【鍵・第1話】真夜中の電話 | TimeShare~タイムシェア【恋愛小説集】

【鍵・第1話】真夜中の電話

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ドアの向こうで鳴り出した電話の音で千景は目を覚ました。時計を見ると午前2時を指している。


「誰よ、まったく…。」


こんな時間にかかってくるなんて尋常じゃない。
しかし、千景は昼間の疲れからか体が重くてとてもベッドから出る気にはなれなかった。
きっとお母さんが出てくれるだろう、そう思い直して、まどろみに奪われていく意識の向こうで鳴りつづける電話の音を聞いていた。



11…、12…、13…、14…、15回目で電話はぷつりと切れた。
ホッとして布団に潜り込んだのも束の間、すぐにまた電話はけたたましく鳴り出した。
仕方ないか──深い溜息をついて、ベッドから出ようとした時、ガチャリとドアが開く音がして、母親が電話に答える声が聞こえた。



「はい…はい。…。」



母の声はそこで止まり、無言のまま電話の相手に応対している様子だった。
いや、正確にいえば、彼女はその時言葉を失っていたのかもしれない。



「わかりました…。なるべく早く伺います。ご迷惑をおかけしました。」



そう言って電話を切った母が、千景の部屋のドアを力なくノックした。



「千景、起きてる?」



母親はそう言いながら、ドアをそっと開けて、ベッドの上で起き上がっている千景を暗闇から伺っていた。



「今、警察から電話でね。お父さん、葉山で亡くなったって。自殺だろう、って。」



「えっ?」



千景は母親が言った言葉をもう一度頭の中で反芻した。
お父さんが…死んだ? 自殺?



「明日の朝一番で車を呼ぶから。千景もそのつもりで用意しておきなさい。」



母親の淡々とした態度が、なおいっそう、父の死を現実味のないものに感じさせた。
千景は部屋を出ていく母の背中を見送った後、布団に潜り込んでぎゅっと目を閉じた。
このまま眠ってしまおう。きっとこれは夢だ。悪い夢なんだ。
千景は眠りに身を預けようと試みたものの、結局朝までとろとろとまどろんだまま、ついに眠りに落ちることはなかった。



【第2話】へつづく→




【第4話】へつづく→




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