いつもお世話になっている『リク魔人の妄想宝物庫 』さんからお預かりした罠です。
1.5周年のお祝いと、頂いていたリクエストが上手くこなせないお詫びを兼ねてのドボンです。
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「どうぞ…」
差し出されたのは、麦茶。
良く冷えたそれは、蓮の渇いたのどを優しく潤してくれた。
心の渇きまではうるおしてくれなかったけれど…。
「これです…」
部室の奥からキョーコは、大きな段ボールを引っ張り出してきた。
「三パターンあって…」
イグサで作ったアイテムが詰め合わさっているもの。
サーキュレーター等の家電が詰まっているもの。
夏向けのスキンケアセットが詰まっているもの。
ごくごく普通の、福袋だ。
唯一違うとすれば、パッケージ。
丈夫そうな紙袋には、アイスを片手に満面の笑みを浮かべているキョーコがプリントされていた。
CMの時の水着とは違う、ホルタ―ネックのワンピース。
それは露出も少なく、【何時もの】キョーコらしい。
「『冷やし京子』っていうからどんなのかと…」
過激な売り文句とは違う、平凡な内容に拍子抜けしてしまった。
「………事務所側から、NGが出たんです…」
蓮が安堵した言葉に、キョーコが脅えながら答えた言葉に蓮の眉が上がる。
キョーコの顔には、どうせなら一思いに、と刻んである。
部屋の隅に置かれていたロッカーの中から、紙袋を持ってきた。
無表情でひっくり返されたそれから出てきたのは…。
「これは…」
アイドルグッズかと思いたくなるくらい、キョーコの笑顔が溢れた品々。
キョーコ型のモバイルクリーナーに、笑顔がプリントされた団扇にタオル。
ストラップやバッジ。キョーコが普段使っているバッグを模したポーチ。
これでもかという位、キョーコに溢れたグッズばかりだ。
そこに刷り込まれた笑顔は、輝いていて見ているだけで幸せになる。
けれど…。
「これは、ダメだよね…」
ひんやりとしたその声に、キョーコの声は地の中にめり込みそうなくらい深い声で…。
「ですよね…。私、こんなのが出来上がるとは思ってなくて…」
そう答えた。
「これ、別撮りしたの?」
こんな過激なポーズをとって、カメラの前に身を晒したのだろうか?
カメラマンの煽りに乗って、その肌をフィルムに収めさせたのだろうか?
想像するだけで、滲む闇の住人のオーラ。
それを敏感に感じ取るキョーコは、壊れたおもちゃのように激しく頭を振り、全力で否定した。
「ち、違います!! CMの中で使われなかった絵を、起こしたんです!!」
「なるほどね…」
俯せに寝て、流し目をくれているキョーコがいる団扇を、取り上げた。
裏には、仰向けに寝て、こちらに腕を伸ばしているキョーコがいる。
纏う服は、CM第一弾の時の衣装。
キョーコの言葉に嘘はないようだった。
「こんな貧相な体、晒すのは申し訳ないんですけど…」
相変わらず自分に自信がないらしいキョーコ。
見当違いな謝罪を、蓮に投げてくれる。
「……大勢の目に触れさせたくなかったんだけどね…」
ぼそりと呟いた蓮の声は、キョーコの耳に届かなかったらしい。
「え?」
「事務所の判断に感謝だね」
「本当に!! こんなのが届いたら、がっかりしちゃいますもの!!」
何処までも方向性の違う心配をしながら、キョーコは力強く力説しだした。
蓮はそれを聞き流しながら、心の底から事務所の判断に感謝していた。
大胆な水着で作られたそれは、キョーコのイメージとはそぐわないし、過激すぎる。
事務所側がNGを出すのも当然だ。
(よかった…。こんなのが出回らなくて…)
事務所の判断に感謝しつつ、これが手に入らないのかと思うと…。
ほんのちょっとだけがっかりしてしまう。
「……第二弾も見たよ…」
「ひぃぃ…」
キョーコ型モバイルクリーナーを弄りながら、蓮はキョーコをひたっと見つめる。
