCHの手法を頭に浮かべると思いますが、確かに両者に共通する部分も多いです。

それには、このシステムの開発者であるアンディ・ボンディ氏がノースカロライナ大学出身で、TEACCHについても詳しかったこともあるでしょうし、同時にTEACCHにおいても氏の開発したこのPECSの手法に影響を受けたためもあるのでしょう。
これまでもTEACCHに対して、「TEACCHって絵カードを使うアレでしょう」とか、「カードを使って人を動かすやり方でしょう」などといわれることがありますが、その指摘はむしろこのPECSへ向けての言葉だったのかもしれませんね。


確かにこのPECSは、ABA(応用行動分析)の考えをもとにして、絵カードを使ってコミュニケーションをとるということを目的としたシステムです。


そのスタートに必要なのは、その子に好きなものがあり、それに手を伸ばそうとすること、それだけです。たとえまだ弁別とかもできなくても、もしその子に一つでも好きなものがあれば、それを強化子として用意し、絵カードを取ればそれがもらえるということを教えていけることになります。


子どもにとって魅力的な物を見つけることができたら、すぐにPECSのトレーニングを始めることができます。欲しい物の絵カードを取って、実物と交換することを教えるのです。まず最初に、PECSを教える準備として、子どもが物品を確実に欲しがるようにしなければなりません。その可能性を高めるために、一定期間子どもの好きな物品を与えないようにしてください。そうすれば、その物品を子どもに見せたとき、手に入れたいと強く動機づけられるでしょう。


コミュニケーションを引き出すことを第一に考えた、まさに行動変容のためのやり方ですね。本人の中にある生活スキル全体を考え、その生活の質を高めるための一つの手段として、絵カードも有効であれば使っていくというTEACCHとの違いがわかっていただけたでしょうか。それはどちらが正しいというのではなく、やり方が違っているというということでしょう。


本書では、そのPECSのやり方について詳しく説明されています。その学習ステップも6つに分けて、各段階の目標ややり方を具体的に述べていますので、これからPECSに取り組んでみようとする方には絶好の参考書となると思います。
そこで重要なのが、先にも述べた強化子の選択です。ステップがすすむにつれて、絵カードでのコミュニケーションにも属性の「大きい」とか「赤い」「冷たい」などが入ったり、文を構成(「私が欲しいのは~」とか「私が見たのは~」というように)したりと、次第に高度になってきます。


たとえば、自分の生徒は「大きい」と「小さい」を学習できないと確信している数多くの教師に、私は会ったことがあります。こうした教師たちは、さまざまな大きさの丸や四角を使って「大きいのをさわって」とか「小さいのをさわって」というたくさんの練習を、何時間も無益にやってきたのです。
しかし、同じ生徒に対して、もし一方の手にクッキー1枚を持ち、もう一方の手にクッキーの小さなかけらを持って示せば、生徒は確実に大きなクッキーの方を選び、でたらめに反応することはなかったのです(クッキーが好きであれば!)


したがって、「大きい」を示すシンボルを作り、それにクッキーを組み合わせれば、大きなクッキーを手にいれられるわけです。このようにして、絵カードを使ってコミュニケーションをとっていくのがPECSの目的であり到達点であるといえるでしょう。
確かにその方法は有効であり、子ども達の助けになると思いますが、それだけで終わってもいいのか・・・、強化子を介在したコミュニケーションが行なえるようになったことでよしとすべきなのか・・・、はまた別の場での論議になると思います。


とりあえず、PECSというものを理解して、実践に取り入れてみようという人には、とても役立つ一冊といえるでしょう。


       (「育てる会会報 105号 」2007.1)


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自閉症児と絵カードでコミュニケーション―PECSとAAC/アンディ ボンディ
¥2,100
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目次


謝辞



第1章 コミュニケーションとは何か?


第2章 コミュニケーションというコインのもう一つの面:理解


第3章 話すことができないのか?
       コミュニケーションができないのか?


第4章 なぜ彼女はそうしたのか?
       行動とコミュニケーションの関係


第5章 拡大・代替コミュニケーションシステム


第6章 絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS):
       最初のトレーニング


第7章 PECSの上級レッスン


第8章 理解を促すための視覚的方略の活用


用語解説
訳者あとがき
訳者紹介