いつもお世話になっている『リク魔人の妄想宝物庫 』さんからお預かりした罠です。
1.5周年のお祝いと、頂いていたリクエストが上手くこなせないお詫びを兼ねてのドボンです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の撮影は、順調とは言えないものの…。
何とか昼過ぎには上がることが出来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ様、完成、楽しみにしててね」
監督のその言葉に、蓮は力強く頷いた。
(初日は凹んだけど、今日はいい日だったな)
蓮は鼻歌でも歌いだしそうなほど、上機嫌だった。
助手席に納まるキョーコは、地の底にめり込みそうなほど憔悴していたのだけれど…。
「どこか寄り道していこうか?」
蓮とキョーコはこの後何の予定も入っていない。
天気もいいし、のんびりとした時間を過ごすにはうってつけだ。
上機嫌で話す蓮に、キョーコはシートベルトを握りしめたまま、首を振った。
「小さな打ち上げでもする?」
とりあえず向かうのは、海だ。
波打ち際で遊ぶのもいいし、新鮮な海産物を仕入れて料理してもらうのもいい。
「あ、あんなにご迷惑をおかけしたのに…」
益々小さくなるキョーコ。
その小さな頭を、ハンドルから離した手で『ぽんぽん』っと撫でる。
いつぞやの時のように…。
「それも楽しかったからいいよ」
これは事実だ。
凹みはしたけれど、何度も抱き着かれたり…。
頬に掛かる吐息とか、腕にかかる体重とか。
何気なく押し付けられた、膨らみとか。
兄妹として生活していた時より、密着することが出来た二日間。
(トータルすると、プラスだよね)
真面目な顔をして、キョーコを慰めながらそんな事を考える。
世間でいくら騒がれていても、恋しい少女の前ではただの男だ。
「魚でも買って、一緒に食べようか?」
少し走らせた先に、海産物を売っている店があるらしい。
寂れ始めた道沿いに、道案内を兼ねたのぼりがはためいていた。
それにつられて、蓮の車も動いたのだった。
その日の事を思い出す度、蓮は素晴らしくいい日だったと思うのだ。
『二人だけの打ち上げ』は、海産物を買いに行ったその店でやっていた、炉端焼きに落ち着いた。
少しずつ解れてゆくキョーコ。
その様子を見ていくのも楽しかったし、めっためたにされた傷が簡単に癒えていく。
「やっぱり、最上さんと一緒にいると楽しいな」
心からの言葉に、キョーコも満更ではなさそうに笑ってくれたのだった。
CM公開の前日。
またワイドショーでは、メイキング映像が流れた。
少し興奮したような、女子アナの様子に同局のアナウンサーは失笑を隠せない。
アナウンサーの振りで、流れ出したCM。
蓮もそれを見るのは初めてだったので、支度をする手を止めてテレビに見入った。
『ミント』と題されたそれは、一番最初に撮ったものだ。
寝起きの男が汗ふきシートで、体を拭うと…
『オハヨっ!! 爽やかになったね!!』
手にしていたシートが、水色のパレオを着たキョーコになった。
翻るパレオの裾から、健康的な足が無防備に覗く。
ぴょんっと男に抱き着いて、裸の首筋に顔を埋めた。
カメラが男の顔を捉えると、『さえない男』から『いい男』に華麗なる変化を遂げていた。
『すーっごく、かっこよくなったよ?』
囁いて、芸能界一いい男である『敦賀蓮』の頬に、ちゅうっと可愛らしくキス。
「このシーン、撮るの大変だったんだよなぁ…」
キョーコは目を伏して、蓮の首筋に再び顔を埋めてしまう。
『ミント』はこれで終わり。
次に流れたのは、『シャボン』と題された3パターンめの物だ。
『あっちぃ…』
寛げた襟の中に手を入れて、さえない男は汗ふきシートで滲む汗をぬぐった。
すると、
『さっぱりした?』
またしてもシートは、キョーコに変身して…。
真っ白なパレオも眩しく、蓮に変身した男の腕に納まった。
少しだけ透ける素材のそれは、優しく可憐にキョーコの体を彩っている。
『とっても。いつもありがと』
蓮はキョーコに囁くと、その頬にキスを落とす。
すると
『どういたしまして?』
と実に可愛らしく、はにかんだような笑みを蓮に返してくれる。
この商品のキャッチコピーは、『さえない男も見違える』だ。
蓮がこのようなCMに出るのは実にめずらしく、女子アナは相変わらず興奮した様子で滔々と語っていた。
「おっと…」
画面右上に記されていた時計は、出発しなければならない時間を示していた。
慌ててテレビを消し、携帯と財布を掴むと仕事場に向かうべく、部屋を出たのだった。
落ち合った社。
彼は車に乗り込むと、
「あれはどうかと思うぞ?」
挨拶より何より先に、そう口を開いた。
「え?」
「わざとだろう?」
「何のことですか?」
そうとぼけてみるものの
「CMでのドヤ顔もそうだし、メイキングの時のいちゃつきっぷり。キョーコちゃんの腰を攫ってさ、ぴと~ってくっ付いて。公共の電波使って、なに害虫駆除してるんだよ!?」
(やっぱりお見通しか…)
社の目は誤魔化せないという事なのだろう。
キョーコが積極的に来る、『ミント』と『シトラス』。このバージョンの時は特に何もしなかった。
キョーコがキスをしてくれたり、撫でてくれたりと…。見せつける要素が沢山あったから。
けれど、蓮が積極的に動く『シャボン』と『無香料』では、キョーコは抱き着いてくるだけだ。
(もしかしたらカットされるかもしれなかったけど…)
キョーコにキスを贈ったその瞬間、瞳を伏せて笑みを刻み、カメラの方を流し見る。
制作サイドは、『害虫駆除』ではなく別な意味と捉えたのかもしれない。
「やだなぁ、そんな意図があったら。今頃カットされてますよ?」
そうしらばっくれてみる。
「嘘つけ!! わざとだろう!? その笑みが怪しんだよ!! おまえがさ、」
移動の最中、懇々っと社の説教を聞きながら…。
蓮は実に上機嫌で、車を動かしたのだった。
ぼうぼうと燃えていた嫉妬の炎は、公共の電波を堂々と使い、馬の骨駆除に励めたことで少しだけ、ほんの少しだけ。
沈静化することに成功したのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お粗末でした。
魔人様へ、捧げます
↑お気に召しましたら、ぽちっとww