この世の終わりの様な、悲鳴を上げたキョーコは今にも土下座しそうな顔をしている。
「あんなに、びしょびしょな予定じゃなかったんですぅぅ!! 最初の打ち合わせでは、ちょっと汗ばんでるかな? っていう設定だったので…。受けたんです…けど… あんなに、水を浴びるなんて聞いてなかったんですぅぅぅ!!」
「……」
(わかってて、受けたんだ…)
だからCMを受けるか悩んでいたのだろう。
益々冷えてゆく、室内の空気。
「わ、私みたいな新人が!! 衣裳ごときでお仕事断るなんてできませんものっ!! 『品物のイメージが伝わらない』とかで…。水がどんどん追加になっても、何も言えないですもの!! そ、それに!!」
当初の予定では、あそこまでびしょ濡ではなかったようだ。
現場で変更になる事もままあることだ。
その事を責めても仕方ないし、キョーコには抗う術がない。
口をパクパクと動かし、何か言葉を探しているようなキョーコに、続きを促すと。
「せ、先生も、仕事を選んじゃいけないって言ってましたし…」
(あっの、ひとはっ!!)
キョーコのその言葉に、親子の絆に更なる亀裂が入ったのだけれど…。
今のキョーコは、そんな事は知らないし、想像もしていない。
蓮は溜息を大きく付、まだ燻る怒りを何とか落ち着けようと試みて、話題をすり替える。
今最も気になっている、『冷やしキョーコグッズ』だ。
「……これ、どうするの?」
指差したのは、世界に一つしかないそれら。
「捨てようかと思ってます。こんなの使えないですし…」
自分がモデルになったそれを、使うなんてよっぽどのナルシストでもなければしないだろう。
「そっか…。じゃぁ、捨てておいてあげるよ」
「え? でも…」
「普通にごみ箱に捨てたら、誰かに拾われるかもしれないだろう? 絶対に安全な場所があるから、捨てておいてあげるよ」
戸惑う様なキョーコに畳み掛け、幻とも言っていいキョーコグッズを手に入れようと試みる。
応募で貰える『おまけ』が、ごく普通の快適グッズだと分かった今特に未練もない。
(散々やきもきさせてくれたお詫びに、この位はね…)
などと身勝手な事を考えながら、キョーコを言いくるめて一点物のそれらをまんまと手に入れた。
そうこうしているうちに、社が部室に顔を出した。
「お待たせ。蓮、そろそろ移動しないと…」
ひょっこりとドアの隙間から顔をのぞかせ、そう声をかけた。
社としてはゆっくりしている時間はないし、ゆっくりしたくもない。
(…これ以上胃が痛くなるのはごめんだもんな…)
蓮のブリザードに打たれるのも、キョーコちゃんがいぢめられているのを見るのも…。
そう思う社の心に気付いていないのか、蓮は素直に腰を上げてキョーコに別れの挨拶をしている。
それが終わってから、預かっていた書類を渡した。
「あ、そうだ。これ預かったんだ。新しい仕事だって」
キョーコがラブミー部室に戻った直後に、届いた以来の様だ。
そこには新しいCMの企画と概要が書かれていた。
さらっと中身を確認したキョーコは
「あ、第三弾…。決まったんですね…」
困ったような、嬉しい様な…。
何とも言えない声を出した。
(ぇっ!?)
社も中身を確認していなかった。
だから、あのCMの続きの連絡だとは気付かなかったのだ。
正に地雷と言ってもいいそれ。
折角沈静化したように見えたのに、
(また爆発させるなんてっ!!)
と、己の迂闊さを呪いたくなった。
ひゅっと冷えた空気。
その発信源は、もちろん蓮だ。
「れ、蓮!! そろそろ行かないと、本当に間に合わなくなるぞ? あと、相談したいこともあるから…。早く行こう」
またしても闇の住人になってしまった蓮を引きずり、次の現場へ向かったのだった。
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